EP34 あんなに一緒だったのに

 持てる力を解放したカミゾノと俺、レオン・ミツルギ。俺達を学年上位たらしめているそれを全力で振るえば、レイを止められると思っていた。

 だが現実は違った。怒りの執念を燃やす彼は俺達に匹敵する程のパワーアップを果たし、背中の光翼を煌めかせて俺達の前に君臨する。


 俺とサナエは空に浮いているレイに向かって攻撃を放って応戦するが、地上対空中では余程の火力差がない限りは後者の方が有利だ。休みなく繰り出される射撃とそれの合間を縫って突撃してくる近接への対応で、俺たちは徐々に防戦へと追い込まれていった。


 レイの背中、肩、両足に現れたコンテナユニットから無数のミサイルが放たれる。空き缶ほどのサイズだがその中からとても重い魔素を感じる。爆発の威力は凄まじいものだろう。それらがランダムな軌道を高速で描きながら俺達に襲いかかる。

 それだけならば瞬時に対応しつつ、反撃の一手を繰り出すことも可能だ。実際それらはカミゾノのレーザー照射と俺の雷撃によってその殆どが無力感され、無惨な爆煙を晒した。残りも容易く回避できただろう。


 しかし攻撃はそれだけに留まらない。背中の大砲を乱射しつつ、煙幕を突っ切ってレイが突撃してきた。

 爆煙によって俺達は分断され、鋭利な爪が俺を掻き殺さんと高速で迫る。なんとか刀で受け止めるが、タダでさえ上がっている筋力にスラスター群による揚力も相待って押されていく。ハルトには劣るとは言え、降龍術を使っている俺がだと……?レイの強さ、そして彼をこうさせた自らの罪を否応なく理解させられる。


「死ねェェェェェェェェェッッッ!」


 更に追撃、もう片方の手も同じ様に鉤爪をギラめかせて俺に迫る。食らえばひとたまりもないだろう。

 だがそれはカミゾノによって阻まれた。見ればあらゆる箇所に小さな焼け跡があり、被弾を覚悟で突っ込んで来たのだろう。後ろ髪を靡かせるその姿に彼女らしからぬ無茶への驚きと、頼もしさを感じる。


「合わせて!」


「応!」


 二人分の出力があればなんとか押し返す事ができた。レイを宙へ跳ね返し、法術を放つ。


「唸れ雷光!」「轟け大風!」


「「"サンダーハリケーン"!」」


 彼女が放つ風に龍の雷を乗せた、速度が大幅に上がった竜巻がレイへ迫る。

 法術とは一人で撃つものだけではない。例えば2つ以上の属性を使う物は、一人ずつが得意な属性を担当することによってその威力を大幅に上げることができるのだ。


 竜巻に巻き上げられながらレイが表情を苦悶に歪ませる。いくら彼の攻撃でもこの渦の中では動く事は難しいだろう。このまま追撃を掛けようと力を篭める。

 だがレイが片腕を振るうと竜巻が掻き消された。否、それは彼に吸収されたのだ。驚く間もなくレイの腕から俺たちと同じものが放たれる。


 俺は驚愕した。その血を引いていない身体に龍の力から来る魔素を取り込んでしまうと、拒絶反応で爆発してしまうからだ。なのにアイツは……


「その程度かァ!」


 そのまま放たれた雷の竜巻が俺たちに炸裂する。だが俺はカミゾノの前へ立ち、その攻撃を引き受けた。

 防御の降龍術"防龍の盾"を発動。荒れ狂う風と雷を一身に受け止める。全身を焦がされる様な痛みが襲いかかる。

 やがて竜巻が消えると、俺は息を荒くしながら膝をついた。攻撃から身を呈して守り通したカミゾノも俺ほどでは無いにせよ呼吸が荒いが、なんとか無事なようだ。


「ミツルギ君!」


「大丈夫……とは言い難いか……だが、まだ戦え……ぐうァッ!?」


 レイの爪に背中を切り裂かれ、激痛のあまり倒れ込む。そのまま蹴り上げられ、俺は勢い良く吹き飛び宙を舞う。


「俺とサナエの仲に、土足で入ってきた奴が!消えろォ!」


 背中の大砲に光が集まっていく。そこから感じる凄まじいまでのエネルギーは今の俺を消し去るに十分な威力だと感じられる。幸いにもそれが放たれる前にカミゾノが剣を振るって砲身を両断してくれたが、まともに食らっていたらと思うとぞっとする。 

