キャンプイン!
平成22年2月18日。
フロリダ州ポートシャーロットという街。そこに俺が所属するタンパベイ・レイザース全傘下球団の「キャンプ地」がある。正確にはA+(シングルAアドバンス)
MLBではアメリカ大陸の半分より東の球団はフロリダ州に、そして西側の球団はアリゾナ州でキャンプを張る。
アメリカでは「スプリング・トレーニング」という。NPBの「キャンプ」と「オープン戦」を合わせた感じだ。
ちなみに、チーム全体のトレーニングは5日後から始まる。投手と捕手、いわゆる「バッテリー」が前乗りしてトレーニングを開始するのだ。
ただ投手と捕手でメジャー契約者と招待選手全体の半分強くらいはいる。
「健、会いたかったよー。」
昨シーズンの開幕から一緒にAAからいて、一緒にAAAに昇格したジェイミー・エリクソン。ニックネームは「ヘル
歳は俺より3歳年長だ。アメリカ人はあまり年齢の差を気にしない。ここは日本とは違うところだ。
ちなみに彼も初めての「メジャー契約」でのトレーニング入り。
「おぅ、相変わらず仲がいいなぁ。今年は俺も入れてくれよ。俺の『カワイコちゃん』たち。」
「キモい」言い方をしながら入ってくるのはショーン・ジェイソン。「打てる捕手」で昨シーズンはAAAのダーラムで主戦捕手を務め、今季はついにレイザースでの主戦捕手と予定されている。
彼は「イケメン」で長髪。マシューに言わせると吹き替えCVは「山寺○一」って感じだ。垂れ目系のいかにも日本人女性にもてそうなタイプだ。
「健、しっかりと身体は作ってきたようだな。期待しているぞ。」
監督はジョー・マディソン。万年最下位のレイザースを一昨年、球団創設以来初めてのリーグチャンピオンに導いた「名将」である。
データを駆使した「弱者の戦い」に長けていてどちらかと言えば「奇策」を多用するタイプ。実績の「乏しい」俺としてはアピールしていく相手である。
「GMのアンディ(フリーマン)はお前を
野手組が合流した後からブルペンでの投球練習も始まるのでそれまでに仕上げていく必要があるのだ。
何しろ、先発投手は5人。右のエースであるジム・フィールズ、左のエースであるダン・プライドは当確として、実績のあるマシュー・ゲイザー、ジェフ・ノイマン。そして昨シーズンAAAで頭角を現したウェズリー・ダビッドソン、アンドリュー・ソニースタインと候補が続く。
この連中に挑まなければならない。ただ左はダン一人なので左も投げられる俺にも十分にチャンスはある。
「よぉ健、今年もよろしくな。先発は譲らんけどな。お前は今年も野手一本で行かんのか?俺はお前のバッティングを買っているんだがなぁ。」
ウェズが絡んでくる。もちろん、嫌なカンジではない。彼は身長が俺とほぼ同じなので時々服もくれたりしてくれるいいアンちゃんなのだ。
「ウェズが俺に投手をやらせたくないだけじゃん。でも俺は左でも投げられるんだよなぁ。左の先発はダンしかいないじゃん。これって俺めっちゃチャンスあるやん。」
ウェズが若干青ざめる。
「くっそ、この『器用貧乏』め。」
「いや、俺の場合は『多芸多才』って言うんですよ。」
やっぱりマイナーリーグで一緒だった連中はなんやかんや言っても仲間意識が強い。長い時間一緒のバスに揺られているだけでも共感度は高い。辛いからね。
それにヘル吉もウェズもドラフトでは4巡目とか5巡目とか決して高評価ではなかったがそれを覆してメジャー契約に至っている。はっきり言って俺と同じく「下克上」達成者なのだ。
「まぁお前みたいな『全体1位』様には俺らの苦労はわからんよ。」
と、すぐに突き放される。確かに現世の俺は超絶エリートなのだ。でも中身は「万年補欠」だった頃と同じ。だからこそ「挫折」とは何かについては良く知っているのだ。
無事に初日を終え、集まったマスコミ相手に取材を受ける。今年は俺を含めると総勢15人ほどの日本人がメジャーに在籍している。なので俺への取材の優先度は割と低い。日本人記者は由香さんを含めて5人くらいか。由香さんの後ろでマシューが「本職の」ビデオカメラを担いでいるのが俺的にはシュールだ。
「ウチの旦那は役に立ってる?」
本人の前でそれ聞く?
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