第12話 (元)公爵令嬢セリアナ・シュレーゼンの思い3
パーティーでの火事騒ぎの後は記憶も曖昧だった。
お父様には叩かれ、髪を掴んで何かを怒鳴られたけど、何を言われたのかすら記憶にない。
母親が視界の隅で泣き叫んでいたけれど何を言っていたのかすら分からない。
ぼんやりとした意識の中、婚約が完全に破棄されたこと、貴族籍を抜かれ、北の修道院行きになったことだけは分かった。
次に意識がはっきりしてきたのは、修道院行きの馬車の中だ。
今までの公爵家の馬車と違って、狭いし、椅子も硬くてお尻は直ぐに痛くなった。
でもそれよりも何よりも。
同乗者がビビア・ウォードだったことに衝撃をうけ腹立たしかった。
本来であれば、問題を起こした2人を同時に同じ馬車で修道院へ送るなんて有り得ない。
…恐らくは道中のさらなる問題を起こして、あわよくば『不幸な事故』を狙ったんだろう。
実際馬車は、不審者に襲われたのだ。
襲撃者の金切り声や剣の音がとても恐ろしかった。
あの時ばかりはビビアとふたり協力して、必死に扉があかないように押さえたのだ。
…幸か不幸か、商家の馬車が通りすがり、護衛の傭兵の胴間声に不審者達は逃げていった。
『風体も怪しいチンピラみたいなやつだったよ』
…そんなとるに足りない輩に襲われて、命を落とすところだったのだ。
セリアナには、恐らくは実家の采配だろうと知れた。
元娘に不幸があれば、すこしは世間の同情を誘えるかもしれないから。
でもこれ以上、無駄な投資はしたくないから、小金で処理をしようとした。
…そんなことが簡単に想像出来てしまうことが、とても悲しかった。
同時に、ビビアに対しての怒りが再燃した。
こいつが余計なことをしなければ。
余計なことを思い出させなければ。
ヒロイン不在の状況で、あそこまでの行状にはならなかったのかもしれないのに!
ビビアからすれば理不尽とも思える怒りだったが、それはセリアナの自我を呼び戻す力になった。
怒りは人を奮い立たせる力になる。
セリアナの怒り。
世間ではそれを『八つ当たり』という。
だが怒りはパワーのいる感情だ。
院について早々は、ビビアに対する対抗意識だったり、ヒロインがいることへの衝撃だったりで、素の状態に近くなり、活動的に動くことが出来た。
ただそれは結果にまるで繋がらない。
動いても動いても空回りし、白い目を向けられた。
同時に来たはずのビビアは、孤立しつつも仕事をこなしている。
それが益々セリアナを焦らせる。
今までは研鑽し、その成果を褒め称えられる日々だった…そこから何をやっても上手くいかない。
セリアナは疲れ果てていた。
「もう、どうしたらいいのか分からないのよ…」
薄っぺらくて大嫌いなベッドの上で、髪をかき乱す。
もうずっと夜眠れてない。
食事もあわなくて、ろくに食べれていない。
かつて月の宝玉と讃えられた美貌は見る影もない。
その事がますます自分を追い詰める。
ただ自分はそれを認めたくないのだ。
婚約破棄されたこと。
貴族席を抜かれたこと。
それらひっくるめて、これまでの自分の行いが全て無意味になってしまったことが悲しいのだ。
「…消えてしまえたら…」
きっと楽なのに。
そう続けようとした時。
コンコン
無遠慮なノックとともに
「はい、入るよー」
ガキっと音を立て鍵を壊し
「ひっ…!」
返事も聞かず、
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