3話 部屋の主
「おお。やっと起きたみたいだね」
ゆっくりと目を開けると目の前にオッドアイが特徴的な少女が立っていた。どうやら彼女のベッドで眠っていたようだ。あれからどうなったのだろうか。
そうだ。確か光が収まった後、地面に倒れ伏した奴に近づいた時にいきなり睨みつけられて意識を失ったんだった。まさかあれが『死の呪い』ってやつだったのか。
まったく間抜けな話だ。あらかじめ呪い返しを施していたというのに効果無しな上あっさりと死んでしまうなんて。しかも何だこの奇抜な格好の女は。
「やあやあおはよう。ボクはツクリガミ。まあ異世界の女神様ってとこかな。それより見てたよ〜君と災厄龍の戦い!まさか本当に勝っちゃうなんてすごいねぇ!」
無視して辺りを見回す。薄暗い部屋の中で四角い箱だけが光っていた。いや知ってるぞ。あれはノートパソコンだ。これに壁際のショーケースの中には美少女フィギュアやレトログッズが大量に飾られている。
こいつオタクか?
知らないはずの単語が次々と浮かんでくる。しかし今ならその理由も分かる。というかたった今思い出した。俺は転生者だった。死に方は覚えていないが気がついたら異世界の森の中で子供の姿で突っ立っていた。
しかし今はそんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。
「なぁツクリガミさん。頼みがあるんだが俺を生き返らせてくれないか?」
「うんいいよいいよ!ボクに任せたまえっ。君にはまだまだ期待してるからね!それじゃあいくよ〜ホイッ!」
快諾して直ぐになにやらごにょごにょと呟くと掛け声と共に勢いよく両手を広げた。しかしいくら待ってもなんら変化がなかった。
「あれ、おっかしいなー。もしかして君一度転生したことあるカンジ?」
「ああ。おそらくな」
聞くとツクリガミは眉根を寄せた。
「あちゃーそれじゃあ無理だ。転生できるのは一人につき一回だけって決まってるんだよ」
「そ、そんなっ!…………もしも戻れなかったら俺はどうなる?」
「このままここで消えるのを待つしかないかな。ボクは全然かまわないよ?ちょうど暇してたからね。そうだ!ゲームでもする?なんなら君をフィギュアに変えてそこに飾ってあげてもいいよ?」
さらっと空恐ろしい提案をされる。しかしどうやら嘘をついているわけではなさそうだ。なんてこった。頼みの綱が切れて思わずその場に項垂れる。すると背中をさすりながら「よしよし。力になれなくてゴメンね?」と気を遣ってくれたので気にしないでくれと返した。
「代わりに何か望みを叶えてあげようか?転生以外なら何でも言ってみてよ!」
「何でも?…………それじゃあ一つだけお願いがあるんだがいいか?」
「なになにっ?女神さまであるボクに任せてよ!あ、漫画でも読む?」
「そこの」
「うん?」
「そこにあるフィギュアをよく見せてくれないか?」
「……へっ?」
それから少し時間が経ち__
「アハハハハ、そうだよその通り!フィギュアってのは魂!クリエイターたちの萌える熱い気持ちが大切なんだ!細部にまでこだわるからこそ素晴らしい造形美が生み出されるんだっ!!」
「そうだなっ。心血注いで作り上げるから唯一無二の作品が生まれるんだ。まさに『神は細部に宿る』って言葉通りだ!」
「あれぇボクも神だけど?」
「お、そういえばそうだったな。すっかり忘れてたよ、ははは」
「あはははは!こいつぅ〜!!」
俺たちはすっかり打ち解けていた。今もお互いが選んだ一押しフィギュアの素晴らしいさについて熱く語り合っていたところだ。
「はーなるほどねっ。同志よ!君は
「それだけじゃない。妖精や屋敷の使用人たちがどうなったかも気になってるんだ」
「うんうんっよし分かった!一つだけ方法がある。それで君を戻してあげられるかもしれない」
「!本当か!?」
勢いでツクリガミの両肩を掴んだ。すると彼女は得意げに指を鳴らすとどや顔で説明を始めた。
「今の君は魂だけの存在だ。もしもあちら側に空っぽの身体があるならそれに移せるはずだよ」
「空っぽの身体か。俺の元の身体が残っていれば可能性はあるが」
「残念だけどそれは難しいと思う。でも安心して!ボクが特別な身体を用意してあげたから!とっておきの自信作だよ」
特別な身体?自信作?途端に不安感が募る。本当に大丈夫なんだろうな?
そんなこちらの心配をよそにツクリガミは再び呪文を唱えて両手を高く上げた。やがてじんわりと眠気が襲ってきた。もうこうなったら自棄だ。信じてやるから救ってくれよ。
意識が闇に飲み込まれる寸前彼女の声が脳裏に響いた。
「……死の呪いのことだけどあれはボクの仕業じゃない。君ならいつかその意味が分かると思う」
確か神の怒りに触れてという話だったか。ツクリガミでないのなら別の神の仕業ということか?
「それと向こうにはボクの古い知り合いがいるから会ったら君からよろしく伝えてくれるかな」
それは構わないが名前くらい教えてくれないと分からないぞ?と抗議の声を上げるよりも早く俺の意識は再び消失した。
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