EP28.5 デブリーフィング

EP28.5 デブリーフィング

【それで、上手く行ったのか?】


【うん。何もかも。】


【そうか、ならこれでやっと俺の役目も終わりか。いくら本人の為とはいえ、スパイ活動じみた事するのは……良い気分じゃないからな……】


【そ、それは……ごめんね……でも君しか頼めなかったの。今の彼を一番知ってるのは君だから。】


【まあ良いさ。アイツの為ならこのくらいやる。それより、これ以上俺たちが連絡を取り合うのは宜しくない。】


【えっ……どうして?】


【どうしてもあるかよ。痕跡を残したらダメだろうが。アイツが偶然お前のスマホを見た時にバレちまう。】


【隠す必要なんて……】


【あるに決まってるだろうが!……俺たちがやった事は、結果的にはアイツの為だが本質は裏切りみたいなもんだ。変な誤解を生みたくない。もうお前だけでも何とか出来るだろ、アイツの好みなんて本人か親にでも聞けば良いんだからな。】


【でもそれじゃあ貴方が……】


【捨て駒でも良いさ。俺はアイツがお前に執着して、いつか壊れるんじゃないかって思ってた。だからお前に協力したんだ。別にこれからアイツと遊べなくなる訳じゃない。アイツが笑顔になってくれるなら……俺は本望だ。とにかくこれ以上の会話はしない。お前ができないならこっちからブロックして……】


【わ、分かった!会話もルームも全部消す!それでいいでしょ!?】


【分かれば良い。……お前は甘すぎる。そう言う所がアイツを殺したんじゃないのか?】


【こ、殺したなんて……】


【いや、お前はアイツを殺した。お前に見せてもらったアイツの写真あるだろ?俺はあんな笑顔を見た事が無い。それはそう言う事なんじゃないのか?】


【…………うん。】


【…すまん、言い過ぎた。だがこれで分かっただろ?俺たちは直接的なパイプを持つべきじゃない。俺とお前は友達の彼女、彼氏の友達。アイツが間にいなければ赤の他人だ。】


【うん、分かった。……今日までありがとう。】


─ルームが削除されました。─


 灯りの無い部屋で、俺は一人ため息をついた。甘ちゃんの世話には辟易する。なんでアイツはあんな女を……


「何言ってんだろうな……俺は。」


 そんな事は無い。彼女は真っ直ぐで清らな女の子だ。歪んでいる俺から見て曲がって見えるだけで、アイツには彼女の魅力がちゃんと見えているのだろう。

 結局俺は嫉妬しているだけだ。どう足掻いても俺はアイツにとって、彼女より大きな存在にはなれない。醜い嫉みだ。


 ……いや、それ以上に。


「俺は……レイが羨ましい。」


 幼馴染に、家族に愛されているアイツを俺は妬んでいる。彼女に協力したのだって、アイツの知らない関係を持って優越に浸りたかっただけだ。俺にはアイツしか居ないのに、でもアイツには俺以外にもいるから。


「お前は幼馴染を幸せにしてやれ……できなかった、俺の代わりに。」



 だがレオンの願いは虚しく静かに、だが確実に絶望の真実が近づいてくる。


 部活動や教員の出入りのため、学校は明るい時間帯なら休みでも空いている。とある教室でとある取引が行われていた。


「調子はどうだ?」


「悪くない。今からなら明日にでも公開できそうだ。」


 フクダ─神園親衛隊の重鎮はパソコンの前に座る隊員に話しかけると、彼は首を動かさずに応じた。


「レイ・ラース。我らが姫を惑わし我らを侮辱し、挙句姫を抱き抱えるなどと……許されざる外道!


「この記事を見たらどんな顔をするだろうなぁ?」


 他の隊員の顔にも邪悪な笑みが張り付いており、その様はまるで悪徳な振興宗教にも似ている。


「それだけでは無い。姫に纏わりつく第二の害虫レオン・ミツルギ。これを見ることによって奴も心に深く傷を負い、レイ・ラースとの友情も崩壊するだろうさ。」


「我々の結束に比べれば、この程度で崩れる脆い友情など地理も同然。」


「昨日の雪辱……晴らさせてもらうぞ……!」


 今度は憎しみめいた顔になる。理不尽な憎悪と場違いな嫉妬を重ねた、余りにも醜悪な表情。その瞳にはこれから始まるて正義の逆転劇、だが世間から見れば悍ましい逆恨みの所業がありありと写っていた。

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