旅の恥はかきすて。
5月2日。(日)
日本ではゴールデンウイーク。そのためか球場に日本人旅行客の姿が増えている。日本人は服装と、持っている携帯電話が「折り畳み」式なのと、デジカメを持っていることで見分けがつきやすい。
きっとわざわざ俺を観にきてくれている人も多いのだろう。少しメジャーなコースから外れているので個人旅行か、あるいはツアー客でも「オプション」を利用している人たちがほとんどだ。
試合前にスタンドからサインを求めてくる人もいる。俺はまだアメリカでは野球通以外では「知る人ぞ知る」程度の存在。なのでビジターチームの時にサインを求めるられることは少ない。だから日本人がほとんどだ。
ただ、サインをもらう準備ができている人とそうでない人の差が大きいかも。ちゃんとサインペンとボール(あるいは色紙)をもってくるお客さんもいれば、サインペンを失念して同行者から借りる人もいる。さらには書くものも持ってないのでガイドブックやらノートの切れ端やらを差し出す人、中には着ているTシャツの背中に描けという
マイナーリーグは階級によってスタジアムの収容人数も変わる。AAAは8000人から1万2000人クラスのが多い。今日は昼1時からのデーゲーム。日曜日なのだがお客さんは半分くらいだ。
俺は1番センターで先発出場。初回からヒットで出塁した俺を置いてダンの9号2ラン本塁打で先制。5回にも俺の16号3ラン本塁打で5対0と順調な試合運び。
ただそこからが良くない。その裏に一気に4点を返され7回に追いつかれる。こちらはヒットは出るが3つの併殺でことごとくチャンスをつぶす展開。延長10回にサヨナラ負け。また連敗。せっかく日本から応援に来てくれたのにゴメン。
俺はまたもや喫した連敗にがっかりきたが、チームの連中はそうでもない。今日はデーゲームで明日はナイトゲーム。つまり事実上の「半休日」なのだ。開幕した4月8日以降1日たりとも休みがないマイナーリーガーにとってはたかだか36時間の休憩が「休暇」に見えてしまうのだ。
「健、飲みに行こうぜ。」
「俺は未成年ですからパスですよ。」
俺は彼らに付き合わず、というか未成年が「飲み会」に付き合うわけにもいかず、ホテルの部屋で亜美との通話の約束時間をまつことにした。
亜美は華々しい「デビュー」を飾ったわりに不機嫌なご様子。
「なんか
あながち間違いではないだろう。確かに手加減はしたが、まさか亜美に
点差もあったし、8回二死無走者という
うまくいけば報道によって世間の関心が亜美へ向けば、首都大学リーグへの人気が高まるかもしれない。それだけ野球人気の低下は切実な問題なのだ。だが亜美はそれが面白くないのだろう。とはいえそれを狙ってのことであれば両学の監督は大した策士だし、期待を上回って応えた亜美はさらにすごい。
「私は客寄せパンダになりたいわけじゃない。正当に評価されてプロ野球選手になりたいだけだから。」
いやいや、「パンダ」という存在力はプロアマ問わず十分に魅力なんですけどね。
「亜美はセンスだけなら十分にNPBでも通用すると思う。セ・リーグの関東3チームの
ただ俺の正当な評価という「慰め」も彼女には通用せず。
「やっぱり私は非力か。これって差別よね。」
「しょうがないだろ。亜美のパワーは女性としては抜きんでているけど、男の世界だとどうしても『並み』だ。やっぱり女性のパワーには限界がある。それで(打撃)フォームも改造したんだろ?」
それでも彼女の肉体はもともと「転生の女神」が異世界の亜美の転生先として特別にあつらえた肉体だ。普通の女性の肉体的限界を超えていても不思議ではない。だが男性のプロアスリート並みとまではいかない。
亜美は打席で結果は出したものの今日の試合には使ってもらえず、つくば大は東海総大に連敗して勝ち点を取られたとのこと。その後は各種マスコミからの取材の嵐だったらしい。
「ただでさえ『女』ってだけで気を遣われてるのにさ。悪目立ちしたら余計に肩身が狭いって。」
結局、彼女の愚痴を聞いて終わり。亜美は「野球」がしたい、それも自分が挑戦できる最高の舞台で戦いたいだけなのだ。でも彼女の意思とは裏腹に新たな「ヒロイン」と祭り上げられていくことになる。
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