第14話 仁義なき栄誉なき戦い

「ねぇ、ゴリラ」

「なんだ厚かま令嬢」

「…」

「わたくし、やっぱりここの食事はマズいと思いますのよゴリラ」

「そうかじゃあアンタを埋めれば少しは土壌の栄養になるかもなナマケモノ令嬢」

「…」

「だからわたくし思いましたのよ」

「どんなクソ案だ言ってみろ」

「…」

「ここの食事事情を改善しようと!」

「よおおおおおしまずは手元の残骸を見つめてから言ってみろやこの残飯生産機令嬢ぉぉぉぉ!」

「…アンタらどうやったら一晩でそんだけ拗れるのよ…」



一夜明けて。

厨房にて性悪ロリ美少女ビビアは胃がキリキリ痛む思いをしている。

何やら昨晩、揉めていたのは知っている。

知っていたが、関わって変に飛び火するのはごめんとばかりに皿洗いに精を出した。

全力で関わり合うことを拒否した。

その結果がこれだ。

ちなみにこの世界にゴリラはいる。

ただし遥か南の生き物で、お目にかかることは無い。

動物図鑑なんかには、どこの伝説上の生き物かと言わんばかりの謎の絵姿が載っている。

そのゴリラ呼ばわりされる(元)ヒロイン。

何故か周囲に少し納得されているのが哀れだな、と珍しく、うっかり同情してしまった。

しかし同情なんてするんじゃなかったと思うほど、今朝は殺伐としている。


そもそも朝の第一声がおかしかった。

『………おはようございますわゴリラ』

『…おう、おはよう穀潰し令嬢』

『……は?』

片や目がお岩さんの如く腫れ上がった高飛車金髪。

片や第一声かけられた瞬間に世紀末覇者みたいな顔をした豪腕ピンク。

……会った瞬間に何で対私以上の険悪な空気作ってるわけ?

自慢じゃないが高飛車金髪とやり合い、犬猿の仲なのは自分だったはずだ。

自分と金髪がやり合うなら分かる。

…なんで何の因縁も無いはずのコイツらがここまでいがみ合ってんのよ…

ついでに金髪は開き直っていた。

『わたくし、今までの下々の働きを事細かには見ていませんでしたの。だとすれば失敗するのは当たり前ですわ』

『これからはちゃんと、見て、聞いて、真似て覚えるつもりですのよ』

『だからきちんと指導してくださいましね、ゴリラ』

この間シャベル片手に埋めようとする山猿ヒロインを抑え込むのに必死だった。

金髪を思いやってではない。決してない。

全力で共犯になるのを避けるためだ。


それからずっとこうである。

金髪はやる気があるのはいいのだが、いざ厨房作業をやらせてみるとその結果は惨憺たる有様だった。

芋の皮を剥き、切る。求めているのはそれだけである。

にも関わらず、皮は極端に厚く切ってある場所、皮がそのまま残っている場所が多く、芽がのこったまま細切れにされてしまっている。

大きさも不均一でみじん切りサイズから、赤ん坊の拳サイズまである。どうしてこうなった。

それに加えて冒頭の発言である。

正直いつ事件が起きてもおかしくない。

殺人現場に居あわせるなど真っ平ごめんだというのに、指導係と被指導者という関係が逃がしてくれない。


地獄である。

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