Re.EP2 法術の生い立ち
教室では担任の先生が授業をしている。だが、レイ・ラースのノートを取る手は動かない。
この学校では、一時間目に模擬戦をすることが決まりとなっている。彼は学年2位の実力を持つ、優秀な生徒だ。ちなみに1位はサナエでレオンは4位。
我が国サンノマルの軍隊(自衛軍と呼ばれてる)では、「兵たる者、戦の全に聡明であれ」という古くからの教えがある。その為サンノマル第一士官学校の高等部では装備の整備方法から簡易的な怪我の措置、法術の基礎を学んでいる。専門分野は大学部で習う。
ここで学ぶことはとても大切だと彼も含めて誰もが理解している。だが今はそれどころではなかった。
(何故だ。何故奴に勝てない!?)
彼がサナエと戦い、そして敗北したのはこれが初めての敗北ではない。入学以来、今まで一回も勝利したことがないのだ。100を超えた時点で敗北を数えるのを辞めてしまった程に。
戦闘訓練は勿論一対一だけではない。複数人とランダムで組み、時には人数に有利不利も付けて多彩な訓練を行なっている。だが彼は今までサナエが敵に回った場合、いつも敗北している。
無論闇雲に立ち向かっている訳ではない。彼女の癖を読み、何度も戦闘を見返して、戦術を変え武器を変え、ありとあらゆるを試した。なのに負けた。
(何が足りない……?俺に……何が……?)
彼は思考の海へと沈んでいく。だが突然、その額に激痛が走った。
「マ°ッッ!?」
彼に奇声を発させた痛みの正体は、教卓で教鞭をとる人物による雷撃だ。
「ラース!私のレッスンを上の空で受けるとは良い度胸じゃぁないか?」
「アシモフ先生……」
彼はレイが所属する二年B組の担任である“タケフツ・アシモフ"。英語混じりの多少おかしな話し方をするが、その実力や人柄の良さで人気のある人だ。
「別に……そう言う訳では……。」
「ふむ、ならばこの問題の答えを10秒で答えたまえ。」
アシモフは電子黒板に表示された問題を指差す。そこに書かれているのは難易度こそレイにとっては低いものの、暗算で解けるものではなかった。
「無理です……」
「やはり、聞いていなかったのだな。」
呆れた様な口調だがアシモフはレイを叱ることなく、何か察した様な表情をしていた。
彼は去年もレイとサナエの担任だった。彼がサナエに執着し、狂気とも言えるほどにライバル視していることは知っているだろう。
今のレイ・ラースはそうする事で、そしてサナエに勝つ事でやっと過去の業を払拭する事ができると思っている。いや、長い時間が経ち、そう思い続ける事しかできなくなってしまったと言うべきか。
「敗北の理由を考え、次に生かそうとする事は褒めるべき事。だが今はその時ではない。」
先生は諭すように言った。彼の言う通りだ。
「……はい。申し訳ありません。」
「分かればいい。だが、私のレッスンをスルーした君にはペナルティを与えなければならない。法術とはどの様な物なのかを簡単に説明したまえ。最もこの程度の基本知識、君にとってはイージーミッションだろう。」
「分かりました。……法術とは火、水、自然、光、闇の五つを司る精霊たちがもたらす魔素を使って発生させる現象の事です。
かつては生活に欠かせない物でしたが、約400年前にイーユウ州にて蒸気機関が発明された事を皮切りに科学技術が台頭してきました。それによって日用的には使われなくなったものの式典や一部の高級な製品、そして軍事分野においては未だに重宝されています。
法術を使うには空気中の魔素を体に取り込み、発現の仕方をイメージすることによって発動することができます。しかし、イメージが曖昧では思い通りに発現せず、最悪の場合は暴発し使用者に害が及んでしまうこともあります。それを避けるために声でイメージを補強する"詠唱"をしたり、法術を文字にした術式を書き込んだ武器や書物を用いて暴発を防いでいます。ちなみに前述の道具を魔導具と言います。
法術の種類は簡素な術式で魔素を放つ"法術弾"。複雑な術式を用いる"法術式"。そして前述の二つに分類するには強力すぎるものを指す"神法撃"の三種類があります。
魔素ではなく、精霊そのものを使役して法術を使うこともできます。その性能は凄まじく、魔素を用いた物を軽く凌駕します。最も難易度も相応に高いですが。
例として挙げるならば、カミゾノさんの使用する物でしょう。」
彼がサナエの名を呼ぶと、彼女が立ち上がる。それを確認して続ける。
「彼女が使える使霊術、"女神の福翼"《ディバインド・ウィング》は光属性の精霊を使役してできる法術です。」
レイの後ろの方で歓声があがったのは、サナエが使霊術を使用したからだ。
「使用すると、身体能力、魔素の使役精度、法術耐性の付与……ゲームの様な言い方になりますが、全ステータスアップのバフがかかります。さらに、背中に光の魔素で作られた翼が生え、飛行も可能になり……つまるところ、強くなり空が飛べます。」
最後の方は雑になってしまったが仕方ない。なぜなら彼女がこの力を発現してからレイは彼女に勝てなくなり、挙句関係が拗れてしまったのだ。多少は私怨が乗ってしまうのも仕方ない。
語り終わると、彼はふうっと息を吐く。長時間喋りすぎた為に口の中はとても乾いていた。同時に授業の終わりを告げるチャイムがなった。
「イグザクトリー、ラース!100点だ!やはり君は優秀だな。……もう少し、周りを見る事ができたら、さらに素晴らしいソルジャーになる事が出来るだろう。いやなれるに違いない!」
先生はそう褒めるが、彼はこのくらいできて当たり前だと思っていた。
( ……それでもサナエには勝てないのに……)
「だからそういった事はやめろと言っているだろう?いき過ぎた力への
実際にレイは友達と呼べる人間がレオンくらいしかいない。サナエへの執着が、彼の人間関係を著しく狭めている事は事実なのだから。
……いや、友好関係が狭いのはそれだけが理由ではないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます