第11話 (元)公爵令嬢セリアナ・シュレーゼンの思い2

婚約者になれれば、全部が上手くいくのだと思っていた。

だがそれは大きな思い違いで。

王妃教育では、王室でしか受けられない内容があり、今まで以上に研鑽をすることになったが、それはまだマシだった。

今までの折檻を考えると、楽だとさえ思った。


一番の問題は。


王太子殿下の周囲への嫉妬と怒りだった。

些細ではあるがマナー違反するような令嬢が共にお茶をすることがとても許せなかった。

そこまでの人物とも思えない人物が側近候補として侍ることが許せなかった。

何より許せなかったのは、それに対して殿下が諌めたことだった。

『確かにマナー違反はあったかもしれないが、あそこまで責め立てなくても大丈夫だよ』

『ああ見えて、有能な部分もあるんだよ。一人が完璧でなくてもいいじゃないか』

『もう少し、許してあげてもいいんじゃないかな。色々なことに対して』


なぜ。


なぜなぜなぜなぜ……?!


わたくしは貴方の為を思って言っているのに。


わたくしはあなたの為に血を吐くような思いで完璧であろうとしているのに。


あなたはわたくしの為にいらっしゃるはずなのに……!


思い込みと暴走した思いは、14歳で王立貴族学園に進学、15の春に思いもよらぬ出会いしたことで更に制御不能になった。


『ビビア・ウォードと申します!お初お目もじ致します!』

『きゃっ!申し訳ありません…!木に登っていた子猫が降りられなくなっておりましたの…』

『ウィリアム殿下~先日のお礼にアーモンドクッキーを作って参りましたの。よかったら召し上がってくださいませ。はい、あぁ~ん…』


存在全てが許せなかった。

有り様全てが許せなかった。

そしてどうしようもなく…あるはずのない記憶が、刺激され。

ある日突然、頭の中が爆発したように別人のだれかの記憶が溢れ出した。

耐えきれなかった。

耐えきれず熱を出し、吐いた。

全てのこれまでの人生を、否定する記憶だった。


わたくしが悪役令嬢?


わたくしが社交界の嫌われ者?


わたくしのことを…



殿下は内心では忌み嫌っている…?




うそ。


うそ。


うそよ!!!!



今までの苦しみが、今までの絶望が

そして見出した光さえも

奪われるためのものだったというの?


そこからはもう正気ではなかった。

正気ではいられなかった。

ビビアを、ほかの令嬢を、貴族令息を、徹底的にいじめ抜いた。排除した。


やめてやめてやめて!


お願いだから奪らないで。


わたくしの全てを奪わないで!!!


頭に残るのはそんな思いだけ。

そして最も恐れたのはヒロインの存在。


姿がなくて不気味だった。

姿がなくてほっとした。

いつ現れるか不安だった。

いつ全て無くすか不安だった。


『君の努力は知っているけれど…最近の君の行状は目に余る』


やめて


『これは陛下にも相談済みだ。一度この婚約は保留にしよう。』


やめて


『……そろそろ、目を覚ましてくれないか。正直、今の君を王太子妃に迎えたいなど…とても思えない。』


おねがい


『……今の君は、醜いよ…』






すべてを






こわさないで





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