第13話 ゴリラ襲来
今まで内心で、散々ヒロインのことを悪魔だの鬼女だの罵ってきた。
ただこれからは統一をしようと思う。
_この女、ゴリラだわ……!!!
「な、かぎ、何してるのよぉ!!?」
「どうせ鍵かけて立てこもってるだろうなと思って。あ、ここの鍵なんてないようなもんよ?あとで直しておくけど」
「そういう問題じゃないでしょう!淑女の部屋に押し入るなんて野蛮よ!何考えてるのよ!このゴリラ!!」
「やー今日の仕事全部ぶっちぎった奴に言われても痛くも痒くもないわー。あた…私がゴリラならアンタはナマケモノだわー」
「…」
泣いて意図せずとはいえ、一日仕事を全部放棄してしまった身である。
「…シスターオルミエーヌから伝言。『体調が悪いようなので今日一日休養をとること。明日は朝からいつも通り務めること』」
「え…?!」
思いもかけぬ温情に驚く。
目の前の女以上の鬼が…?!
そのまま表情に出てしまったのだろう。
ゴリラがしかめっ面を酷くする。
「…シスターオルミエーヌは厳しいけれど、筋は通っているし優しい方よ。分かってくれなくてもいいけど」
吐き捨てるように言う。
「…これも。シスターが持っていけって。」
そっとゴリラが差し出したのは、盆に乗った食事。簡素なパンとスープ、チーズ。
扉をこじ開ける時には横によけて、置いておいたらしい。
「…これ…」
「昼も食べていないのだから、ゆっくり自室で食べなさい、ですって。有り難すぎてこっちの涙が出るわ」
「…まずそうな食事」
「あ゛?!アンタは本当に!」
「まずそう…本当にまずそうなのに~!!」
ふえええええ…!と子どものように涙が出る。
涙なんてさっき出し尽くしたと思ったのに。
目の前でぱちくりと驚いた顔。
ちょっとした瞬間に可愛らしく見えて大っ嫌いな顔。
「みんな、きらいよっ…わたくしっいままですっごくがんばってきたのにぃ~!」
「ええ~何こいつ情緒不安定すぎる…」
「ここもだいっきらい!!ベッド固くて部屋は臭くて眠れないしお湯は好きにつかえないし~!みんななんか臭う気がするし~!」
「…本当こいつどうしてくれようかな…」
「しょくじも、味うすいしまずいし、パンは固いしっ…!」
「…よし、埋めよう。雑木林持ってこう」
「なのにっなのに…なんでこれ美味しそうにみえるのよ~!」
「…」
「固いパンはきらいっ味の薄いスープもだいっきらい!いつも中身同じだし!」
なのに。
どうして。
「なのにおいしそうにみえる~!!」
ふえええええええええ!!!
と信じられないほど大きな声で泣いてしまう。止まらない。
目の前の女は大嫌いだし。
大嫌いな部屋だし。
いつも通りの変わり映えしないまずい食事だし。
なのに。
『気遣われた』
『思いやられた』
これまでだったら屈辱と思えたこんなやりとりが
「…うれしい…」
「は?」
「嬉しいのよ~ありがどぉ~~~!!!」
「おっおっおお、どぅいたしましてっ?」
「ゴリラじゃない~~~しすたぁよおおおおおお~~~」
「…」
「誰がゴリラだゴルァ!!!!!!!」
ゴリラが吠えて、それに驚いて駆けつけた(もしかしたらその前から様子見てた?)ほかの修道女が目撃したのは
顔を真っ赤にして暴れる住み込みの少女と、泣きながらパンを噛み締める、問題児一号の姿だった。
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