「トンネルを抜けると」
5月3日(月)
今日はヘル吉が先発。ヤツが先発すると翌日は俺が先発というローテーションなのでわかりやすい。いつもより少しゆっくりな時間まで寝て午前中はジムでトレーニング。レッドウインズと提携しているところを使わせてもらうのだ。
午後に球場に入る。レッドウインズの本拠地「パイオニア・フィールド」は比較的新しい球場だ。3試合目ともなるとだんだん相手チームの連中とも顔見知りになり声をかけられるようになる。
安くて美味い店とかもっと早く聞いておけばよかった。
今日は1番センターで先発。1回裏。いきなりヘル吉が相手に先頭打者本塁打をくらって0対1になったが2回表にこちらがすぐに反撃。
2つの四球と2安打で2点を返し二死三塁一塁で俺に打順が回ってくる。先発のジンクスはボールとストライクがハッキリしすぎ。17号3ラン本塁打でこの回5点目。
その後は小刻みに点を重ねて10得点。投げたヘル吉も初回の一発のみの7回1失点で5勝目をマークした。俺も8回には翌日の先発に備えてベンチに下げられるくらいに余裕だった。
5月4日(火)
これで交流戦遠征最終日。そして、明日は待ちに待った休養日。交流戦そのものは続くのだけど次はホームに迎えての戦いになるのだ。そう、休日のために俺たちの魂は一つになった!
俺は2回のソロ本塁打による7回1失点。打線も機能に引き続いて10得点。10
対2で勝利して俺は4勝1敗に。
亜美のデビューを見届け再渡米するという由香さんから電話があり俺は
「ついにトンネルを抜けましたよ!」
と意気揚々と報告する。由香さんは
「おめでとう、まるで
「あ」じゃねーよ。日本人初のノーベル文学賞受賞作家川端康成先生の代表作である「雪国」。その冒頭の一節は「トンネルを抜けるとそこは『雪国』だった」のだ。縁起でもねー!
ただその不穏な予言は的中。不調というトンネルを抜けたはずの俺たちにすぐに「雪国」並みの寒い現実が降りかかる。ナイトゲームを終え、俺たちはバスが「空港」へと向かうと思っていた。しかし、現実はこのままダーラムまでの12時間のバス移動であった。
まさにお寒い世界が待ち構えていたのだ。
「なんとか昼前につけば半日は休日が残っているさ。」
俺たちはあきらめて目をつむった。だったら休日ではなく「移動日」と言ってほしかった。
そのころ俺視点でないところで俺の運命が語り合われていた。「1人称視点」での物語の欠点は同時進行する事象を取り入れられないとこにあるのだが。とりあえず監督に後で聞いたことを再構成してる。
GMのアンディ・フリーマンの前に呼ばれたのはレイザース監督のジョー・マディソン。そして巡回コーチのグレッグ・ジーマン。
激戦区のア・リーグ東地区の首位を走っているにもかかわらず、呼び出された二人。
GMの指摘点は2つだった。一つは指名打者を任せるパット・レベルが大不振なこと。好調な打線にあって打率2割で本塁打が2本。鳴り物入りでFAで入団したが昨シーズンも打率.221、14本塁打で終わっている上、今季も同様な「低空飛行」なのだ。
もう一つは昨シーズンのストッパーだったJ.P.パウエルがスプリング・トレーニングで故障し、今季絶望なことが判明したこと。
チームの好調を維持するために今から準備をしておくようにということだ。
監督と巡回コーチは顔を見合わせる。二人の結論は簡単で一つしかなかった。
「アンディ。それを解決できるのはキミしかいないよ。」
「僕がかい?」
GMはまさか解答を自身に振られるとは思っていなかったらしい。
「そんな優秀な人材を、こんな(金欠)球団がトレードで取れるとでも?」
監督は意地悪そうにわらい、床を指さした。
「別によそから獲ってこいとはいわんよ。キミが出し惜しみしてAAAで飼殺している選手のことをもう忘れたのかい?月間で本塁打16本の圧倒的長打力。昨日までに4勝をあげ先発すべてQS(※注1)に成功している左のエース。……そう、沢村健だ。彼を上にあげればあなたが言う問題とやらは即座に解決するだろう。」
「それは
アンディは口ごもる。チームが好調な今シーズンなら、
「だいたい私は常々開幕から彼を使いたいと言っていたよね。たまたま今季はこれまではうまく行っているがね。だが最強の
グレッグがそこで手を挙げる。
「それでは。わしが直接健を見にダーラムまで行ってきましょう。ちょうど
(※注1)QS=クオリティ・スタート。先発投手が6
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