EP28 戦後処理と戦勝祝い
時間はレイがサナエを連れて撤退する所まで遡る。
「く……はっ……」
親衛隊の決死の抵抗も虚しく、シバとその愉快な仲間たちに倒されてしまった。最後の構成員が倒れたのを確認した彼女は持っていたナフキンで手を丹念に拭く。
まだ立ち上がろうとする者の手を踏みつけながら勝利を宣言した。
「いくら数を揃えようと所詮は烏合の衆。かの男のライバルたるこの私を倒そうなど……最も、私も一人では難しいでしょうがね。」
彼女はそう言うと、後ろに控える二人の従者似ら向き直る。
「二人ともありがとうございました。けれどお疲れの所申し訳ないですが、もう一仕事頼まれてくださいます?」
「了解」
「は!後始末は我々にお任せください。」
「察しが良くて助かります。では私は少々野暮用で離れますので、お二人に任せましたよ。」
二人に親衛隊の処理─無論通行人の邪魔にならない場所に投げるだけだ─を任せ、シバはある人物を探していた。この戦闘に介入して自分の取りこぼしをを仕留た者だ。
だが既に去ったのか見つけることが出来なかった。礼を言おうとしたのだがそれができず、彼女は少し残念な顔でその場を後にした。
その光景を物陰から見ていたのは当の本人、レイザ。彼はシバの顔を確認するや否や即座に彼女から隠れた。なぜなのか本人にも説明することはできないのに。
*
うちの店は二人で運営している割には広い。基本的に個人経営で飲食店をする場合は従業員数の10倍が適切と言われているのだが、ここはカウンターを含めて30席はある。
無論全てを稼働させているわけでは無い。昼と夜で使う席を半分に分けて運用する事で、間の休憩中にする清掃の手間を省いているのである。
しかし今は全ての座席が埋まり、全てのテーブルには所狭しと料理が並べられている。
「それでは、我々の研究がひとまず成功した事を祝って!」
「「「「「「かんぱァァァァい!」」」」」」
総勢三十人の盛大な宴の幕が切って落とされた。もちろんその中には俺たち子供も含まれていたが、流石にお酒の席に混ざるのは好ましくないとして俺とサナエ、そしてソフィアの三人で固まって座っていた。俺はその席で、先程から気になっていた事を口に出した。
「あのさ……二人とも……」
「「なに?」」
「その……距離近すぎない?」
右からサナエ、左からソフィアがピッタリと身体を寄せて座っている。両手に花だが、二人の間にはバチュバチュ火花が迸っているのを感じる。
「確かに、サナエさんは少し兄貴との距離が近すぎる気がする。」
「そういうソフィアちゃんだって、レイとの距離が近すぎるんじゃない?」
「私は妹だからいいんですー!」
「だったら私だって!幼馴染だもん!」
先程からずっとこんな感じなのだ。もっと言えば料理している時から彼女らの間には何かライバル視じみた物を感じていた。
『ねぇレイ、私も何か手伝える事無い?』
『ありがとな、でも良いよ。今はサナエがお客様で俺は店員なんだからさ。座って待ってな。』
『そうそう、私が兄貴と一緒に準備してるから、サナエさんは座っててね。』
『それはどうも。でもね、私はレイの幼馴染なの。だからレイのお仕事を手伝ったりしても問題ないんじゃ無いかなー?』
こう言った風に再開した時から互いに牽制し合っているのだ。
「ほら兄貴、い つ も み た い に、アーンってしてあげる。」
「わ、私だって今日のお昼そのくらいしたもん!ほらレイ、あーん!」
双方からお箸が差し出される。
「いやあのえっと……そもそもソフィアはいつもそんな事してないし……サナエだって今日の昼はサンドイッチだったから……」
「「そんな事はどうでも良いの!」」
「良いの!?思いっきり虚偽の情報だったけど!」
反論するも答えは出ず、代わりに自分が選ばれるという自信に満ちた瞳とお箸が向けられ続ける。だが俺は男だ……というかソフィアは肉親だ。答えは自ずと決まっている。
ガブリンチョ
俺はサナエから差し出された唐揚げを遠慮なく頬張った。
「ふふん!ほらねソフィアちゃん、これで私の勝ちね!」
「兄貴ぃ……」
勝ち誇ったサナエと瞳を潤ませるソフィア。
