昔の名前で。

 7月5日(月)


 俺を打席に迎えて松阪さんの表情が変わる。ここはただの対決ではない。今後の優勝争いのための布石の一つ。


 1球目は低めに外れたスプリット。2球目の前に俊足のカールを気にして一塁けん制。2球目はカットボール。内角へ鋭く切り込んでくるがボール。この人何種類いくつ変化球を持っているのだろう。低めにボールを集めての併殺狙いか。


 そして3球目は低めの4シーム。迷わずに振りぬく。レフトのパットンが上手い打球処理とバックホームでカールの本塁突入を阻止。その間に二塁を陥れての2塁打に。


  意図せぬコースだったのか帽子を取って汗を拭う松阪さん。ただ次のジョイナーの打席で捕手のキャッシュマンのパスボールで3対5に。


 そして6回裏。ここで松阪さんが突然の乱調。


 2安打と四球で満塁にされるとショーンに同点となる2点タイムリーを浴びて降板。代わった左腕リチャーズが二死までもっていったところ3番のドンゴの前で右腕のラモスにスイッチ。


 ドンゴが四球を選ぶと再び満塁に。さあここは4番の見せ場。

ラモスは全て4シーム。コースは見えるがなかなかクセのある球。3B2Sとフルカウント。7球目はなんとど真ん中。148km/hの4シームを2階席まで運んだ。たぶん今まで一番飛んだ。15号満塁本塁打グランドスラム


 ダイヤモンドを回ってベンチに戻ると

「お前、ゴルフもやれば才能あるんじゃね?今度教えてやろうか?」

何人かに誘われた。いや、野球だけで手いっぱいです。


 結局10対5で勝ち、ア・リーグ東地区の順位をレッドアックスと入れ替わって2位に浮上。地元TV局ローカルネットのヒーローインタビューにも呼ばれる。

「明日先発投手なのでぜひ球場まで来てくださいね。」

俺が「営業」スマイルをだいぶ減った観客席に振りまくとインタビュアーがぼやいた。

「健、明日もボストン戦だからまあまあ入ると思うよ。」

ヤーナーズ戦は満員になるがレッドアックス戦もその次に人気なのだ。


 7月6日(火)


 本日は先発投手(右投げ)。あれ?あまりお客さん入ってなくない?ボストンの先発は先月メジャーデビューしたばかりのブロント。ベネズエラ出身で22歳。ボストンの有望株プロスペクトの一角だ。150km/hを超える4シームと切れ味鋭いシンカーを武器にしている。


 新人同士の投げ合いに負けるわけにはいかない。もっともブロント氏相手に直接投げるわけじゃないからな。


 特に3番オルテガ、5番ベルトラのドミニカ出身の二人の強打者が相手だ。二人とも今年のオールスターゲームに出場を決めている。よっしゃこいつら打ち取って名を挙げてやる(イキリ)。


 とか言いつつ初回から低めからゾーンを外れる渾身のスプリット(落差は30cmはあった)をオルテガに2塁打にされて驚愕。4シームを中心に横スラと2シームジャイロの「フロントドア」「バックドア」を使ったいつもの組み立てに。


 2回にはベルトラを2シームをひっかけさせて遊ゴロに打ち取る。俺、案外行けんじゃね?(回復早い)。4回のドンゴの一塁悪送球からの絡みで1点失った(自責点ではない)ものの7回1失点(自責点無し)で5勝目をマーク。

 

 満塁本塁打グランドスラムの後の先発勝利。今まで当たり前のようにやってきたが、これに食いついてきたのが敵地であるボストンのマスコミだった。


ベーブルースバンビーノの再来か」

という記事を出した模様。ちなみにレッドアックスには「バンビーノの呪い」という笑い話にしてはかなり笑えない内容の逸話があり、看板選手のベーブルースをヤーナーズにトレードに出してから86年間ワールドシリーズを制覇できなかったというものだ。


 もちろん、本気で信じているわけではないが「なんか引っかかる」ジンクスなのだろう。次のワールドシリーズを制覇するのが86年後にならないために、ベーブルースと同じ二刀流である俺をトレードで獲得すべきだと言い出したのだ。


 そこにヤーナーズファンが、レイザースが俺を全体1位指名しなければヤーナーズが1位指名するはずだったのだという話を入れ始め、にわかに話題が沸騰してきたのだ。これもヤーナーズのスカウトのケリー・ジョーダン(1期参照のこと)が俺を推してくれていたのも事実。


 そうしてアメリカ東海岸のメディアが一斉に俺に注目しだしたのだ。金欠球団のレイザースならGMの頬を札束で2,3往復ビンタすればすぐにでも差し出すだろうと。まあ当たってますけどね。ただ金勘定だけは得意なGMなのでどこに売ろうかは考えると思いますよ。もちろん、これは俺に年俸調停権が発生した時の話だ。今年の話ではない。


 ただ「超人気球団がうちの選手を取り合っているらしい、どんなやつかちょっと観に行こうか」という話が観客動員数につながるといいのだが。


【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席81 打数72 安打27(長打14)四球5死球2 犠打2 打点24 二塁打5三塁打1 本塁打8 

(右)打席42 打数40 安打16(長打9) 四球3  打点23 二塁打2 本塁打7


(合計)打席123 打数112 安打43(長打23) 四球8死球2  犠打2 打点47 二塁打7三塁打1 本塁打15 打率 .375 出塁率.415長打率.857 OPS1.272

盗塁4


投手

(左)試合5  3勝0敗  39回 失点7 奪三振30  防御率1.62

(右)試合5  2勝 2敗  34回 失点9 奪三振23 防御率2.38

合計 試合10 5勝 2敗   73回 失点16 奪三振53 防御率1.97


 

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