寝かし付けてとせがむ先輩が可愛すぎて抗えない

闇野ゆかい

第1話彼女の可愛さの前には抗えない

「どうしたの?そんなとこに突っ立って。気に障るようなことしてないはずなのにぃ」

「どうしたじゃないですよ、先輩っ!ポテチをつまみ食いしながら漫画を読まないでくださいって言ってますよねっ、もうぅ~」

トイレから戻ってくると、ベッドに寝転がりながらポテチを摘まんで漫画を読む久瀬葵くぜあおいの姿があった。

声を荒らげずにはいられなかった私は、彼女に何度したかも分からない注意を口にした。

「ポテチを摘まんだ手で捲ってないよ!本当だってぇ~衣依ちゃ~ん!」

「そうだとしても、だめですっ!」

「ちぇ~っ。一人にするのが悪いよぅ~」

小さく舌を出して、拗ねた幼児みたいなことを言い出す彼女が憎たらしくもあり可愛くも感じた。

待ちきれない様子の彼女は身体を起こし、胡座をかいたかと思えば手招きをしながら、「きてきてぇ~衣依ちゃんっ!膝枕してほしいよぅ~」とせがんでくる。

「なかなかやめさせてくれないから嫌なんですけどぅー。困った先輩ですね」

ベッドに歩み寄りながら、愚痴をこぼしやれやれと肩を竦めた。


私は、彼女に膝枕をしていると頬や口もとが緩んでご満悦な笑みを浮かべた彼女に見惚れてしまった。

校内では他人を寄せ付けない雰囲気オーラを漂わせている先輩が、放課後になり後輩の自宅に押し掛け、甘えるなんて校内の生徒や教師は想像出来ないだろう。


金曜日の放課後にあたる今日は、このまま彼女が泊まることになっている。


彼女の可愛さには抗えないほどだ。

スキンシップもクラスメイト、部活仲間より激しさはあるが、心地好くなってしまっている。


寝かし付けてとせがんでくる彼女の顔は、可愛くて破壊力があり......ヤバいっ!


私が高校に入学して、まだ右も左も分からず、地味な一生徒にすぎなかった頃にはこんな楽しい日々が送れるとは思いもしなかった。


彼女との出逢いは──


***


私が入学したての4月は友人づくりに苦戦し、心細くて帰宅すると涙が溢れて、枕を濡らしていた。

そんな私に対し、湿気に悩まされる梅雨以前の5月中旬に開催された体育祭で転機が訪れた。


クラスメイト達と馴染めずにいた私は、応援席で競技に出場しているクラスメイトに声援を送っていた。

グラウンドでは学年、クラスがバラバラに入り乱れ、指定された目当てのもとに駆けていた。

そのとき行われていたのは借りもの競争で──一人の女子が私のクラスの応援席をめがけ、全力疾走で近付いてきた。

迷うことなく、私の正面で足をとめ、手を差し出してこう言った。

「一緒に来てくれない?」

彼女が発した一言に断ろうにも断れず席を立ち上がった私は手首をクッと掴まれ、彼女に連れていかれたのだった。


競技を終え、解放した私に向かって彼女が発したのは──


──貴女が好きになっちゃった。だから私と付き合って


という言葉せりふだった。


彼女の発した言葉に理解できずに思考が停止していた私の身体はクッと引き寄せられ、唇にぷるるんとした柔らかい感触がして呼吸ができないことに気付き、離れようと足掻くが無駄に終わった。


私が思い出せるなかでのファーストキスは、そのときの久瀬葵からされたキスだ。

ときめきなんて感じなかった。ただただ、彼女のだ液と舌を絡められた気持ち悪く後味の悪い感触が残っただけだった。


キスの感触を思い出す度に、カップルってこんなことをしているのか、と想像してしまい吐き気が込み上げた。


体育祭の翌日から久瀬先輩の猛アプローチに悩まされることになった。


***


と、そんな感じで彼女との出逢いは衝撃的で最悪なものだった。


現在いまの関係に至れたのは、彼女からアドバイスをもらい友人が無事につくれ──彼女の好意を受け入れ、咀嚼してがあってのことだ。


先輩は当時も変わらずといった感じだった。


長かった髪を毛先が耳たぶに当たるくらいの短さにカットしてもらい、相手が話しかけやすいように明るく振る舞いだしたら今の私になっていた。


放課後の彼女と二人きりの空間は、穏やかに時間が流れていく。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寝かし付けてとせがむ先輩が可愛すぎて抗えない 闇野ゆかい @kouyann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