三度「巡回コーチ」が来た。
5月5日(水)
昼前には球場到着。サングラスかけて笑顔のマシューがこちらに手を振ってきた。
マシュー君、出迎えごくろう。
「遠征おつかれさん。これが日本人の言う『テイシュ ゲンキデ ルスガイイ』ってやつだね。」
マシュー、どこでそれを覚えてきた?家事のおサボりは許しまへんで。
ちなみに明日は試合が午前11時に始まるデイゲーム。練習は試合後というダルいスケジュールである。ただウォームアップは必要なので朝8時には球場入りが必要だ。
なのでもう家に帰ってゆっくりするしかない。
所帯持ちの連中はこれから家族サービス。
5月6日(木)
今日からニューヨーク・ヤーナーズ傘下のスクラントン/ウィルクスバリ・レイダースをホームに迎えての4連戦。
グラウンドはビジター側が使っているため室内練習場でウオームアップに励む。
「今日はしっかりと勝っていこうな。」
珍しくコーチ陣が練習を見に来ている。雰囲気も心なしかピリピリ感がある。
「例の『
ヘル吉が俺に耳打ちした。
「へえ。なんか俺たちやらかしたんかな?最近負けは込んでるけど一応首位は守ってんだから怒られる心配はないだろうに。」
グレッグ・ジーマン。かつての名選手だったそうだが、笑うと顔面がクシャっとなるところが憎めない好好爺でもある。昭和の「中の人」に言わせると、アメリカアニメのほうれん草の缶詰でパワーアップする
ごく短期間でもあるが日本での選手経験もあり、それが日本人への理不尽な差別がない道理にもなっている。面白いのが彼が背負う背番号で、野球界にいたキャリア年数を意味するらしく毎年数字が増えていくそうで今年は「62」だそうである。つまり、62年目ということだ。ってことは80歳くらいなんだろうか?それで『
「御前試合」ということもあり、激しい乱打戦の末13対8で勝利。バスで9時間の移動時間で今朝ついたばかりの相手チームはかわいそうだったが。
俺も18,19号と2本塁打を放ってアピール。
試合後、遅めの昼飯を食べてから練習に入る。グレッグがユニフォーム姿で巡回している。コーチが後ろについて説明をしている。
俺もノルマをこなし、打撃練習の順番待ちをしているところにグレッグが話しかけてきた。
「健、今日は大活躍だったな。外野守備も様になってきたじゃないか。」
褒められる。
「打撃フォームもだいぶアメリカらしくなってきたな。上背にも筋肉がついてきたようだが下半身も怠らないように。あと、明日は内野守備と投球練習も見せてもらえるかな。」
うーん。これってもしかしてチャンス到来?
5月7日(木)
今日はナイトゲームなので午前中は大学のプールに予約をいれていた。デューク大学はガチで頭のいい大学。スポーツでは全国制覇5回のバスケットボールの名門校である。なので時々バスケの選手?と聞かれることもあるのだ。
「その身長でも『ガード』ならできるんじゃない?」
いや、ピッチャーしかできませんて。アメフトとバスケのフィジカルはあまりにチート過ぎるのだ。
アパートに戻るとマシューが撮影機材の準備をしていた。俺の不思議そうな視線に苦笑交じりに理由を語る。
「由香から仕事の依頼さ。日本人対決かもしれないそうじゃないか?」
そうか、
午後はブルペンと内野練習。これはグレッグのリクエスト通り。グラウンド練習を終えて引き揚げてくると伊川さんとすれ違った。
「なんや俺に取材が来て珍しいと思ったら健のバーターだったわ。今日はいい具合に(球筋)が荒れとるから打てんでも恨むなよ。」
夜7時にプレイボール。俺は2番二塁手で先発。これもグレッグのリクエスト通りだ。先頭打者のデズをいきなり四球で歩かせて俺。伊川さんの言葉とは裏腹に予想がつかないから荒れ球なのであって、神眼魔法で球筋が見える俺にとってはただの
先制の2ラン本塁打。わずか29試合で20号に到達。チームというかリーグ2位のダン・ジャクソンが現時点で9号でも
伊川さんは4回3失点で降板。ただこちらも6回表に追いつかれたので勝ち負けはつかなかった。それだけがホッとしたところ。
さらにその裏から逆転に成功、9対3で連勝を飾った。
グレッグは試合終了前にはホテルに帰ってしまった。(80歳の爺様なので仕方がない)しかし帰り際にベンチは
「健には近いうちに良い知らせが届くかもしれない、だそうだ。」
「マジすか?」
俺は小躍りしそうになるのを抑える。
「ああ。くれぐれも『かも』を強調しておくように、と言われたがな。」
かもね、かもね……(昭和脳)100%はないかもね?
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