生き残りをかけて。

 初戦は12対4で大敗。エースのフィールズは1回を無難に無失点。続くゲイザーも本塁打1本の1点だけで2回をクリア。ただそこからピリッとせずズルズルと失点を重ねてしまう。


 俺は2打数1安打。2打席で交代。練習試合は投手も1、2回で、打者も2打席で次々と交代していく。


 今年からは魔法の術式が変わったのだ。これまでは思考加速によって対応してきたのだが、今回さらに「魔眼化」したことで、あらかじめ投球の軌道が見えるようになった。これで「逆球」に対する対応が向上した。


 メジャーは力がある投手が多いのもあるが、とにかく対戦する人数が多いのでこの方が対応しやすい。さらに言えば自分これをしっかりと「点」で捉えられるように春から練習を続けているのだ。


 「健、明日は投手で使うから。」

投手ピッチングコーチのヒッコリーさんに告げられる。

「先発ですか?」

「いや、明日はノイマンだ。まだQS云々の段階じゃないから、そこは気にするな。今日、中継ぎ連中がグダグダだったからな。お前は球が速いから抑えの方でも使ってみたらどうか、ってショーンから提案があってな。」


 おぉ、ショーンGJ。中継ぎは本意ではないけどまだ贅沢を言っている場合じゃない。とにかく開幕ロースターに生き残ることに意義があるんだ。


 3月4日。


 今回はホームゲーム。なので主力陣がお出まし。もしかすると移動のないホームゲームは主力陣で、バス移動のビジターは若手中心ということか?


 相手は昨日と同じくオーソドックス。


 さすが主力陣だけあって、ゲーム序盤から点を取ってくれて5回まで4対0とリード。ところがじわじわと反撃され、中継ぎ陣もピリッとせず9回、トーレスさんがソロ本塁打を浴びてついに5対5の同点。


 ちなみに7回の1点はジョアンの2号本塁打。

「ね?今の見た?」

俺にドヤ顔。ブルペンまで来んなよ。

「はいはい、ナイスバッティング。見てないけどな。今俺肩作ってんだけど。」


 同点にされて今日は引き分けかー、と思いきや雨でも降らない限りは延長戦だそうだ。練習試合なのに?


 こちらも9回裏得点無し。

「健、出番だ。」

俺が呼ばれる。今日はもう出番がないかと思った。


 下位打線だが相手も生き残りサバイバルをかけた連中だ。侮ってはいけない。

「今日は右(投げ)かぁ。」

ショーンが俺のケツをグラブで叩く。まだ球速160km/hを出せる状態ではないが確実に昨年よりもいい。


 150キロ台後半の速球と130キロ台のチェンジアップ。そしてカーブの組み合わせ。ショーンとは付き合いは短いが俺のことをよく勉強してるようだ。


 3者凡退に斬ってとる。

「健、一打席入っていけ。俺はさっさと帰りたい。」

バッティングコーチのデレクが俺に指示。


 ちょうど指名打者の打順だったらしく、指名打者を外したのだ。

俺も早く帰りたいんで。


 左打席に入った俺。1B1Sからの3球目。高めで見逃せばボールだろうけど構わず打った。右中間へのサヨナラソロ本塁打。


 試合が終わって嬉しそうな主力陣。さっき2号打って自慢しにきたジョアンを追いかけてやった。ちょっと悔しそう。

「ま、さっさと帰れてよかっただろ?」


生き残りをかけた戦いはまだまだ続く。


「健、初勝利おめでとう。」

球場まで迎えに来たマシューに言われた。そうか、本塁打にばかり気が向いていたけど自分に勝ちが付いたのか。


さ、どんどん打ってホームの試合でスタメンになってやる。

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