EP33 光の翼、雷の龍
レイから放たれた衝撃に身を砕かれるかに思えたシバ達。回避不能の攻撃を前に、彼女らは目を瞑るしかなかった。だがいつまで経ってもそれが自分に届くことがなく、恐る恐る目を開ける。
そこで彼らが見たのは二人の姿。防壁を張り、自分達を守っているサナエとレオンの背中であった。
衝撃波を受け切った彼らは息のあった動きで脚を振り上げ、レイに蹴りを叩き込む。大技後の反動で満足に動けない彼はそれを一身に受けて大きく吹き飛んだ。
「待たせたな、お前ら!」
「みんな大丈夫!?」
振り返った彼らはシバ達の元へ駆け寄った。
「全く……遅すぎですよ……!それでも学年上位者ですか……?」
いつもの皮肉ではあるものの、シバの表情は晴れやかだった。
「悪い……俺たちではラースを止められなかった……3人がかりでもだ……」
「強すぎる……あれが、ラース君……」
アッシュとマトイが下を向く。自らの無力さに打ちひしがれているのだろう。
「そりゃあ強いさ……アイツは、俺の親友なんだならな…!」
笑みを浮かべたレオンの言葉にアッシュは同じく笑いを返すと、シバ達の肩を担ぐ。
「フっ……そうか。ならラースを任せるぞ。」
「ああ、任された!」
3人が撤退したのを見届けると、レオンらは前を向く。
「何のつもりだ……サナエ……!なんでその男とッッ!」
吹き飛ばされたレイは膝をついたまま掠れた声を出した。先程までの圧倒感は無く、ただ驚愕の表情をしていた。自分がサナエ・カミゾノという人間に蹴られたという事実を受け止めきれないかに見える。
その顔を見て彼女らは顔を顰めた。かつて見た、己に向けられた失望の眼差しを思い出してしまったから。自分がレイを闇に落としたのだと改めて理解してしまったから。
だが二人は止まらない。線対象的な軌道でレイに向かって走る。けれど距離がありすぎて、体勢をすぐに整えられてしまうのは明白だった。
その刹那、二人の速度が急激に加速した。足が地面から離れ、滑空する鳥のように二人は地表スレスレを飛ぶ。
「なっ……!?」
「「うおおおおおおおおおおお!!!」」
驚くラースを前に、雄叫びを上げて剣を振りかざす。何とか腕のアーマーでそれを受けたが、今のレイを以てしてもそれを防ぎきることは叶わず、火花が散って後ずさる。
「俺が押されて……っ!この……力は!」
レイが理解すると同時にサナエの周りを光の粒子が、レオンの身体を雷光が囲んでいく。
「そういう事だ!」
「この力で、私達はあなたを止める!」
それらが一層大きく光ると同時に、彼らは叫んだ。
「光の精霊達よ!私に力を貸して!」
サナエの背中にそれらは集まり、天使のそれに似た純白の翼を形成する。これぞサナエの切り札、"女神の祝翼"(ディバインド・ウィング)。光属性を司る精霊の力を受けて自身の身体能力、魔素を制御する力、そして翼による飛行ができるのだ。
「ドラゴォォォンッ!チャァァァァジ!!」
雷が龍の形を取り、レオンの身体へ取り込まれる。龍の血を引くのは皇族の宗家だけではない。僅かではあるが分家の人間もそれを秘めているのだ。
しかもレオンの"降龍術"は本家と同等の強さを持つ。鎧こそ現れていないものの、素質はハルトにさえ匹敵する。
光の女神と雷の龍、異なる力の向く先は同じ。闇に落ちた友を、幼馴染を止めるという真っ直ぐな願い。
「だから……どうした。」
それを見てレイはそう呟く。嘲笑は完全に消え、あるのはただ純粋な怒りと殺意。それに共鳴した胸元の結晶が黒い輝きを放つ。
「そんな出来損ないの力で、俺に抗うってのか。」
レイは知っていた。彼らの力にはまだ上の段階があり、今はまだ不完全であることを。
「あ!?流石にそれは俺でも怒るぞ!」
レイの親友であるレオンでさえ怒りを露わにする。サナエはそれを手で制す。
「確かにそうかもしれない……。今の私は、本当の全力を出す事はできない。でも!今の全力で貴方と戦う!」
彼女なりの覚悟でそれを跳ね除け、両剣構え直す。
「……その通りだ!お前はその宝石でおかしくなってるんだよ!だからな、殴ってでも言う事聞いてもらうぜ!」
レオンもそれに倣い、剣を構える。だが二人の表情は暗い。現実と向かい合う覚悟をしてもなお、レイの強い言葉がショックなのだ。
「そうか。なら、見せてやるよ。本物の力って奴を!」
