チームの快進撃!

 4月20日(火)


 昨日は夜10時過ぎまで試合をしていたのに、今日は午前11時からのデーゲーム。しかも試合後にはダーラムにとんぼ帰りの予定。

「おはよう。気分は優れないようだね。」

朝一で集まった選手たちのさえない表情に監督も苦笑い。開幕から休みなしの疲労と相まっている。


「健、今日は1番センターで。」

コーチに言われて俺は耳を疑う。

「いや、デズはどうしました?」

「ああ、彼は少し『違和感』を感じているらしい。」

デズはベンチで腕を組んで『船を漕いで』いやがる。さては病み上がりをネタにさぼりやがったな。


 みんなもイライラしてる者とやる気がそがれている者が半々。

疲れているのは相手チームも一緒。というかグラウンド練習時間が早い分、こちらよりもさらに早起きを強いられているだろう。


 結果はこちらのワンサイドゲーム。俺が9号、10号本塁打。D・ジャクソンが6号を含むチーム15安打11点で大勝。リーグで10勝一番乗り。ホワイトナイツの方が散発5安打だったため、意外に早く帰路につけた。


 8時過ぎにはダーラムに到着。球場にはマシューが迎えに来ていた。

「お疲れさん。今日はゆっくり休むといいよ。」

「ゆっくりと言っても明日もデーゲームだけどね。で、今日の夕飯は?」


俺が期待半分でマシューに尋ねると彼はすました顔で答えた。

「うん。カレーライスだよ。」


いや、確か2日前には鍋一杯分食い切ったよね?

「今さっきまで仕込んできたわ。安心してよ。今回のルウはジャ〇カレーだからさ。」

うーん。たしかにマシューはゴー〇デンカレー派で俺がジャ〇派だからな……ってそういう話じゃないっつーの。さすがに今日は無理。

「……まだレストランが開いてる時間だし、今日は外食にしようや。」


4月21日(水)


「健、今日は休んでいいぞ。」

練習後の食事時間中、監督からそう告げられる。

「え!?帰宅してもいいんですか?」

俺がうれしそうな顔をしたのが気に入らなかったのか。

「バカ言うな。ベンチで休んでろってことだ。」

若干語尾に怒気がこもっている。……ですよね。


 でも硬いベンチで休めるわけもない。今日は小雨交じりのいやな天気。時折ザーッと降って試合が中断。雨足が弱くなったら再開という悪夢のような展開。

「昨日さぼるんじゃなかった……。」

デズはさすがに連続仮病を使えずスタメンに。ま、頑張ってくれたまえ。


 アメリカでは小雨くらいなら「雨天順延」はないのである。今日は休みでよかった。みんな頑張りたまえ、ってな感じでベンチを見渡すとジョーににらまれてしまった。口に出してないのに。


 しかも今日の試合はもつれにもつれて6対6のまま延長戦に突入。アメリカには「引き分け」という概念がなく決着がつくまで延々と試合が続くのだ。試合時間が3時間半、試合中断1時間半、あわせて5時間。


 そして12回裏の攻撃。

 「健、俺もそろそろ家に帰りたいんだが。」

クリフが俺にバットを渡してきた。監督も代打に俺を指名。そんな祈るような視線で俺を見ないで。


 魔法をモリモリにかけてボックスに向かう。しとしと降る小雨が不快。ランナーで出るのもいや。右投げの相手投手ドリスにあわせて左打席に。マウンドで少し滑ったのか甘い真ん中よりのストレートを思いきり引っ張る。


 弾道は低かったがライトスタンドへの11号サヨナラ本塁打。こちらのベンチは勝利よりも試合が終わったことに喜んでるし、相手ナインも悔しさよりも終わってホッとしたという表情をにじませていた。


4月22日(木)


  本日、ホワイトナイツ4戦目。なんと2番二塁手でスタメン。二塁手の起用はリトルリーグ以来だ。本日はナイトゲーム。


「なんだ、思ったより動けるじゃないか。」

 投内連携の練習を見た守備コーチが意外そうな声を上げた。いや……どういうつもりで俺を起用したんや?


 ただ久しぶりのわりには頑張れたと思う。併殺ダブルプレイの機会が3度あって失敗なしだったし。


 打っても12号3ラン本塁打を含む4打点、チームも10対2で圧勝。このカード4たてで首位もがっちりキープ。


 これで俺も早く昇格……とも思ったが、ただ上のレイザースが好調なのだ。ボストン・レッドアックスやニューヨーク・ヤーナーズといった強豪人気2チームを擁するア・リーグ東地区で目下首位なのである。


 明日からはグィネット・ブレイザースをホームに迎えての3連戦。このカードが終わると他地区チームとの交流戦が始まるのだ。


 夕飯のカレーがそろそろ終わりそうなので次は「牛丼」を作ってもらおう。そんなに難しい料理ではないはず。帰り道にマシューに依頼。だが、答えはNOであった。

「健、アメリカには『小間切れ肉』というものはないよ。そして、僕に肉を薄く切り分けるスキルはない。」

そうだった。アメリカの肉は塊やったわ。


 

 

 






 

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