「〇〇当番」と今季「初対決?」

 5月14日(金)


日本人というのはどうにもめんどくさい人種な気がするのである。


 お祝いをしてやったのに礼がなってないとか、その場で礼を言っただけでは足りず、後日改めて会ったときに礼がなかったとか、もうそこまで言うなら何もしなければいいのに、ということが多々ある。


 もちろん「陰」にこもる日本風も問題だが、なんでも公に晒すアメリカの「陽」の文化も大概だと思う。


  俺は「打合せカンファレンス」にて改めて紹介を受け、ソファの位置も確定したのである。まあトラブルさえ避けられれば俺はどうでもいいのである。


 ただメジャーリーグとはいえなんでもこちらの要望が通るわけでもなく、自分たちで解決しなければならないこともあるのだ。


 「健、今回もウェジー(ウェズリー・ダビッドソン)と一緒に『酒当番』な。」

「選手会長」的な立ち位置のフィールズが言った。


「はい。」

メジャーリーグも「新参者」には「係」が言いつけられるのである。俺は「先発投手グループ」でちばん下。下から二番目のウェズとともに「酒当番」に任命されたのだ。実は昨年の初昇格の時と同じ「係」。


 試合後にお気に入りのお酒で自らの労をねぎらいたい選手は多く、そのお酒のバリエーションも人さまざまだ。


 その要求を一人一人に尋ね、業者に発注し、移動のバスや飛行機に積み込み、必要に応じて配布するのが「酒当番」なのだ。過酷な業務に聞こえるかもしれないが、過酷そのものなんだよ!(切れ気味)これは先発投手がやることが多い。ピッチングしない日は練習だけでオフだからだ。いや、俺は野手兼任なんですけど。


 「お前は日本人なんだら通訳がいるじゃないか。」

昨シーズンまで同じ日本人選手の磐村いわむらさんがいたからそう思っているのかもしれないが俺はお前たちと普通に英語で意思疎通コミュニケーションとっているだろうが。いや、マシューにも手伝ってもらうか。どうせ俺がメジャーにあがれば「食事担当」の業務は要らないわけだし。


 ちなみにほかにも試合中や前後に消費するお菓子を手配する「おやつ当番」、湿布薬などを調達し薬箱を管理する「薬当番」などもいるのだ。これらはスタッフではなく選手の仕事。


 本来は飲酒が許可されるのが満21歳からの州も多く現時点で19歳の俺にとっては法律的にアウトやろ。


「そこは発注は俺、搬入は主にお前や。」

ただ今期はこれまでほぼひとりでこの過酷な係をこなしてきたウェズにとっては俺の復帰はうれしかったようだ。くそ、ヘル吉が昇格したら俺の仕事を振ってやるわ。


しかしウェズにあっさりと論破される。

「あほか?その時ぬけるのはお前じゃなくて俺な!それまでに仕事を覚えておけよ。発注は(成人年齢の)エリクソンで、積み込みはそのままお前やれよ。」

考えてみればおっしゃる通りや。


 ただ「酒当番」は遠征直前と遠征中の試合だけなので今日からホームゲームには仕事はないのである。だが、今日は「おやつ当番」の手伝いも命じられている。お手伝いも「兼任」なのだ。


 チームの練習が終わり、ビジター側にグランドを譲る。ヰチローさんがベンチから出ていくのが見えた。挨拶にいかねば。


俺が外野フェンス際でアップしているところに声をかけると

「おお、健ちゃんホントに昇格してたんか。」

無関心そうな表情で返してきたが、実際には昇格後の住まいとか野球以外のことについていろいろと突っ込んでくる。心配してくれてありがたかった。野球についてアドバイスを求めたらかえって拒否反応が。


「野球について聞かれてもな。シーズン前ならいいけどシーズン中はだめでしょ。これから対戦するわけだし。ニュースじゃ俺たちは『対決』することになってんだからさ。それにお前のマイナーでの可愛げのない成績も知ってるし。」


 ですよね。「無害な」後輩を装えるほど俺のAAAでの成績は大人しいものではなかったわな。


「それに、もし俺が適当なこと言ってお前の調子を落とすつもりだったらどうする?これからチーム内での競争に勝っていかんだろ。ここにいる全員がお前の敵なんだぞ。まずはその甘えた性善説から捨てた方がいい。」

とかなんとか言ってきっちりとアドバイスしてくれてありがとうございます。



 試合は「デビュー戦」だったが出番がなかった。チームも4対3で敗れる。ヰチローさんは、二塁打を含む3安打1打点と大活躍。打率も.356まで上昇。新人に「格の差を見せつけた」というところだ。









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