母の日の惨事

 5月9日(日)


 5月の第二日曜日は「母の日」だ。メジャー、マイナー問わず父の日と母の日は家族イベントをすることが多い。昨日はレイダースに負けたが、すでに2勝はしているので少々気楽ではある。


 今年の球団の母の日の企画は「ピクニック」。グランドで親子でキャッチボール、ベースラン大会を楽しみ、お昼は外野スタンドに設置の食べ放題のバーベキューが出され、そのあと夕方5時から始まる試合観戦。これで大人2200円、子供1500円くらい。


 この日ばかりは両チームとも練習中止。俺たちは荷物運びの手伝いまで回ってくる。でも肉を食ったから文句は言わない。俺たちがひどい目にあったのはそのあとだ。


 「今回も協賛ユニフォームなので、試合後にサインをしてスタッフに返却しておくように。」


 そして袋にはいったユニフォームを手渡される。あー、母の日だからピンクのユニフォームなんだ。ちょっと恥ずかしいな。あれ?スパッツ?パンツ(ズボン)は?


 そう、アメリカ映画「プリティ・リーグ」で登場したアメリカの第二次大戦中にあったという女子プロ野球リーグ仕様のユニフォームだったのだ。


 トレンチコート風のスカートがついた長めのシャツに下はパンツ(ズボン)ではなくスパッツを履くのだ。大腿部ももは丸出しなのね。


「おい、シャワールームで足のムダ毛は処理しておくように。毛むくじゃらの脛とか勘弁してくれ。」

ユニフォームを広げたままの姿勢で固まっている俺たちにコーチが声をかけた。俺はすでにやってます。実家に妹がいるもので。


 全員が死んだような顔でくだんのユニフォームに袖を通すと球団の女性スタッフが俺を呼びに来た。

「健、あなたにはさらなるミッションがあるのよ。」

おそらく使命ミッションというよりは趣味に違いない。彼女たちは俺を白く塗りたくり口紅ルージュ頬紅チークとアイシャドウを乗せたのだ。


 俺は「転生の女神」によって盛られた「アジア系」の美形設定なので女装が極めてしっくりとあうのだ。来世は「三船敏郎ミフネ」風にしてもらおう。そして金髪のウイッグとつけまを盛られると自分でも「かわいい」と思えてしまうレベルの「男の娘」に仕上がっていた。


「そうよ。これよこれ!」

こいつら腐女子だくさってやがる!日本製のアニメは確実にこいつらにとって優しい世界を築き上げてやがる。確かにくだんのリーグもきっちりと化粧はさせていたがそこまで再現する必要はない。


 「すごいな健。酔ってたら抱けるわ。」

「俺もナシ寄りのアリというか。一晩ならいけるわ。」

いらないです。チームメイトのキショイ感想。


 しかも俺は彼女たちの希望によって「4番指名打者」に。もはや母の日カンケーねえ。ただSWBレイダースの選手も白基調の同じタイプのユニフォーム。伊川さんが

「うわ、健、お前女装がめっちゃはまっとる。受けるわ!」

と大うけだし。伊川さん、あんただって女装してますし。そしてスカート履いて「がに股」はやめてください。マシューが「お宝お宝」と言いながらカメラ回してるし。

「これは由香に頼まれてないから高く売りつけてやる」んだそうだ。俺にも半分よこせよ。


 そして、いちばんメンタルにダメージを負ったのが今日先発のヘル吉だった。

「僕恥ずかしいよぉ。」

顔は相撲取りの「貴〇花」(貴花〇時代)に似てるんだけど、それで身をよじられましても笑うしかない。6回に5失点と崩れチームも3対9で敗れ、今季初めての負け投手に。俺も3打数1安打2四球と普通の成績で終わる。


 なにもいいことがない母の日に。


 一方、亜美は同日の春季リーグに9番レフトで初先発。帝國教育大(帝教)相手に5打数3安打と大暴れして、しかもサヨナラヒットを放つという快挙。

 由香さんは「もう、カワイイだけじゃない」というタイトルで記事を書くそうだ。


「健、キミの記事のタイトルは『カワイイがすべて』でいいかい?」

思わぬマシューの日本語力の高さにクリティカルヒットを浴びた俺であった。

いっそ「カワイイは正義」にタイトルを変更してもらおうかな。


「カワイイ振りしてあの子、わりとやるもんだねっと」(昭和脳)

 

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