 そのまま彼女らは眼前で切り結び始める。驚くべき事に彼女はダブルセイバーの2枚の刃を巧に使いこなし、レイの攻撃を相殺していた。時折放たれる強烈な一撃も、踊るかのような動きでしなやかに躱している。


「レイ!もう止めて!私達がこんな事をする意味なんて無い!」


「うるさいッ!」


 カミゾノが説得を試みるが聞く耳を持たないようだ。彼女の表情に焦りが伺える。


「私とミツルギ君はただ、貴方のためにここまでやってきたの!分かってよ!」


「何が俺の為だよ!そんなのちっとも嬉しくない!」


「どうして!?私は本当に貴方の事を!」


「じゃあなんで俺を信じてくれない!?俺は君を倒して、今度こそ君を守れるって示したかった!でも君は否定した!昔も、今も!俺がそれを果たす前に!」


「そんな……信じてないなんて……」


 彼女の目に戸惑いの色が見える。それもそうだろう。自分の愛している人が狂った原因が己にあるのだと本人から言われたのだ。そうなっても仕方ない。そして彼女とレイの過去は本人からある程度は聞いている。だから彼の言う事も俺は少しは理解できた。だが同時に俺は、ほんの少しだけ彼を憎んでしまった。


 そこまで幼馴染に尽くしてもらいながら、お前は何故それを拒絶する?何故そこまで傲慢になれる……?


 レイはあそこまでカミゾノに愛されている。一度裂けてしまった関係を修復したくて奔走する幼馴染、なんて献身的なのだろう。なのにアイツはそれを拒絶した。プライドと言うにはあまりにも醜く、悍ましいとさえ思える態度で。

 何故素直に受け入れない?お前が裏切りとしているそれは"裏切り"と言うには余りにも良心的過ぎる。お前は知っている筈だ。本物の裏切りとはどんな物かを。そしてお前が向けられている"愛"は俺が二度と得ることのできない、尊い物であると。何故理解しない!?

 自らがいかに恵まれているかを顧みず、子供の癇癪の様に当たり散らす彼が憎たらしかった。


 けれど一番傲慢で、俺が一番憎んでいるのは……俺自身なのかもしれない。目の前で繰り広げる戦いを見ているだけ。サナエの力にもなれず、こうして痛みに悶えているだけ。

 俺は自分がレイの親友だと思っていた。アイツの隣に立っているのは、対等に居られるのは俺だけなのだと信じていた。そんな自負が音を立てて崩れていくのを感じる。

 思えば先程、彼女を庇ったのは俺がそれを理解していたから、二人が損耗するよりも俺一人が動けなくなる方が良いと本能で知ってしまったからなのかもしれない。


 後ろでロボット達と戦い続けているクラスメイト達も彼女の勝利を信じて防戦に臨んでいるに……


「あ……」


 そうか、そうだったのか。


「……ははっ……はははっ……」


 笑いが漏れているのに、目からは涙が溢れて止まらない。気づいてしまったからだ。誰も、俺の事を見ていないと言うことに。味方は俺の事を戦力として見ておらず、敵であるレイでさえロボットの一つも寄越そうとしない。

 結局、俺は一人だったという事だ。レイと一緒にいるだけで、アイツと同じくらい強いんだと勘違いをしていた。彼を害する親衛隊から守っているのだと誇りに思っていたのは、ただザコを転がして粋がっていただけだった。


「あ……あぁ……」


 俺は……俺は友さえ失ってしまうのか……?なら……もういっそ……


後書き

どうも作者です。新年度のアレコレがあって一月以上も空いてしまって申し訳ございません。新生活の方が落ち着いて来たので更新を再開しますので、これからもどうぞご贔屓に……

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