第15話 シスターモティカ

ゴリラリーンは激怒した。

必ず、この無知傲慢の女を厨房から除かなければならぬと決意した。

「…むぅ、確かにちょっと出来は悪いですわね…」

「ちょっと?これをちょっとと言うか?おん?」

「まぁわたくしですから、直ぐに出来るようにはなると思いますが…非効率ですわ」

「なぁその自信どっから来んの?ねえ」

ぴきぴきと自分のこめかみに血管が浮いていくのがわかる。

「皮むき器はありませんの?それでしたらきっと上手くできますわ!」

「あったらまずお前のかわをむ_!「いいっかげんにしろ馬鹿ピンク!ちょっと限度超えてるもー抑えらんない!金髪も1回黙れぇぇえええ!!!!」」

爆発寸前。

魂の叫びと言わんばかりのビビアの声に、リーンはゴリラから人に返った。

ぜえはあ肩で息をしながら、自分にしがみつくビビア。

きょとん、と不思議そうな顔をする自己肯定感カムバックお姫さま、そして……



「そうですね……とても朝餉の支度中とは思えない騒ぎ様ですね」



とてつもなく、さえざえと冷えた、鬼上官シスターオルミエーヌのお声…

戸口にはいつの間にか、完全に表情を消した、尊敬する、けれど同時に怒らせるととてもとても恐ろしい方の姿…

ああ、シスターのこんな声、あたし随分と聞いてなかったなぁ…

現実逃避に最後ここまで怒らせたのはいつだったっけ…などと考えながら。

ただただ、怒りを少しでも解いていただくべく、ひたすらに叩頭した。


その後は(当たり前だが)怒りを解いていただくことはかなわず、見事に三人揃ってこってり絞られ、朝餉の支度後はせっかく用意した朝餉にもありつけず、『祈りの間』で教典の一節の書き取りをするハメになった…


「うう…うう…あたしの朝ごはん…」

「勘弁してよ…私は完全にとばっちりじゃない…」

「わたくしだって真面目に作業してましたわ…」

こそこそとこそこそと。

あくまで小声でお互いを責め合う。

もう先程の二の舞は御免なのだ。

ちなみに祈りの間での書き取りは、わりあい軽い罰である。まだ秋口だし。

ただ朝ごはん食べれなかったのでね…色々身にしみてね…くぅ…

これは書き取り後、外作業で何か胃に入れるしかない。うん。


書き取り後、『祈りの間』に出てみると、角からちょいちょいと招く手があった。

「?」

「…何あれ」

「怪しいですわ…」

訝しむ二人をおいて、さっさと角を確認する、と。

「シスターモティカ…!」

「はぁい、これパン一つだけど。みんなでこっそり分け合いなさいなぁ~」

おっとりのんびり。

シスターモティカはふっくらした体型の優しい笑顔の方だ。

いつも優しく佇まいでニコニコとしていらっしゃる。

ビビアも時々あざとく間延びした話し方をするが、それとはまるで違う暖かな印象を与える声だ。

「で、でも…シスターオルミエーヌのお言葉ですし…!」

「朝餉の準備をした子が、朝餉をいただけないのは可哀想だわぁ…反省は『祈りの間』でしたのでしょ?あなた達の罰を勝手に軽減してしまった分は、私が責任をもって神々にお許しを願うわ。」

「うう…で、でも…」

「みんな慣れない中がんばってるわぁ、そうね、もし悪いと思うのならば、その分お仕事を頑張ってちょうだい。冬用の薪をもっとそなえたいのよ~」

「し、シスター…」

じゃあお願いねぇ~とたふたふとシスターモティカは去っていった。

パン一個で外の力仕事を任されたのは割に合うのか合わないのか…外で何かをつまむものついでの用事が出来たと思えばいいのか…

複雑な思いでいると、後ろから見ていた二人がつぶやく。


「もち?」

「…おもちみたいね」


思っても言うなバカタレどもが!!

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