ライバル再び?
4月23日(金)。
「よぉ、健。調子よさそうやな。今日は投げんのか?」
フレッド・フリードマンがこちらの練習中に顔を出してきた。一応先発投手は秘密ではあるが、中4日で投げているわけだから目星はつくだろうに。しかもブルペンではなくバッティングゲージの順番待ちしてんだからまるわかりだろ。
「それは明日のお楽しみな。しかし、遠路はるばるの割に元気そうやないか、フレッド。」
なんかもうきちんと「友人」扱いしないと怒られそうだな。ちなみにグィネットからダーラムまでバスで6時間近くかかる。
「それがな。昨日までトレンズとやってたんや。だから移動時間は半分やで。」
なるほど。ノーフォークからの連続遠征だったわけか。ノーフォークからダーラムまではバスで3時間ほどである。
グィネットは親球団の所在地アトランタの近郊にある。アトランタ空港はアメリカ南部のハブ空港なのであちこちに地方便が飛んでおり、ノーフォークまでは飛行機で行ったのだろう。飛行機といってもエコノミークラスだし、窮屈なのはかわらない。
「俺も絶好調や。今日は負けへんからな。」
走り去る後ろ姿に俺も首をかしげる。
「なんか今日はゴキゲンだな。」
俺の前に並ぶ捕手のカリーナが教えてくれた。
「そりゃ昨日本塁打が出たからじゃないか。」
「そいつはめでたいね。」
「いや、まだ2号らしい。だから健に先を越されそうで心配だったんじゃないの?いや、もうあいつお前のこと好きだろ。」
「リベラルが言うとギャグにならんからやめてくれ。」
メジャーも開幕して2週間。そろそろ昇格の話もちらほら聞こえはじめてくる。ライバルの動向は気になるのだろう。
「健は気にならんのか?いや、愚問だな。お前の昇格を嫌がってんのはうちのGMだけだしな。」
とはいえ俺が気になるのは日本の話だ。明日の大学の春季リーグ戦の試合に亜美が出場できるかどうかの方が気になるのだ。
今日はヘル吉が先発。俺も1番センターで。デズのやつが仮病ではなくガチで痛みをぶり返し、
試合の方は、ヘル吉が3回2/3を3失点。今年のヘル吉らしからぬピリッとしない内容だが、手にマメができたということでそのまま降板。7回に俺の四球からアルジャーノンの2ラン本塁打で逆転して勝ち負けはつかなかった。チーム自体も5対4で勝って連勝を8に伸ばす。
チームの雰囲気が良いので互いへの足の引っ張り合いがない……いや、目立たないだけなのかもしれない。
4月24日(土)
今日は、前回のブレイザースとの対戦と同じ右投げでの先発。俺は左投げと右投げの先発が交互になっている。右投げの日は右でしか投げない。だから「両投げ」ではなく「左右投げ」なのだ。だからと言って球数制限がほかの投手より増えるわけでもない。……増えなくてもいいけど。
今日はとにかく身体が軽い。自分のイメージと実際の動きが一致する感じ。
「いい感じだな。」
ブルペンで俺の球を受ける捕手のロボ(ロバーツ)に褒められる。俺が今の感じを説明すると
「あるある。若いっていいな。体と技術の成長がかみ合ってきたんじゃないのか。ここで満足せずに鍛えていけるかどうかでお前の将来が決まるわ。ちなみに俺はさぼって失敗したけどな。」
冗談とも本気ともつかぬアドバイス。彼も南米ベネズエラの出身。スペイン語でやりとりしていると無茶苦茶仲間扱いしてくれる。ジョーに言われるまでもなくコミュニケーションは大事だ。
ホームチームの後はビジターのブレイザースが練習。食堂で飯(ホットドッグ2個)と足りないので弁当を食い、ミーティングの後に相手の練習も少し見る。
フレッドが俺を見つけて指をさしてきた。なんだか嬉しそうだ。親球団があちらはナ・リーグ、こちらはア・リーグなのでそこまで「敵対視」はないのだろう。俺も指をさしかえす。
第1球目から100マイルを計測。それからはスライダーと2シームで左右に散らし、4シームで四隅をきっちり決めるというオーソドックスな配球。それがかっちりとはまり凡打の山。7回2死まで四球2つだけ。1番打者のヤングに二塁打を打たれてしまい、初のノーヒットノーランはお預けになったが、8回無失点を96球でクリア。
今季一番の出来で3勝目。打線も俺抜きで9点も取ってくれて十二分に援護。9対1で9連勝を飾った。
意気揚々と迎えの車の助手席に腰を下ろすとマシューがちらりとこちらを見てから言った。
「亜美ちゃん、出番があったみたいだよ。由香から連絡があった。」
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