Re:EP7 レイとレイザ

 さて、紆余曲折あって俺は体内の同居人と出かけることになった。流石に俺が二人いては大問題になるので、俺の中に彼を取り込んでの外出。所謂ソロ二人旅だ。


「一行で矛盾してるよな。」


「地の文にツッコんでいる……?」


 とはいえ彼にみっともない格好をさせるわけにはいかないので、レイザのコーディネートを行なっていた。

 今さらっと出たレイザという名前が、俺がつけた"俺"の名前だ。俺がオリジナルのレイだから、こいつは"ザ・レイ"。それのザを後ろに持ってきた名前がこれだ。気に入ってくれたらしく、呼ぶたびに声が高潮している。


「どうだ。結構似合ってる思うけど?」


 鏡の前に立つレイザは、自分が言うのもあれだがそこそこに良い服を着ていた。彼の雰囲気に合わせて髪色に似た色のカーディガンを中心に、落ち着いたテイストのコーデを選択。残暑が残る9月でも涼しさをまとった、そんなファッションだ。

 彼は鏡と自分を交互に見比べ、段々顔が緩んでいる。


「なんかアレだな。イメチェンした俺を見てる気分だわ。」


「ありがとう……ございます。名前に服装までくださるなんて……、」


「良いっての!乗り掛かった船ってやつ?いや、この場合俺が船か……」


 怪しいことわざを述べながら、俺はレイザを取り込んだ。

 

「さて、行こうか。行き先はどこが良い?」


『そうですね……では、"コート"で1番栄えている所へ行ってみたいです。私の中にある記憶と比べ、どれだけ変わっているのか見てみたいものですから。』


「分かった。じゃあ"テンカ"に行ってみるか。」


 などと会話しながら自宅一階にある店へと降りた。俺の両親は"飲亭"という飲食店を二人で経営しており、この辺りでは有名な店だ。見た目は若い美男美女である彼らは年代問わず客に人気で、俺も小さい頃は手伝ったりもした。

 まだ開店時間である11時まで一時間とちょっとある。母さんが机や椅子を拭いていた。恐らく厨房には父さんがいるのだろう。


「ちょっと外出てくる。」


「あら、どこに?」


「テンカに行ってくる。なんか買った方が良いものとかある?」


「あー……大丈夫。多分無い。」


「そっか。じゃあいってきまーす。」


 外に出ようとするが、後ろから母さんに呼び止められた気がした。振り向くとすぐそばまで母さんが来ていて、両手を広げてこちらを見ている。


「……また?」


 俺が溜息混じりにそう聞くと、母さんは自信げに鼻息を吐いた。


「……少しだけだぞ……?」


 俺は母さんに抱きつくと、母さんは満足そうに抱き返した。所謂"行ってきますのハグ"だ。そして帰って来たら父さんから"おかえりのハグ"が待っている。……いや小学生かよ……。

 実際子供の時の日課だったのだが、それが今でも続いている。


「……もう良いだろ。」


 引き剥がすと母さんは少々不満げな表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「いってらっしゃい。気をつけてね。」


 ロードバイクに跨り、俺はレイザを連れて目的地まで走った。



 さて、俺とレイザは目的地である総合アミューズメントパーク"テンカ"へとやって来た。横にいるレイザが目を丸くして、目の前にそびえる巨大な建物を見上げていた。

 彼が驚くのも無理はない。この"テンカ"はこの国はおろか、サンノマルが属するトーア州に建つどの商業施設よりも巨大な建物であるから。ほとんどが海に造られた人口島の上にある為、島国であるサンノマルでも土地の問題を気にせずに作れるという訳だ。


『すごい……この様な建物が……今のサンノマルにはあるのですね……!』


「まあな。だが、驚くのはまだ早いぜ?」


 テンカに入るとそこには未来が広がっていた。建物の中を走るモノレール。頭上を飛び交うホログラムの動物達。そして俺の前にやって来たドローンから表示される、半透明のホロスクリーン。このドローン自体も浮遊法術を駆使して、プロペラなしで飛んでいる。

