メジャーへの道は押し合いへし合い。
平成22年4月16日。
フレディ・フリードマンのような「
つまり、いつ何時上からのお呼びがあってもいいようにコンディションを整え、あるいは目覚ましい成長を見せていかなければならないのだ。
俺の投手としてのライバルは当然ヘル吉ことジェイミー・エリクソン。
打者としては8年のメジャー出場キャリアがあるジョー・ブロラック。彼はオールスターにも2回出場している。右投げ左打ちの内野手で通算150本塁打の実績があり、3月半ばにテキサス・レイグナースから金銭+マイナー選手とのトレードでレイザースに加入したのだ。
もう一人は「日本帰り」のダン・ジャクソンだ。ジョーと同じ右投げ左打ちの内野手で昨シーズンはNPBの横浜ベイ・ブルースで24本塁打と活躍したものの打率が.211と低迷し高額年俸も
二人とも日本人選手と交流経験があるのだがジョーは日本人には否定的で、ダンは肯定的。ジョーはかつての同僚だった日本人投手のメジャー挑戦失敗を間近で見てきた経験から、一方のダンは銀座や伊勢佐木町での夜遊びが楽しかった経験から。
二人とも今年30歳、平均の選手生命が極端に短いアメリカではやはり才能があるのである。俺は心の中で勝手に「ジョー&ダン」コンビと呼称している。コンビと言っても仲がいいわけでもないから「セット」のほうがいいかも。
「いいか健。アメリカで野球やるならちゃんと英語をマスターしろ。通訳を
「そうですね」と答えるものの、ジョーは英語で俺に説教してんじゃねーか。しかもカリブ海や中南米出身の選手とのコミュニケーションにつまると
「健、スペイン語がわからん。通訳しろ。」
と通訳に俺をかり出す始末。
俺がニヤニヤしながら英語とスペイン語の通訳をすると
「メキシコ訛り(の英語)ならわかるがベネズエラ訛りはわからん。」
とわけわからんことを言い出す。
ダンはダンで東京や横浜の夜のお店のお姉さんとの「武勇伝」話を延々としてくるし。同意を求められても「俺は
と言ってもおかまいなし。
ただこの二人が開幕から打撃好調で現在打率.333の俺に対してジョーが.444。
チーム(というかリーグ)本塁打トップの5本塁打の俺に次いでダンが3本塁打。俺の成績が目立っていないのだ。ほんと、
今日は俺は1番レフト。相手先発投手のパットンがご乱調。先頭打者の俺を四球で歩かせると本塁打2発を含む6失点で1アウトしかとれずに降板。4回にはダンに4号、ジョーも2安打で打率5割に乗せる。俺も7回に負けじと6号2ラン本塁打。
チームも14対6で圧勝。……また俺が目立たなかった。というのも今日は6打席回って2打数1安打4四球。
「あんまり周りを気にしてもしょうがないよ。よそはよそ、うちはうち。」
球場まで迎えに来たマシューにたしなめられる。いったいどこのお母さんの口癖だよ?
「確かに無理して自分の型を崩すのはやめておかないとな。で、今日の夜食は?」
「カレーライスさ。健の好物だろ?」
その答えに一瞬思考が止まる。
「好きだけど一昨日から3夜連続やぞ。」
マシューこそ年俸一千万円の「マネージャー」なのだから選手の食生活に少しは気を使ってほしいところ。
「そりゃそうさ。大鍋いっぱいに作ったからね。」
とマシューは涼しい顔だ。アメリカ人の家庭では一品料理を大量に作り置きして、食べ終えるまで連続連夜同じメニューでというのは珍しくない。……いやいや、それこそ「よそはよそ」やろがい。日本人の食に対する執着はアメリカ人のそれよりはるかに根深いことは知っておくべき。
4月17日(土)
本日は1番ライトで先発予定。デズが復帰するまでは外野が主。復帰するまでというかすでに
そしていつもは内野手のダンが今日は外野手に回っているので、俺がさらにライトへと押し出されているのだ。
「うっわ、へたくそ。」
守備練習中にデズが俺たちを見て煽ってくる。
レイザースのマディソン監督が複数のポジションを守れるいわゆるユーティリティプレイヤーを好むのでこうなるわけだが、やらされる野手も大変だし、不安定な守備陣に背中を預けなければならない投手陣はもっと大変だ。
センターのマーシー(マーシャル・アルジャーノン)とデズは外野守備がメジャークラスなので二人が出てくれるときは「投手の俺」がホッとする。
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