所詮はと言われて。

平成22年4月17日(土)


 試合はバレッツは昨日からの打撃好調をそのままに7対2で完勝。俺も4打数2安打1四球。そして7号本塁打で独走。リーディングボードに自分の名前が載るのは気分がいい。

「いくらトップでもマイナーリーグだけどね。」

「うるへ。」

今日もカレーライスを食いながらマシューにからかわれる。由香さんは俺の取材をマシューに託し、現在は日本で亜美の取材をしている。主要五大学リーグで女子選手が一軍に入っていること自体が稀なことなのである。春季リーグが終わる5月の頭に再び渡米の予定だ。


平成22年4月18日(日)


 そしてようやくデズが先発スタメン復帰。先発投手はヘル吉。久しぶりにグラウンドにトリオがそろう。


「ひさしぶりにバックを気にせず投げられるわ。」

 ウォームアップが終わるとヘル吉がブルペンに向かう前に言った。うんうんその気持ち、わかるぞヘル吉。ただ明日先発投手予定の俺の後ろに「俺」はいないんだよな。


 ちなみにバレッツの外野が薄いのはレイザースの外野陣が鉄壁だからで、今年の野手の補強が内野手中心になってしまったからである。


 4月半ばだが今日は17℃と肌寒い。俺は2番レフト。チームも昨日に続いて打線は好調。俺も三試合連発の8号。ヘル吉も7回2/3をソロ本塁打の1失点のみの好投。10対1でチームも勝ち、無傷の3勝目。


 夜、亜美からの通信が入る。「定時連絡」という名のデート。亜美の大学では先週から春のリーグ戦が始まっている。チームも好調なスタートを切ったが、亜美の出番がなかったようだ。それがご不満の模様。


「でもさ、部員には甲子園経験者も先輩たちもいるんだよね?」

「私だってワールドカップでMVP獲ってますけど。」

 ただでさえ高校時代の優秀な男子部員だった選手を相手に競争しているわけだし。それにまだ亜美だって2年生じゃん。先輩部員も競争相手なわけだし。焦る必要はないと思うが、そんなことではダメらしい。


 「そう言えば同じ大学に日本女子代表の人がいなかったっけ?」

山前やまざき先輩でしょ?彼女は野球部だから部が違うんだよねぇ。」


 そうなんだね。なるべく出場機会を得る方便かもしれない。この週末にはリーグ戦はなく、他大学との練習試合だったようだ。一軍の控え選手を中心にメンバーを組んだ第二試合で先発起用されて3安打で存在をアピールしたそう。


「でも打った投手あいてなんでしょ?」

俺が意地悪を言うとムクれる。

「もー、山前さんと同じこと言う?あんたの活躍もマイナーリーグじゃ、って日本こっちじゃ言われてるよ。」


「気にしてることを。……いや、諦めずに努力すればチャンスは必ず来るさ。練習は絶対に裏切らない。それを信じようぜ。」

俺がややドヤ顔で言うと亜美も笑いながら返した。

「それってあんた、自分自身に言ってない?」

あ、バレました?


4月19日(月)


 今日から対戦するシャーロット・ホワイトナイツはシカゴ・ホワイトアックス傘下。これで同じインターナショナル・リーグ南部地区のすべてのチームと対戦することになる。ただ変則4連戦。今日明日はビジターで残り2試合はまたホームに帰ってくるという糞スケジュール。ふざけんな。


 ただ同じ地区で同じノースカロライナ州なのでバスで3時間くらいの移動なのがせめてもの救いか。


 「知り合い」の選手は二人くらい。捕手のフロアーとキューバ出身の内野手、ダイアン・ピシエドだ。昨年、俺がいたモンゴメリー・クッキーズと同じAAサザン・リーグのバーミングハム・カウンツにいて対戦相手だった。


 そしてフューチャー・ゲームにもピシエドは同じ「世界選抜」チームで出場した「仲」である。年は向こうが一つ上。またまた山鹿世代だ。


 「よぉ。俺も今期はメジャー契約ロースターよ。お互いがんばろうぜ。というかお前ちゃんとメシ食ってるか?ひょろいカラダしやがって。」

 変わらず人懐こそうな表情で俺の背中をバンバンたたく。いや、あんたが恵体過ぎるだけでしょ。公称身長185cm、体重108kgとか、日本なら相撲部屋からお声がかかりますわ。


 今日は俺が先発投手(左)。今日は球数制限いっぱいまで投げる予定。バッテリーを組むのはショーンのメジャー昇格に合わせてクッキーズから昇格してきたロバーツ。昨年はサンディエゴでメジャーデビューし、7試合でマスクをかぶった経験もある。


 ストライクゾーンを目いっぱい使ったリードでWナイツ打線に的を絞らせずに凡打の山を築いていく。日本人選手と違ってファールに逃げまくって無駄に球数を消費させてくるわけじゃないからやりやすい。


 8回を1失点。試合はバレッツが打撃好調を維持。7回までに11点をあげ、11対2で快勝。デズが先頭打者で安打で出塁、そして今季初盗塁を決めて復調をアピール。

 

 ダン・ジャクソンも5号本塁打。ジョー・ブロラックも2安打。俺の2勝目に貢献。9回裏にピシエドが俺からマウンドを引き継いだバーネットから今季1号ソロ本塁打を放つも「焼け石にウオーター」。俺に2勝目がついた。


 た4連戦の初戦で試合開始が遅かったこともあり、終わって球場を後にした頃には23時。アメリカのまっとうなレストランは週末ウイークエンドでもなければたいてい10時には閉まるから、ファーストフードくらいしか食べるところはない。




 


 

 



 

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