 この国の最新技術達が惜しげもなく披露され、この建物そのものがテーマパークの様だ。


『私は夢でも見ているのでしょうか!?ああすごいっ!素晴らしいッッ!』


 レイザは辺りを見渡しながら目を輝かせている。言い忘れていたが、彼が俺に取り込まれている時は俺の近くを幽霊の様に浮遊している。当然だが声も姿も俺にしか見えない。


「昔の人間でも分かるもんなのか?」


『分かりますよ!貴方は私をなんだと思っているのですか?ちょうどこの国が、戦後一番の発展を遂げていた時を見ていました。0系新幹線くらいは知っています。ご存知ですよね?』


「0系……つい最近、現存する全ての機体が引退したって、ニュースであった様な……」


 俺が記憶を掘り返していると、レイザはショックを受けた顔をした。


『ゼロが……引退……?じ、冗談は顔だけにしてくださる?』


「お前……。覚えとけよ……。」


 なんだかどさくさに紛れてとても失礼なことを言われたが、ままええわ。

 テンカの中で長距離の移動をする場合、歩く間抜けはいない。いるとすれば"ミーチューブ"に動画を投稿している様な連中だろう。モノレールに乗り込み、飲み物を注文する。するとどこからか飛んできたドローンにがコク・コーカを運んできた。


『このドローン……でしたっけ?法術で飛んでいるのですよね?』


 レイザがありえない物を見た声音で俺に尋ねる。


「やっぱり気になるだろ?」


 無機物が法術を使っている。それは昔はもちろん、つい最近までありえなかった事だ。けれどこの国では既に無機物に法術をプログラムのように付与する技術が確立されており、残っている大きな問題は法整備くらいだと言われている。


『魔導具とは違う。そもそも魔導具でさえ最終的に法術を使うのは使用者……しかしこのドローンとやらは自身が法術を使っている……いえ、無機物なのだから"使っている"と言うのはおかしいか……?』

 

「すっげぇ喋るじゃん。」


 家にいた時よりずっと饒舌に喋り続けるレイザ。


『夢でも見ているのでしょうか?私が生きていた時よりずっと、この国は発展しているのですね…!』


 両手を合わせて感激している。気持ちはわかるが会話が進まないので、レイザを現実に帰還させる。


「とりあえずどうする?この電車に乗ってぐるっと見回ってみるか?」


『……おっと、申し訳ないつい夢中になってしまいました。そうしましょう。ここから眺めていても、かなり楽しめそうですから。』


 そう言って外を眺めているレイザの瞳は輝いていた。俺と同じ顔をしていながら、俺よりずっと明るい顔をしている。

 形容し難い思いを少々抱えてはいるが、今は彼が喜んでくれていることが嬉しかった。


 だが、視線を感じて周りを見渡すとなぜか周りの人達が怪訝な表情でチラチラとこちらを見ていた。

 何か変なものでも付いているのだろうか。慌てて俺は自分の体を見渡しす。……いや、変なものがついていた。レイザという変どころでは済まない者が俺に憑いていた。


「やっば……あー……。」


『あら?どうかしたのですか?……あっ……もしかして……』


 レイザが俺の様子が変わった事を聞いてきて、すぐに察しがついたみたいだ。


『も……申し訳ない……。』


 レイザは俺に謝ってきたが、これは彼の所為ではないだろう。だが会話ができないのは不便だ。何かいい方法はないだろうか。


(テレパシーとか……できる訳ねぇか……)


『流石にテレパシーは無理でしょうよ。』


 だよなー……。ん?


『あら?』


 これひょっとしたらできるんじゃないか?という訳で実際に、やってみた。


「んー……。」


『えーと……「明日のお昼はラ帝が良いな」……。下らないことを脳内に流し込まないでくださる?』


(あっはっはっはっは)


 どうやら口を開かなくとも会話を成立させることはできるらしい。俺とモノレールに揺れながら、質問を投げてくる相席者に返答を投げ返していった。

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