第2話

「胃袋を掴んでいるだと!? おい、今すぐやめろ! なんか気持ち悪くなってきたぞ……」


「いえ、やめませんよ。私は国民を守る使命があるのです。追放なんて受け入れられません」


 私は王子の体に手を突っ込み、胃袋を掴みながら言った。


「おいいいい!! やめろと言っているだろう!? 胃袋をモミモミするなぁああ!!!」


「やめてほしかったら、追放を取り消してください」


「人の胃袋をモミモミしながら話すなぁああ!!! とりあえず、この腕をのけてくれ! そうすれば、とりあえず婚約破棄は取り消す」


「あ、いえ、そちらは取り消さなくて結構です」


「おあああ! だから、モミモミしながら話すのを止めろと言っているだろう!! こうなったら、こちらもお前をモミモミしてやるぞおぉお!!!」


 王子が愚劣な行為に走ろうとした。

 彼が私の胸に手を伸ばそうとしていたので、私は胃袋を掴んでいる手とは反対の手を王子の体に突っ込んだ。

 そして、指で彼の心臓を軽く小突いた。


「うおおおおおおいいい!!! 貴様、何をするんだ!? おれの心臓にデコピンをするなあああ!!!」


「いえ、でこを小突いたわけではないので、デコピンというのは少し違うと思います」


「細かいことは何でもいいから、とりあえずモミモミするのを止めろぉおおお!! あと心臓をちょくちょく小突くなぁああああ!!!」


「でしたら、追放を取り消してください。あと、私の手作り料理を馬鹿にしたことも謝罪してください」


「はああ!??? 料理の件は間違いなく貴様に非があるだろう!? あんな不味いもの食べたら、誰だってあんな反応になるに決まっているだろう!!」


 モミモミ。

 ぺちぺち。


「おあああああ!! やめてくれえええ!! わかった!! おれが悪かった! 全部謝る。料理の件も悪かった!! 追放も取り消す!! 婚約破棄も無効だ!!」


「ありがとうございます。あ、あと、さっきも言いましたが、婚約破棄は無効にしなくて結構です」


「わかった!! 何でも言う通りにする!! だから、胃袋を掴んでモミモミするなぁああああ!! そして、心臓を指でぺちぺちするなぁああああ!! 本当にやめてくれえええ!!!」


 こうして、私は追放を免れたのだった。

 これで、民を守るという使命を果たすことができる。

 当然、婚約破棄だけは成立させた。

 一時はどうなることかと思ったけれど、このような結末を迎えることができてほっとした。


 誰かが言っていた「男なんて、胃袋を掴んでしまえばイチコロよ」という言葉は、どうやら本当に正しかったみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

国を守る聖女の私は、王子に婚約破棄と追放を言い渡されました。しかし、彼の胃袋を掴んだ結果、彼の態度は急変し始めましたが…… 下柳 @szmr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