EP24.5 敵機襲来

 赤い髪が目を引くその男は、サービスエリアで休息を取っていた。


「……なあヤガミ、なんで俺はこんなにチラチラ見られてるんだ……?なんか不味いことしたかな……」


『そんな事はないから安心しろ。ただお前の容姿が一般的に見て美形なのと、髪色が珍しい赤色であるからそうなっているだけだ。』


 彼が装着したイヤホンから声が聞こえる。通話相手ではなく、彼のスマートフォン型の端末に搭載されたAIの声だ。


「なら良いんだけどさ……」


『気持ちは分かるがあまり心配するな。』


「そうは言ってもな……それで、なんとか撒けたのか?」


 彼は声を潜めて口を開いた。口元にはイヤホンマイクが近づけられており、彼ら以外の人間にはただの通話にしか見えないだろう。


『一時的にだが撒けた。だが奴らはすぐにやってくるはずだ。それまでにケイン達の元まで向かう。』


 人工知能、ヤガミが息を吐く気配。人間に限りなく近い存在である彼だからできる芸当と言える。


『ツカサは送り込んだ追手に詳しい情報を伝えていない。どう言う訳か知らないが都合が良い。俺たちが裏切り者だと気づき、痕跡を追いかけるまでにかなりの時間がかかるだろう。』


「不確定要素が多い気もするけど……まあ仕方ないか……。」


『奴らの目を掻い潜りながらとは言え碌に準備をできず、目的地すら海を渡ってから探すことになってしまった。挙句、移動には痕跡を残さない為に公共交通機関は使えないと来た……。苦労をかけるな、申し訳ない。』


「良いっての。眠っているだけの俺よりずっと頑張ってくれたんだろ?だから後は俺に任せろ。その代わり、サポートはしっかり頼むぜ。」


『了解だ。……ありがとう。今この国の戸籍データベースへのアクセスを試みている。目的地の特定まですぐだ。』


「お、おう……しれっととんでもない事やってんなぁ……。じゃあそっちは任せた。俺は飯にするかな。」


 男は相棒のスペックに驚きつつ、初めての食事に舌鼓を打った。



 激闘の本戦も終わり、俺とサナエは賞品を抱えて歩いていた。俺たちはベスト16、準決勝まで到達することができた。


「いやー申し訳ない!俺が君の真後ろに着地したから……」


「君の所為じゃないよ。私が盾できてればそもそもダメージが入る事なかったし……」


 最後の試合で俺たちは相手の大技を同時に食らい体力調整を粉砕され、文字通り光にされてしまった。サナエを狙った一撃だったのだが、位置の問題で巻き添えを食らった俺の立ち回りが敗北の原因か。


「だけど、初の大会でベスト16は凄いよサナエ。また一緒に大会でような!」


「私は良いけど…ミツルギ君がなんて言うか……」


「レオン?確かにアイツが一人になっちゃうのか。じゃあこの話は……いやでも勿体ないよ!こんなに上手いプレイヤーなのに……」


「上手だなんて……私なんてまだまだよ?」


「いやセブソを使える時点でこのゲームの上澄みだから。君は凄いよ!」


 サナエのゲームセンスは目を見張るものがある。彼女が元来持っている反射神経と近接戦のセンスはゲームにおいても遺憾無く発揮され、流石といった感じだ。

 素直にサナエを褒める日が来るとは、俺は自分の変化に笑っていた。たった数日でここまで彼女と打ち解けることができるなんて。


(今日が終わったら……俺は…)


 サナエの善意に乗っかって有耶無耶になってしまったが、俺はまだ謝れていない。今までの事、そしてあの日彼女を拒絶した事を謝罪したい。そして今度こそ……


「それで、この景品どうしょっか?」 


「ん?どうするって?」


「だって私、プラモデルなんて貰っても作る工具なんて持ってないし……。それに本当はミツルギ君が持ってるべきだって思ったの。」


「サナエが貰っても良いと思うよ。アイツならまた大会に出て勝つって言うからな。……涙目になりながら。」


「じゃああげよ!?ミツルギ君が可哀想だよ!」


 サナエが慌てふためく姿が可笑しくて俺は笑ってしまった。


「時間があったら渡しておくから……」


「俺がするから良いよ。だってサナエ、レオンの連絡先持ってないだろ?」


「え?……あっ!そうだね……そうだった。」


「だろ?そう言うわけだから、俺が……」


 彼女と景品を眺めながら話しているだけで、俺は楽しかった。


「ならそれは、我々が頂いても問題ないと言うことか?」


 だが幸せを謳歌している時に限ってバカはやってくる。それは偶然か必然か、それとも運の帳尻合わせか。

 声のする方を向くと、俺が最も出会いたくないゴミ溜めの塊がそこにいた。来なくて良いのに……。



今夜もう一話上がります。

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