EP11 Re:N回目の戦い
俺とサナエの模擬戦闘が始まった。お互いの間を張り詰めた空気が支配する。俺が彼女に勝った事が無いからだろうか、緊張で手汗が吹き出し、口内が乾く。
……いや、今は戦いに集中すべきだ。そんな思考は早急に辞めよう。
『勝算はあるのですか?』
レイザの問いに対して俺は無言で頷く。俺はサナエと何度も戦い、そして負けている。それら全ての戦いに挑むにあたって俺は戦術を変え武器を変え、ありとあらゆるを試した。その度に負けてはいたが膨大な戦闘回数は裏切る事なく、俺に次の戦術のヒントを示してくれる。
その中で最も勝利に近づいた事象を元に構築した戦術。数週間前から考えて少しずつ形にしていた物を、今使おう。
「タアァッ!」
サナエが両剣を構え突撃。両剣とは柄の両端から刃が伸びた武器で、一部界隈ではダブルセイバーとも呼ばれるものだ。自分にも刃が当たりうる構造だが、極めれば隙のない連続攻撃を可能とする他、回転を加えて投げる事で円形の斬撃を飛ばす事もできる。
彼女はフェイントのない、だが凄まじい速度で距離を詰めてくる。いつもなら俺も対抗して突撃を試みるが、今回は違う。
「……?」
彼女を迎え撃つといういつもと違う俺の動きに一瞬戸惑いを見せたが、すぐに切り替えて接近。俺に斬撃を喰らわさんと迫るが、それを俺は難なく回避する。素早く正確な攻撃だが、それ故に剣先の軌道を読むのも容易い。だがそれは彼女も承知済みだろう。息をする間もない追撃が、俺の回避先へ的確に繰り出される。
だがこれも体を逸らし避けてみせた。三回、四回と更に斬りかかってくるが、俺は反撃も防御もせず回避に徹する。
「っ!?」
流石のサナエにも明確に驚愕の色が浮かび、その動揺は剣筋わ僅かに鈍らせ隙を作る。水の一雫が如き一瞬の間、ほとんどノーモーションで突きを繰り出す。
「シッ!」
「くっ……?」
不意を突いた一撃は防がれてしまった。けれどそれは想定済み。そもそもこの攻撃は距離を取る為の物、致命打にならなくとも今の俺にはそれだけで十分だ。
後方にステップ。火属性の法術弾による牽制射撃をしつつ距離を取る。サナエはそれらを難なく躱すが、接近する隙は与えない。地面に剣を突き刺し、そこから魔素を流し込む。
「"フレイム・ピラー"!」
炎の柱という名前を冠した法術を発動。俺を中心として計6本の火柱が上がる。
「防御を固めている……いつも違う……?」
サナエも察し始めている。そう、彼女の言う通り俺は防御を重視した戦法を取っている。攻撃重視の前衛スタイルを得意としている俺がその様な立ち回りをしている事に驚いているのだろう。
レイザも疑問を抱いている様だ。何か策があるのか?と無言の問いを投げかけて来るが視線で「まあ見てろ」、そう返す。
「ホーリーランス!」
サナエの周囲に生成された光を放つ槍が出現し射出されるが、それを難なく回避。更に追撃と言わんばかりに氷塊が降り注ぐが、火柱が盾となって阻む。
彼女は光属性と氷属性が得意で多用している。特に光属性は弾速、制度、貫通力に優れた強力なものだ。しかし直線的な攻撃が多く着弾地点が読みやすい上に、火柱によって射線が制限されている為、この状況では決定打になりにくい。ちなみに氷属性というのは水属性の派生だ。
火柱によって大きく動きが制限させる為、格闘戦に持ち込ませることは難しい。したがって彼女は射撃戦をせざるを得ない訳だが、その状況は俺にとって有利と言える。
「ッ!……。当たらない……」
次々と撃ち出される攻撃を全て見切り、火柱の隙間を縫って放たれる攻撃を最小限の動きで避け続ける。
次々と撃ち出される攻撃を全て見切り、火柱の隙間を縫って放たれる攻撃を最小限の動きで避けつつ反撃。自然属性の派生、風属性の”ウィンドエッジ”を発動。俺が剣を振るう度に鋭い三日月型の斬撃が彼女を襲う。
「クッ……!」
近戦に持ち込めず、彼女は焦りと苛立ちを募らせているだろうがそれもそのはず。実を言うと彼女は俺より遠距離における法撃戦の腕は低い。確かに彼女の近接戦の腕は強力だし、法術の威力も俺より高い。だが命中精度はそこまで高くないのだ。
それに引き換え俺は得意な中距離戦なため精神的な余裕があり、体力の消耗も少ない。この勝負において重要な事は短期決戦ではなく長期戦に持ち込み、相手の精神を削っていく事にある。
サナエの攻撃を回避し、反撃を繰り返す。攻撃の手数は変わらないが、少しずつだが彼女に疲労の色が見え始めた。
「手強い……けど!」
だがサナエは俺を攻め立てる。虎視眈々と防御を崩せる隙を狙っている。事実、俺もそろそろ火柱を維持できなくなりつつある。魔素を取り込み、反撃の法術と火柱にそれぞれ供給し続けるのはあまりにも難しい。
「限界か……!」
俺は火柱を解除しサナエから距離を取るが、彼女は無論詰めてくる。馬鹿正直なまでに堂々と、真正面から来る彼女の立ち回り。それは絶対的な戦闘技能、そして"あの力"からくる自信の表れか。だが教えてやろう。やられ続けた者の意地を!
「いつまでも通用すると思うなよ!」
俺は雄叫びをあげながら突撃。彼女はそれに反応して迎撃の構えを取る。だが彼女とぶつかり合う寸前、俺はサイドステップ。
「!?」
虚を衝かれたサナエの表情に僅かな動揺が生まれる。その隙に俺は剣を構える。柄を頬に当てがい、剣先をサナエに向ける。
剣を銃に見立て、剣先から銃口の様に法術弾を撃ち出す。掌から放つより精度の高い射撃ができる代わりに反動が大きいという欠点があるが、今はその方が都合が良い。
「アシッド・バレット!」
闇属性の派生、毒属性の弾丸をばら撒きながら反動で後方へ下がる。
「くっ!」
サナエは咄嵯に防壁を張るが、それは悪手だ。毒の弾は弾速と引き換えに触れたものを腐食させる性質をもつので魔法防御は意味を成さない。
だがプラクティススーツは毒による腐食をものともしていなかった。流石の防御力といえよう。
「……ハァァァッ!」
サナエは被弾をものともせずにこちらへ突っ込んでくる。だが馬鹿正直に付き合うつもりはない。防御と回避を主としつつ、常に動き回り射撃戦を継続する。"とある準備"が整うまで、俺はひたすら耐え続けた。
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