更に怒りを昂らせ、周りの空気さえ彼のプレッシャーに押しつぶされると思える程の圧力。
「パワーアップがお前らだけの特権と思うなよ!」
するとレイにロボットの残骸が引き寄せられていく。それらは近づくにつれて粒子になるまで分解されると再び結合。黒い光沢をギラつかせる装甲、刃、銃口にとなって彼の周りを漂っている。
「うあっ!グゥッ!ガアァァァァァ!」
「お、おい大丈夫かよ!?」
レイの身体も悍ましい音と共に変異していく。その痛々しい様はレオンを驚愕させる程に。
「…今しかない!」
「カミゾノ!?お前何を?」
「今のうちにレイを拘束するわ!このまま見てられないでしょう!?」
「あ、ああ!」
サナエが左手を翳すと、それを中心に大きな魔法陣が浮かび上がる。それに倣ってレオンも刀に力を込め、それを地面に突き立てる。
「"オーロラブレイク"!」
「"バインド・クラッシュ"!」
魔法陣から放たれたオーロラがレイの身体を包み込む。同時に地面を割って進む雷撃が彼の周りを取り囲み、雷の檻を造る。更にそれらは漂うパーツとでもいうべき物体にも直撃、一部が破損した。
攻撃はここで終わらない。パワーアップした二人にとって複数の法術を制御することなど造作もなく、更なる一手を繰り出す。
「"ライトニングスフィア"!」
「"バータレイン"!」
氷の飛礫と電気のエネルギー球がレイを襲い、爆発と共に煙幕を引き起こす。無論ある程度は手加減している為死ぬ事は無い。だが凡人なら立っている事すらままならない強烈な一撃が放たれた。
「っ!やったか!?」
煙幕で見えないが確かな手ごたえを感じたレオンが叫ぶ。サナエも手を胸元で握り、祈る様にそれを見る。
『……待って!来る!』
サナエが"声"に反応するのと、砂煙から何が飛び出すのはほぼ同時だった。
「うそ……」
サナエの瞳に映るレイは、最早人と言って良いのかすらわからなかった。
胸の結晶は更に身体を侵食し、ヒビのような模様は頬まで達している。獣にも似た鋭い爪を持つ、人のそれと比べて何倍もの大きな機械の両腕。装甲に包まれた両足も二回り程長くなり、ふくらはぎにはスラスターの様な構造が。二門の大砲を背負った背中からは黒い光の翼が煌めいている。
「なんだよ……あれ……」
空から彼女達を睥睨するその姿は黒き太陽。歯向かうものを滅し、黒く焼き尽くす悪意の化身。
「あれが……レイなの……?」
否定したいと言った声でサナエが呟く。彼女が見た今までのどのレイよりも憎悪に満ち溢れていて、固まったはずの覚悟にヒビが入る。
『おかしいわ……レイザ…って言ったかしら?彼があの子から感じられない……』
"声"の言葉にサナエははっとした。確かにレイザが、あれ程レイの為に心を燃やした男なら今の状況を静観するはずがない。もしや……
『その可能性はないわ。取り込まれたにしては気配が無さすぎるもの。彼はあの中にいない。」
最悪の予感は否定されたものの根本的な疑問の解決には至らぬまま、彼女達を睨む破壊の化身が銃口をこちらに向けた。
*
時刻が10時になる時間帯の"飲亭"は、いつもなら静かなはずだった。昼の仕込みを終えて一服という時間帯であるにも関わらず扉には終日休業の看板がかけられ、ジェイソンとイヴは慌てた様子でいた。
「こんな時間に……!でも、被害が出たなんてニュースはないわ!」
「奴らは待ってくれない、ということだ。行くぞ!」
そんな飲亭の扉を勢いよく開ける者がいた。
「申し訳ございません、本日は臨時きゅ…え……?」
「どうしたイヴ……っ!お前は……!」
「はぁっ……はぁっ……ゲホッ!……」
彼を見た二人は絶句した。何故ならそこにいたのは学校に行ったはずの息子……と瓜二つ、髪の色が紫色の少年がそこにいたからだ。
レイザは息を切らしながらも二人を見据え、助けを求めた。
「助けて下さい……!レイが……レイが……!」
「レイがどうしたの!?」
「イヴ!話を聞いてる時間はない!」
「でも……!」
イヴを急かしながらジェイソンは外へ出ると、車を前につけた。
「だから続きは乗りながら聞かせてくれ!それに……多分その子が必要だ!」
「分かった!さぁ、乗って!」
「ありがとうございます……!」
レイザとイヴが乗ったのを確認すると、ジェイソンは悪寒を覚えながら車を飛ばした。
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