逆らえぬ運命?
3月8日。
「健、俺今日途中出場が決まったんだぜ。フーッ!」
デズが朝っぱらからご機嫌だ。
今日はフィラデルフィア・ペイトリオッツとの練習(ビジター)。なので軽く練習した後バスで1時間半ほど揺られてペイトリオッツのキャンプ地であるクリアウォーター市へ。水が美味そうな名前だが海辺の街だから海の水が綺麗なんだろうな。
ここもレイザースの
「いやお前、朝から死にそうな顔してたくせに。」
俺がからかう。
「だってよ。朝一で監督室まで来いだぜ。あー終わったーって思うやろ?」
マイナーの監督は滅多に選手とコミュニケーションをとる人が少ない。なので悪さをして叱られる時や降格を言い渡される時にしか呼ばれないのだ。
他のみんなにも「ロッカーは片付いたか?」「エッチな雑誌はちゃんと持っていけよ」とか揶揄われ反ベソ状態からの絶好調。
ちなみに俺は二番手投手から指名打者というというパターン。だんだん使われ方が実戦的になっていく。先発は右のエース、ジム(フィールズ)。多分このままのサイクルで開幕後も先発していくだろう。
ジムは2回2/3まで投げ俺が引き継ぐ。四球二つで出したランナーが二塁一塁。
打者が外の低めを引っ掛けてくれてラッキー。次の回は3人で抑える。
これで投手としてはこれで落とされれたらおかしいやろ、ってとこだ。
打者としては7番指名打者を引き継いで2打数1安打でお役御免。試合が延長10回、こちらが2点勝ち越してそのまま勝利。
デズも2打数2安打と首脳陣の期待に応えていた。
「俺様現在首位打者だぜ!」
イキるデズ。まぁデビュー戦の不安感から解放されてるんだろう。
「残念だが規定打席(試合数×3)に達してないじゃん。」
「そりゃそうだけどさぁ。たまには自己満足させてくれよ。」
俺が正論を言うと膨れっ面をする。
俺たちもやっとここまで来た、という気概と不安感の狭間を行ったり来たりしているのだ。
その後も連日練習試合は行われ、俺は打席数が2打席ずつと少ないながらも本塁打5本でチームトップ。
そして、運命の15日を迎える。その日は朝からずっと雨で天候の快復の予報もなく中止が決まっていた。
「健、
室内練習場でキャッチボールをしているとコーチに声をかけられる。
監督室を訪ねるとクリフもそこにいた。彼はバツの悪そうな表情をこちらに向けた。俺がデスクの前に出ると監督が口を開いた。
「健、良いニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたいかね?」
おぉ、アメリカ人っぽい言い回しだ。俺は
「悪い方からお願いします。」
俺は長男(というか第一子)なんで好物は最後に回すタイプなのだ。
ジョーは眼鏡をかけ直すと言った。
「キミにはバレッツに行ってもらう。」
あー、やっぱりですか。最初に言われていた通り開幕マイナーが決定したのだ。
「もちろん、キミの活躍は十分にロースターに入れるレベルだったし、マイク(投手コーチ)も5番目の先発かクローザーにと推してる。ジェイク(打撃コーチ)もできれば2番で使いたい、とも言っている。私も同じ意見だ。だが。」
そう、十分に活躍したからこそ、経営陣、特にGMのフリーマン氏は俺の保有権を1シーズン伸ばしたいのだ。
「現場指揮官としては正当な理由もなく戦力を削ぐのは承服し得ない、とは伝えてある。」
昨年から
「それで良いニュースだが。早ければ5月中旬、遅くても6月初旬までにはこちらに来てもらう。もちろん、それにはキミが気持ちを切らさずにダーラムで結果を出すことが必要だ。できるね?」
「はい。」
うわぁ、脱力感ハンパねぇ。そこでクリフが俺に言った。
「健、胸を張れ。今回は
「はい。」
俺も複雑な表情に。クリフも俺と同じく、今しがた降格を言い渡されたのだろう。
「ロッカー、整理してきます。」
練習する施設は変わらないのでロッカーを変えなくても良いとは言われたが、敢えて変えることにする。この悔しい想いを忘れないための儀式として。
クリフと俺がロッカールームに向かう途中、デズとヘル吉とすれ違う。
「クリフ、残念だったな。」
クリフの結果は知っていたらしく労いの声をかける。だがクリフの返答を聞いて青ざめる。
「まあな。だが健も一緒だ。」
「マジかよ?俺たちも今から監督室なんだ。あー、終わったわ。今度こそ終わったわぁ。」
結局、ロッカールームで4人が顔を合わせるのにさほど時間はかからなかった。
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