第4話 (元)男爵令嬢ビビア・ウォード

「はぁ~あ、ヒロインからしてこんなに違うんだもんね。そりゃ攻略なんて出来るわけないかぁ」

深くため息をついて、手元の芋をクルクル回す。

見た目ロリ美少女なビビアだが、今纏う雰囲気は気だるげでどこかはすっぱだ。

(意外に器用…とか言ったら怒るかなぁー。)

手元が芋でなくグラスで、修道服でなければ夜の酒場の空気である。

(まぁ実際見た目ロリ美少女なんだけど。)

とてつもなくミスマッチである。

「…ビビアはいつ思い出したの?昔のこと」

「んー物心つくころ?なんか混じり混じり思い出してすぐに全部思い出したよ」

新しい芋をとって、くるくる続ける。早い。

「私前は看護師だったんだよねー勤務不規則!人手不足!給料いいんでしょってよく言われたけどあんだけ体負荷かけて働いてんだから当たり前!むしろ足りるか!!!」

ダァン!!!と親の仇のような勢いで叩き斬る。

夜の酒場の雰囲気が、一気に場末のやばいぼったくりバーに変わった。怖。

「全部が全部そうとは言わんけど。私の周りの看護師は虎視眈々と医者との玉の輿狙うし医者は医者で看護師をモノ扱いだし。なんなら不倫略奪当たり前だったわ」

「…絶対行きたくないそんな病院…」

「はっはーん!これがでかい大学病院よ!…まぁほかの病院から見たら異常だったかもね」

さくさく一口大へ。程よい大きさ。

「毎日体もメンタルもボロボロ。通勤とか寝る前のソシャゲくらいよ楽しみなんて」

「リアルな方には行かなかったんだ?」

「就職してすぐゲスな医者にひっかかってね。ウンザリして嫌んなったわ」

「…わぁお…」

続けて人参。よく洗い土を落とす。

皮も皮で取っておく。

「生まれ変わったら、前とは比べ物になんないくらいの美少女。男爵とはいえ貴族。そして王太子殿下の名前を聞いて気づいた。やり込んだ乙女ゲームの世界だって」

ふっと唇の端だけ歪めて嗤う。

「その時に思った。やれる、今度こそ勝ち組になってやるって」

でもまぁ、と息を吐きながら人参を手早く切る。

「結局悪役令嬢ともどもバッドエンドよ。これはこれで新しいんじゃない?」

ざらっと鍋に野菜を入れる。

なれた手際。火の通りやすいよう均一の大きさに切られた野菜。

「…変に乙女ゲームのこと考えなければよかったねー」

「本当にそうだわ!」

(多分そしたら、貴族でなくても嫁の行き手はいくらでもあったと思うわー)

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