反転攻勢へ

6月29日(火)


 俺を使わないでいるという「代償」というのもおこがましいが、チームのおかれた状況はあまりよくはない。ただし3位と言ってもまだ絶望するほどゲーム差が引き離されているわけではない。


 さて俺的には初めてのボストン。AAAのポータケット(レッドアックス傘下)との試合で空港までは来たことあるけど。アメリカでは古都の部類に入り、大学も多いことからアメリカでは「京都」的なポジションであり、実際に京都市と姉妹都市提携もしている。


 そして野球好きとしてはレッドアックスの本拠地フェンウェイパークだろう。ちなみに「フェンウェイ」は建てられた街の名前だ。都会に建てられたゆえにに左翼側が狭く高さ11.3メートルのフェンスが設置されている。これがかの有名な「グリーンモンスター」である。


 さらにこの球場はMLBの現役本拠地としては最古の球場でもある。幾度となく新築や移設の話が出るも根強いファンに反対されては白紙に戻るを繰り返しているそうだ。もはやアメリカ人(というか地元民)にとっては「甲子園」的な存在なのかもしれない。


 ただ、最新の機材とかはきちんと入っているもののロッカールームは古いし狭い。クラブハウスだけでも建て直してくれんのかな。歴史ありすぎて幽霊とか出そう。


 とりあえず松阪さんと丘島さんにご挨拶にでも行くか。松阪さんは先発投手なのでチームの練習時間は外野で野手のバッティング練習の球拾い中。俺も一応グラブ持参で。

「お、健。わかっとるやないか。(笑)」

正解でした。球拾いを手伝いながら近況報告。


「なんだよ。健が出てこない方が楽だったのに。」

それって褒め言葉ですよね?

故障けがじゃなきゃいいな、とちゃんと心配してたよ。安心しろよ。」


 試合は6番指名打者で先発。久しぶりの試合。ビジターなので声援があるわけじゃないけど。相手先発はジョン・リッキー。前回も対戦してチームは負けている。


 平日にもかかわらず3万8,000人の満員の観客がつめかけ、そのすべてがほぼレッドアックスファンだ。最初の2打席は左打ちで深い右中間に阻まれてフライアウト。


 3点を追う6回の第3打席は右打席にスイッチした。四球で出たゾブリストを一塁において5球目のカーブを打ち抜く。打球はグリーンモンスターを超えず上部に当たってグラウンドに落ちる。タイムリー二塁打に。3対1に。


 ところが先発のフィールズがその裏に2失点。5対1に。ドンゴの適時打でさらに1点返すもレッドアックスは7回裏に3点追加して8対2に。8回表、レッドアックスは先発投手リッキーから丘島さんにスイッチ。ゾルディストが再び四球を選んで一死一塁で俺に打席が回る。丘島さんは左腕なので引き続き右打席に。


 スプリット(B)、4シーム(S)、カーブ(B)、4シーム(S)と来て5球目のスプリット。甘い軌道だ。今度はグリーンモンスターを超える12号2ラン本塁打。これで8対4。ここで丘島さん降板。


 そして9回表。代わったバラッドからゾルディストの適時打で2点差につめよって二死二塁で俺。本塁打なら同点。慌てたレッドアックスは抑えのパルペボンを投入。

 2B2Sからの156km/hの4シームを弾き返す。


 しかし、グリーンモンスターを超えられず上部に当たって二塁打。ゾルディストが生還して1点差。


 ただ次の代打に出たアバロスが三振で一歩及ばず、8対7で敗戦。


 負けはしたものの俺は手ごたえをを感じられた試合だった。俺がクラブハウスへ引き揚げようとしていると監督が後ろから声をかけてきた。


「健、今日は良い仕事をしてくれた。キミの存在感をみんなもひしひしと感じられただろう。キミがいないと勝てない試合も多かったが、キミ一人だけで勝てる試合もまた、ないのだよ。今日の試合ゲームのようにね。それだけは忘れないでほしい。」

「はい。」


 言いたいことはわかる。チーム内の和を乱すなということだろう。ベンチは俺を使いたいが、増長されても困るのだろう。


6月30日(水)


 先発投手が松阪さん。1週間前にDLが明けたばかり。ただ先回の登板は非常に良かった。ただたまに交流戦で会うくらいならともかく同リーグ同地区なので、遠慮している場合でもないし、全力で向うしかない。手負いとはいえ「百獣の王ライオン」なのだから。


 亜美と通話でそう話をしていたら「丘島さんは?」とフリを入れられる。

 丘島さん?……オカピかなぁ。丘島だけに。そういやオカピってどんな動物だっけ?亜美が笑いを噴き出す。

「あんたそれ、激レアだけど草食動物だよ。失礼だなぁキミは。まぁ確かに投球フォームは激レアですけど。」


 フェンウェイパークのブルペンは珍しいところにあって、たいていの球場がそれぞれのベンチ脇や屋内にあるのとは違い、外野のセンター後方にあるのだ。しかも両チームのブルペンが背中合わせという。きっと狭小地に建てられた変形球場だからなのだろう。


 そこで一心不乱に投げ込む姿はやはり王者の風格があった。


 【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席69 打数64 安打24(長打12)四球3死球1 犠打1 打点18 二塁打3三塁打1 本塁打7 

(右)打席38 打数35 安打14(長打7) 四球3  打点17 本塁打5


(合計)打席107 打数99安打38(長打19) 四球6死球1  犠打1 打点35 二塁打6三塁打1 本塁打12 打率 .384 出塁率.415長打率.828 OPS1.243

盗塁4


投手

(左)試合4  2勝0敗  31回 失点5 奪三振25  防御率1.45

(右)試合4  1勝 2敗  27回 失点9 奪三振18 防御率3.00

合計 試合7 3勝 2敗   58回 失点14 奪三振43 防御率2.17





 


 




 


 


 


 


 

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