「悪いなソフィア……サナエは幼馴染だから……でも。」
今度はソフィアのお刺身を口に運ぶと、彼女の顔がぱあっと明るくなる。
「兄貴……!」
「俺はソフィアの兄だぜ?精神的に遠くに行くことなんて絶対ない。約束するよ。」
「ヤだ!物理的にも離れたく無い!」
「欲張りだな!?」
「そうだよソフィアちゃん。妹はいつか、兄と別れなきゃいけないんだよ。」
「うるさい!3年間兄貴と離れ離れになってたサナエさんに言われたくないもん!」
そう言ってソフィアが俺の腕に抱きついてくると、サナエも鬼の形相で俺と自分の腕を絡ませる。
「なんですって!?!?……レイちょっと聞きたいんだけどこのお店にひき肉製造機って…」
「無いよ!?そもそも今のサナエには絶対貸さないから!!!」
「じ、じゃあパイルバンカーとか!」
「あるわきゃねぇだろ」
今にもファイティングバーストしそうな二人。俺としても将来義姉妹となる予定の二人が仲悪いのはよろしくない。
「……まぁ二人とも落ち着けって。俺は一人だけどどこにも行かないから、ね?」
原因が俺である以上何か策を講じなければいけない訳だが、何も思いつかない。
そもそもなんで彼女達が争っているんだ。妹と幼馴染という競合しないポジションなのだから俺を取り合う必要は無いだろう。
『レイ……レイ聞こえてますか……?』
そんな俺の脳裏に声が響く。そのままその声は俺にメッセージを送って来たので、俺は立ち上がった。
「すまんちょっとトイレ……」
俺はとても残念そうな二人を振り切って家の玄関から外に出た。そこにいるのは俺に酷似した、紫色の髪をもつ少年。
「おかえり、レイザ。」
「ただいま戻りました。ところで彼女とはどうですか?」
「そりゃあもう!……めちゃくちゃ上手く行ったさ。」
お前の言いつけは守れなかったけどな……。
「ならよかった。私の方も楽しめました。ソフトクリームというのは素晴らしい物ですね。」
「すっかり堪能してんなぁ。ま、良いや。"アブソーブ"!」
俺がそう唱えると彼は光となって俺に吸収されていく。全て取り込んだ後、俺の横には半透明の彼が現れたのを確認して俺は店に戻った。
驚くべきことに俺が戻った後も少女二人の大決戦は続いていた。
「兄貴!私達の合体ファイナルレスキューで行くよ!」
「なんの!こっちはレイとの合体必殺ファンクションなんだから!」
一体家の中で何をぶっ放すつもりなのだと言いたい。それはずっと続き、俺も含めて疲れて寝てしまうまで終わらなかった。
*
すっかり寝てしまった子供達とは対照的に、大人達の宴はまだまだ続く。アルコールが入っても最低限の常識は考慮しつつ、ハメを外している輪から少し距離を置き、ジェイソンら保護者達は子供達を見つめながら話していた。
「……言い忘れていたけど、レイがした事を許してくれてありがとう。すまなかったな、アキラくん。」
「ははは……。思うところはありますが、俺としても二人が結ばれてくれたら嬉しいですから。それに……」
レイに寄りかかって眠るサナエを見やり、アキラは続ける。
「それに俺たちがあの二人に口を出す権利は無いでしょう。なにせ俺たちは……」
「僕たちはあの子達が一番苦しかった時に何もしてあげられなかった……何もしなかった。子供の仲に親が過剰な介入をしたらいけないって、そう思って。」
ロロエの言う通り彼らはレイ達が疎遠になっていた時も、その原因となる事件に対しても干渉する事はしなかった。
「けどそれは間違いだった。本当は俺たちが橋になってやるべきだったんだ……」
「全くです。レイ君の暴走は起きて然るべきと言えるでしょう……何年も燻っていたサナエへの想いが爆発したらああもなる。」
「さみしいけれど、もう私達にできる事は見守る事しかないのよね……」
イヴも寂しそうに同意する。当時の彼らの行動は、親として愚かなものかもしれない。けれど彼らの子を思う祈りは天に届き、こうして運命的な再開を果たしたのだと断じれる。
だが彼らの子らは再び逆境に立たされる事となり、後悔に涙を流すことになる…………
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