「秘密兵器?
3月6日。
やはり同リーグ同地区のニューヨーク・ヤーナーズ戦。キャンプ地はタンパ、つまりレイザースのホームタウンと一緒。なのでビジターにも関わらず嬉々として主力陣が出張る。いや、ホームから動かないというのは俺の単なる「感想」だったのかも。
それともしっかりと夜遊びして家からご出勤なのかも。遠征用のバスがガラガラだったし。
「俺、ユニフォームの着方おかしくない?」
ヘル吉は今日初登板。しかもヤーナーズ相手。そりゃ緊張するよな。別にデートじゃあるまいし。
「ジーカー出るかな?」
「どうかな?出ても打順によっては当たるかどうかはわからんだろ。」
もっともヘル吉は40人枠が正式に決まったのででウキウキなのだ。あー俺も投げたい。
「健も登板するの?」
「いや、昨日投げたからないな。」
それどころかヤーナーズ戦は「基本的に」出番無しと言われてしまったのだ。
「お前は『秘密兵器』だから。」
投手コーチのヒッコリーに言われて「は?」となった。
「ヤーナーズは俺をドラフトで取るつもりだったんですよ。秘密もなにもないでしょう。」
「知ってるさ。だからヤツらはお前が今年の『
タンパではヤーナーズの女性スカウト、ジョーダンさんと再会。また強烈な「
「健!久しぶり。今年もいっぱい活躍してくれると嬉しいわ。」
不思議なことを言いますな。
「俺、敵チームですけど。」
「だからよ。
さすが資金力で1、2を争うチーム。怖いわ。
試合は両軍とも一線級が登場。ジーカーさん出とるわ。こちらの先発は左のエース、プライド。1回2/3無失点ながらで四球を出したところで降板。なんかなきゃいいけど。
そしてヘル吉。待望?のジーカーさんと対戦。三振を取る。めちゃくちゃ嬉しそう。次の回も3番テイシェラさんに安打を許すも無失点で切り抜け、練習試合ながら「メジャーデビュー」を無事に果たす。
そして絶好調なのがジョアン。3試合で打率8割、OPS30割越えと「春男」じゃん。
「どーよ健、俺様の活躍はよ?」
「おぅ、その調子で頑張れや。」
日本人だと「ウザ絡み」と言われそうだがアメリカ人なので普通だろう。ジョアンは俺より5歳年上。一昨年ロサンゼルス・アンカーズでメジャーデビュー。
さらに彼も昨シーズンAAAで30本塁打打っているのだが、シーズン途中にトレードで移籍しているのでパシフィックコースト・リーグとインターナショナルリーグの2リーグ合算のため記録にも話題にならなかったのだ。
だから少し境遇の似た俺をライバル視するのは当然なのだ。でも俺は前半AAにいたんだけど、そこには気づいていない模様。
まぁ、日本でもオープン戦だけ活躍して後はサッパリという選手もいなくもない。開幕に合わせて調子を上げるのがベストだが、定位置争いをしていると正直そこまでの心理的余裕はない。
他人を見るんじゃなくて自分を見るしかないのだ。
3月7日。
ホームにボストン・レッドアックスを迎える。俺は4対4、9回無死一塁で代打出場。右打席で左中間への大きな当たりだったが届かずに二塁打。なんとかランナーが本塁セーフでサヨナラ勝ち。3連勝。
ただボストンの松阪さんは首に張りがあるとかで来なかったので会えず。ボストンならいいマッサージ師がいそうだけどな。どちらかと言えば鍼灸の方が効くのかな。
そんな話をマシューとしていたら
「健はあまりマッサージを受けないよな。」
昨年ダーラムで大変お世話になったクリフ・リチャードに振られる。彼は今年36歳の大ベテラン。
「だってマイナーにそんなのなかったですし。」
アメリカのマッサージ自体は日本のいわゆる「ツボ」を刺激するやり方とはだいぶ違う。逆に日本人選手が連れて来た日本式のマッサージ師が重宝されて、連れ来た当の日本人選手が帰ったり移籍しても球団に残ることもあるそうだ。
「俺は上にいられるうちに受けておくさ。お前も一度くらい受けてみろ。健、後1週間で
クリフも一塁手か指名打者。AAAでは必ず打撃十傑に入るレベルだし昨年も上で使ってもらえない。でも、ダーラムでは精神的支柱で、下手すると監督よりも慕われていたりする。なので俺は「競争相手」というより「弟子」扱い。
そうか、練習試合は開幕直前まで続くけど最後は開幕戦と同じチームで行くよね。秘密兵器を気取ってる場合じゃない。
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