2話 相対す
「一つ提案。本当に腹が空いてるだけなら俺が魔法で好きなだけ奢ってやれるがそれじゃあ不満か?」
土ぼこりが治まり荒れ果てた大地に一人立ち尽くしていたセオドアはにべもなくそう問い掛けた。
屋敷を出てからどのくらい時間が過ぎたことだろうか。災厄龍の
「まさに生ける災害だな」
単純な力比べでは被害が大きくなるだけだと今度は持久戦に持ち込んでみたがどうやら大地から
「おっと」
不意に空が暗転し不気味な轟音が鳴り響く。災厄龍の天雷攻撃だ。そうそう同じ手を何度もくらうわけにはいかない。魔法で地面を穿ち大岩を掘り出す。そしてそのまま奴にぶつけた。なんとか気はそらせたが今度は暴走した雷撃が森に落ちかける。すかさず大穴から鉱物を削り出し巨大な鉄柱を生成。狙い通りに誘導された雷撃は鉄柱を伝って地面へと四散した。
すると突然頭に奇妙なノイズが響き渡る。精神攻撃を疑ったがどうやらテレパシーのようだった。
「あーはいはい」
フードを脱ぎ耳に手を添える。そして変換魔法で受信感度を調整した。
『見事だった。人間、私の言葉が分かるか?』
こくんと頷いて見せた。
『だがどうか邪魔をしてくれるな。私を目覚めさせたのはこの大地そのものだ。私の行いがひいてはお前たちの為にもなるのだぞ?』
なるほどな。大体見えてきた。実は最近、大地のマナが異常な高まりを見せていることに気づいていた。奴は溜まりきったマナが自然環境に悪影響を及ぼす前に消費することによって均衡を保とうとしているということか。ドラゴンが暴れた方が被害は少なくて済む、のか?にわかには信じられないがこれは言い伝えにも記されていない真実だ。奴は数百年おきにこんな大惨事を引き起こしてきたのか。
「では何故過去の人間たちにもそう伝えなかった?知らせていれば無用な争いを避けられたかもしれないだろう」
『人間は皆同じだ。私を見れば誰もが悲鳴を上げて逃げ出すか敵意を持って挑み掛かってくるかしかしなかったではないか』
「そうか。それは悪かったな。だがお前も俺たちの領地を侵害しているのは事実だ。それに今も本気で攻撃してなかったろ?お見通しだぞ」
なにしろ大自然のマナを味方につけているんだ。この程度の破壊規模で収まるはずがない。
『ほう…………人間の中にもいるのだな。お前のような面白い奴が。ふふ気に入った。お前名前は何と言うのだ?』
「俺はセオドア・マクシミリアン。魔法使いだ。教えたんだからお前も名乗れよ。それが礼儀だろう」
『む、そうか。エリュレイアス。それが私の名前だ』
「ドラゴンにしても変わった名前だな。もしかしてお前雌なのか?」
『メスとは何だ?』
「えーと母親と同じ性別かってことだ」
『母と同じ。うむ、であればその通りだ。ではお前もメスなのか?』
「何でだよ。違うよ俺は男だ。父親の方だ」
『お前が私の父親?』
「何でそうなるんだよ!お前には俺がドラゴンに見えるってのかっ!?」
『何を言ってる。お前は人間だろう』
「知ってるよそんなことっ!ああもういいっ。聞いた俺が悪かった」
とぼけた会話を続けているうちにすっかり日が沈みかけていた。
「それで?暴れ済んだらまた地下に戻るのか?」
『そうだ。かつてもそうした。それに私はそれ以外の生き方を知らない。私には破壊することしか出来ないのだから』
「…………事情は分かったがだとしても地上を荒らし回っていい理由にはならないな。悪いが決着をつけさせてもらうぞ」
『そうか。では私も己の使命を果たすとするか。これより先は全力でいかせてもらうっ』
言った直後、大地から凄まじい量のマナが濁流となってエリュレイアスに流れ込んでいく。よーしそれでいいんだ。つまらないことはさっさと終わらせよう。それにこっちもそろそろ集まってくる頃だからな。これで漸く本気で迎え打てるってわけだ。
ああそうだな。思えば随分と長いこと世話になってきたな。本当によく来てくれたな、お前たち。
『ッ!?』
即座にセオドアに起こった変化に気づいたエリュレイアス。彼の魔力が先ほどとは比べ物にならないほど急速に増大していく。それは十倍、百倍、千倍、いやもっとそれ以上っ。あり得ないことだ!彼は人間のはずである。これではまるでエリュレイアスと同じ、いやそれすらも超えた何かだ!!
変化はそれだけではなかった。何かがいる。エリュレイアスにも見えないが魔力を秘めたナニカが彼の周囲に集まっている。
『答えろセオドア!それは一体何なのだっ!?お前には見えているのだろうそれが!!いや、まさか』
__今から百年ほど昔の話だ。ある時偶然彼らと出会いそして俺はその姿に魅了されてしまった。その時初めて俺は自分について知ることができたんだ。そう気づいたんだよ。俺は。
「俺は根っからの『可愛いもの好き』だってことになっ!」
〈おししょーさん!助太刀しに来ましたZE!!〉
〈あたし達が来たからにはもう安心だYO!!〉
〈私たちのお家がある森を守るために戦ってくれてるんでしょ?ありがとう!大好き!!〉
〈そんなことよりボクお腹すいちゃった。ねぇおししょーさん、おやつ持ってなーい?おやつ!〉
〈ふぁ〜……眠い〉
彼らこそは、妖精。万物に宿る生命の化身であり龍族ですら彼らの姿形を見ることができない幻の存在である。そして世界でもただ一人セオドアだけが彼らと心を通わせることで唯一無二である『妖精魔法』を使うことが出来るのである。
「よく来てくれたな!お前たち。相変わらず可愛い奴らだよぉ、このこのぉ〜。また少しだけお前たちの力を貸してくれないか?」
すると妖精たちは楽しそうにへらへらと笑いながら頭上で大きな丸を作った。緊張感には欠けるが仕方ない。人智を超え何物にも囚われない自由奔放さが彼らの持ち味なのだから。
『やはり妖精か。実在していたのだな。それがお前の戦う理由なのか。彼らを味方につけるとはとんでもない男だ』
「お前も自分の気持ちに素直になってみたらどうだ。案外上手くいくかもな。よし、では行くぞ!」
『ああ、来いっ!!』
妖精魔法で巨大な光弾を現出させるセオドア。対してエリュレイアスは口の中に眩い光を溜め込んでいる。両者真っ向勝負の準備は整った。次の瞬間、セオドアが放った光弾とエリュレイアスの
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