野球とは確率のスポーツである。
5月17日(月)
野球は「確率のスポーツ」と言われる。この言葉をひっくり返すと「『絶対』というものがないスポーツ」なのである。全打席で本塁打を打てる打者もいなければ、全打者相手に三振を取れる投手もいない。もちろん全試合で勝利できるチームもいない。なにしろ2勝1敗のペースでずっといければ「世界制覇」できるスポーツなのだ。
言い訳になるが、俺は相手の4番打者秋シンシュに神経を集中しすぎたのである。彼を4打数無安打4三振に切って取ったもののほかの打者に打たれて7回2失点。QSは果たしたものの「なお」レイザースは1得点。
俺が降板した後、8回で追いつき、延長11回までもつれてなんとかサヨナラ勝ち。おかげさまで敗けだけはつかずにすんだ。やはり試合に「余計な」感情を持ち込むとろくなことにはならない。
5月18日(火)
「健、昨日はよく休めたかね?」
監督の問いにイラっとくる。昨日ナイトゲームで今日はデーゲームですが、そういう聞き方をしますか?周りの選手もやや殺気立つ。
「ボチボチでんな。(関西弁ならぬアメリカ南部訛りで言ってやった)。」
「健、今日は5番指名打者で先発だ。」
こちとら明日からヤーナーズ戦(
救いなのは日本人と違ってビールが「キンキンに冷えている」ことを要求されないことだ。異世界を旅していたころは冷蔵庫もないのに冷えた
先発投手はこちらがブライス、インディペンデンスがデイブ・ハフィントンという左腕対決。ハフィントンは昨年デビューで11勝を挙げた期待の若手だが今季は1勝5敗と勝ち星に恵まれない……というか防御率が5点台なので負けが込んでるというところ。
ストライクとボールがはっきりしすぎ。
こちらも3回表で二死三塁二塁のピンチだったが、ブライスが秋を三振に仕留めて乗り切った。ピンチの裏にチャンスあり。ドンゴリアの
四球の後の一球目。真ん中高めの絶好球。十分に引き付けて打ち返す。ドームの二階席へ飛び込む2号
この後もこちらが加点し、10対2と大勝した。秋さんも1安打1打点と活躍したものの、南高麗メディアが試合後に俺のところに「追い打ち」インタビューには来るこほどではなかったようだ。予想通りだけど。
そして一路ニューヨークへ。バスで球場近くにあるセントピーターズバーグ=クリアウォーター国際空港からチャーター機でニューヨーク(JFK)国際空港へ。4連勝しての移動なのでチームの雰囲気は絶好調。
日付が変わる前にはホテルに到着。四つ星ホテルで一人部屋。タイムズスクエアまで歩いていけるくらいには中心街。ホテルにはフィットネスセンターもあるので希望すればトレーニングもできる。
部屋も素敵。ちょっとテンション上がって思わず亜美に通信してしまった。まあ日本だと昼休みくらいの時間だからいいかな。俺がホテルの話をして
「ホテルが7番街なんよ。」
と目を輝かすんだが反応鈍い。
「はいはい。」
「6番街も5番街も近いんだぜ。」
「そりゃ『7番』街だからねぇ。」
「明日、外をジョギングしたら俺かっこよくね?」
「あんたが外走ったら強盗に遭いそうだからやめときな。」
亜美的には俺が満塁本塁打を打ったことをニュースで聞いていてその話かと思っていたらしい。
「うんうん。もう完全に東京に修学旅行に来た田舎の中学生並みのリアクションやね。まぁずっと埼玉とフロリダの田舎にしかいなかったからそうなるのも無理はないけど。とりあえずテンション爆上がりなのは理解したわ。」
5月19日(水)
結局、午前中はホテルのフィットネスでお世話になり、ランチ(和食)を食べてから球団の用意したバスでヤーナーズスタジアムへ。
クラブハウスのロッカールームに入ると日本人記者さんたちが増えていた。これまでは由香さんしかいなかったが。名刺をもらう。ニューヨーク支局の人が多く、いつもはナ・リーグのニューヨーク・メイティーズ(メッツ)の担当だそうだ。
「うちの社の『健ちゃん担当』はニューヨークで合流って感じだと思うよ。」
今季のメッツには元東京ギガンテスの
そして、今日の俺の出番は「3番・指名打者」での先発出場であった。
【沢村健の今季成績(通算)。】
打者
打席13 打数11 安打4(長打2) 四球2 打点5 本塁打2 盗塁1
打率.363
投手
試合1 0勝0敗 7回 失点2 奪三振8 防御率
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