第16話 修道院生活について
「ここって厳格な修道院、て聞いたけれど意外にそこまででもないわよね」
ひょいひょいと焚き付けになりそうな乾燥した枝を選びつつ、ヒロインに話しかける。
すると見かけは無気力系微少女(露骨に磨かれてないって感じ)のヒロインが、困ったような顔をして答えた。
「あー…まぁそう見えるよね、今までの生活だと」
「え?!この生活で?!全部自分達で自分のことを行うし、祈りはかかさないし、厳格ではないの…?」
何やらよく分からない開き直り方をした元お姫様が、驚いたように会話に入ってくる。
この世間知らずが…
こういう無駄なお育ちの良さってのが鼻につくのよ。
今の私たちの生活は、修道院としては結構緩い、と思う。
思う、というのは実際に他の院で生活した事がないからだ。
今の私たちの生活は、基本的に鐘とあわせて行われる。
朝の鐘(5時)に合わせて起床。
身支度を整え、各自自室で30分ほど祈る。
祈りは、古参のシスターが終了のベルを歩きながら鳴らすので、それが部屋の前を通ったらお終い。
その後は朝の簡単な作業だ。
教会及び修道院まわりの簡単な清掃だとか、飼っている鶏の世話だとか、祭壇の整備だとか、それこそ鐘を鳴らすだとか。
7時の鐘がなった後は、朝餉だ。
当番がつくった朝餉を黙し、祈り、食べる。
食べる前、食べた後の口頭の祈りが終わればまた各自作業。
昼餉をとった後は、全体での祈りの時間。
神々のお言葉や、故事が記載された教典をもとに、シスターオルミエーヌや時に外から来られる司祭様による説教が行われる。
正直この時間が一番しんどい。
なんでよりによって昼食後なのよ…
それが終わればまた身の回りの作業、夕餉、夜の祈りを行い、19時の鐘がなったら消灯…
アホほど消灯時間が早いのは、暗くなってしまうからだ。
電気がないこの世界ではロウソク代だって馬鹿にならない。
これだけ聞くと朝早いし、夜も早いし、娯楽もないしってかなり厳格っぽい。
ぽいが。
諸々抜け穴があったりする。
基本、厳格な修道院というのは、必要以上の私語も許されないと聞いたことがある。
その割に厨房や外作業時の通り、割合私たちは私語を許されている。場所は決まってるけど。
…そしてそのせいで、今日は地獄を見たけど。
更に
厳格な院は懲罰で時に打擲もある、と聞いたが、ここはそこまででもないし、実は19時以降も申請すれば起きていることは可能だ。
どうあっても21時には完全消灯になるが。
とすれば、結構自由を許されてるし、想像ほどの厳格ではないのでは?と思ってしまう。
「まぁ外界と遮断している、という意味では厳格だと思うわね」
「ん?いやいや遮断してないよ。」
「え?」
「外出理由は勿論申請がいるけど、外に行くことも出来るよ」
「「え?!」」
「あーまぁ基本的に一定以上の組紐もらってからだけどね」
「「あー…」」
なぁんだ。やっぱりそういう事か。
修道院のシスターには基本的に位はない。
基本的には、というのは、やはり在籍年数とか敬虔さなどによって、自然発生的に『組紐』が出来たからだ。
一番古参、ないし、その敬虔さで定期的に行われる司祭の問答(ようはテスト)で認められたものは紫の組紐。
紫には劣るが、10年以上所属しているか、司祭の問答である程度の成果を認められたものは赤。
5年以上の所属または司祭の問答で問題ないとされたものは緑。
所属後5年未満、ないし司祭問答でまだまだと判断されたものは水色。
司祭の問答も受けたことがないものは白。
当然、私やお姫様は白ってわけ。
「参考までに聞くけど、外部に行けるのって…」
「まぁ緑からだね。それでも宿泊とかは勿論ダメだよ」
「そうよね…」
「ちなみに緑以上なら、子どもたちの学校で先生にもなったりする。赤になったらそれこそ院とか協会の備品関係を外部とやり取りして仕入れたりするよ」
「え?学校があるのですか?!」
なぜかそんな所にお姫さまは食いついた。
まぁこんな辺鄙なとこにあるのって気持ちは分かるけど。
「あー…おたくらが行ってたような学校じゃないよ。青空教室。週に一回、街の一角で自由参加の学校開くの」
「ああ、そういう…」
慈善活動のひとつなんだろう。
「…学校…」
お姫さまは何かを考え込むように俯いている。
再びいらり。
「お姫さま、お話もいいですけど、薪拾いやってくれません?お手元、空みたいですけど~?」
「なっ…!」
カッとなりやすい。
煽り耐性ないよねー!
これはこのまま帰っちゃうかしら?
…あ、そしたらまた
ダメじゃん!!!
「…そうですわね。私の手落ちですわ…」
「……え…」
「仕事は!きっちりこなさねばなりませんわね!」
「ええ~…!」
これは…衝撃。
今までだったら絶対キレて自室に帰ってたのに…
ぷりぷり怒りながら手当り次第枝や薪を拾い出す。
「くっ…!重いですわ…!!」
「え?!その量で?!ていうか待って待って生木!狼煙あげるんじゃないんだから!」
「え?!ちょっとどの木がいいのかしっかり教えてちょうだい!ゴリラなんだから簡単でしょう!」
「一番初めに教えただろがあ!!!」
……まぁ相変わらずの空回りぶりか。
人間やはりそうは簡単に変われない、ということを再認識するビビアだった。
ただしこの日の会話は、たしかにセリアナを変える契機になったのだ。
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