ジャッキー・ロビンソン・デイ

 平成22年4月15日(木)


 開幕して一週間。ようやく本拠地ダーラムでの開幕を迎える。平日だが初の主催ゲーム、そしてチームも好調ということもありお客さんの入りも上々。ほぼ満員。


 ちなみにこの日はMLBにとっては特別な日なのである。いわゆる「ジャッキー・ロビンソン・デイ」である。半世紀以上前のこと、白人しか所属を許されていなかったMLBにロビンソン氏が黒人選手として初めて出場を「許された」のが昭和22年4月15日なのだ。日本人だと「ふーん」で終わりそうだがアメリカではそうではない。


 その時に彼が背負った背番号42はMLBのみならず、マイナーリーグ、独立リーグに所属する全ての球団において永久欠番に指定されている。それくらい「白人様の縄張り」に入り込むのが難しかった時代なのだ。


 そして平成9年からはその日に限ってMLBでは希望する選手は背番号42を背負うことが「許される」。さらに2年前からは全員が背負うことになった。


 「42」っていう数字は日本じゃ「死人」と語呂が一緒で忌数いみすう扱いだけどな。そう思うのも「中の人」の昭和的感覚なんだろうか。逆に言えば子どもの頃NPBに来た助っ人外国人選手がみな「縁起の悪そう」な背番号をつけることに疑問があったのだが、むしろ憧れの背番号であり嬉々としてつけていたわけだ。


 ちなみにバレッツはマイナーリーグ(AAA)なので背番号42の着用義務はないがチームとしては全員の着用が決まっていた。資金力かねがないのがマイナーリーグの特徴だが、ユニフォームについては別だ。目につきやすい分スポンサーが付きやすいので、1試合限定の変わりダネユニフォームを着せられて試合することはよくあることなのだ。


 ただ選手としてはそんなことに使う金があればもっとまともなメシと移動手段に使って欲しい。


「ジャッキーは健にとっても恩人なんだぞ。」

 俺がロッカールームでしげしげと自分用ユニフォームについた背番号42を眺めているとコーチに背中をたたかれる。ロビンソン氏は「黒人」初というよりは「有色人種」初のメジャーリーガーなので「黄色人種アジアン」である俺自身にとっても恩人なのである。第二次大戦で白人世界に歯向かった日本人ジャップであるならなおさらである。


「健、試合終わったらユニフォームそいつにサインしてスタッフさんに渡しておいてくれ。」

 俺のように40人枠ロースターの選手やメジャー経験のある選手のユニフォームは後でネットオークションにかけたり、ファンサービスのプレゼント用に使うそうで回収される。きっちり商売を忘れないところがアメリカらしい。


「健のユニフォームもネットオークションにかけたら日本人が食いついて高額がつくかもな。」

それはどうかなぁ。


「背番号と言えば健の背番号∞(無限大アンリミテッド)も良いアイデアだと思うよ。キミが一流になればキミに憧れて同じ番号を背負いたがる選手も現れるだろう。いや、キミはきっと将来にそういう選手になれると私は信じているよ。」

ありがたいコーチのお言葉。


  大成しなければそれこそ笑いものだぞ、コーチは言外にそう

言っているわけだ。


 今日からの相手はノーフォーク・トレンズ。一週間前の開幕戦で戦ったばかりの相手。同地区だからしょうがないけど移動距離を考えたら近場のチーム同士がお互いにいちばんいいのだ。


 本日は3番レフトで先発出場予定。今季二度目の外野手での先発。これはデズが故障けがで離脱したのがいちばん大きい原因。ただ、デズも軽傷だったのが幸いして今日からチームの練習に合流していた。


 「みんな、待たせたな。俺が復帰したからにはもう安心してくれ。」

「おう、お前の出番があるかどうかは知らんがな。」


 自分が開幕早々に脱落していたことを詫びるまでもなく、元気に参加している。確かに好きで怪我したわけじゃないし、自分の開けた穴はすぐにほかのだれかによって埋められてしまう世界なのだから悪びれる必要はないよね。


 試合の方は先発投手のバーネットが初回いきなり4失点と乱調。4番のダン・ジャクソンに3号本塁打が出たものの(俺も4打数1安打2四球)6対4で敗れて本拠地開幕戦は白星で飾れなかった。


 

 





 


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