国を守る聖女の私は、王子に婚約破棄と追放を言い渡されました。しかし、彼の胃袋を掴んだ結果、彼の態度は急変し始めましたが……

下柳

第1話

「もう限界だ。お前とは婚約破棄だ。そして、この国から追放する」


「えっと……、どういうことですか?」 



 この国を守る聖女である私、シャルロッテ・レイバはある日、婚約者であるアイザック王子に婚約破棄と追放を言い渡された。

 私の質問に対して、色々と理由を並び立てているが、要は、王子である自分より目立つ聖女が気に入らないらしい。

 

「王子であるおれの婚約者として、聖女であるお前はちょうどいいお飾りだった。しかし、実際はどうだ? 国民の認識では、国を守るという大役を担うお前が目立っていて、まるでおれの方がお飾りのような扱いではないか」


 実際そうなのだから、仕方ないじゃないですか。

 その言葉を私は飲み込み、私は王子に異議を申し立てる。


「あの、王子。婚約破棄はともかく、追放は少し考え直してはもらえませんか?」


 理不尽なことを言う王子は許せないが、婚約破棄はべつにかまわない。

 しかし、追放は避けなければならない。

 この国には、守るべき大事な人たちがいるのだから。


「何を言っても無駄だ。これは決定事項だ」


 どうやら王子は意見を変えるつもりはないようだ。

 そこで私は、ある言葉を思い出した。

 誰かが言っていた「男なんて、胃袋を掴んでしまえばイチコロよ」という言葉を。

 

 そう、それだ。

 王子の胃袋を掴んだら、私は追放を免れることができるのではないかと考えた。


「王子、一日だけ待ってください。私を追放しない方がいいと思い直させて差し上げます」


「なんだと?」


「必ず私は王子の意見を変えさせてみせます。まさかそれが怖くて、ダメだなんておっしゃりませんよね?」


「いいだろう! やってみせろ! まあ、お前ごときが何をしようとおれは意見を変えないがな」


 煽り耐性のない王子は、私の安い挑発にあっさりと乗ってくれた。

 あとは王子の胃袋を掴む料理を作るだけ。


 そして、翌日……。


「お待たせしました、王子。こちらを召し上がってください」


 私は自分で作った料理を、王子に支給した。


「ふん、どうやって俺の意見を変えようと企んでいたのかと思えば、料理だと?」


「ええ、私を追放しなかったら、毎日その料理が食べられますよ。失礼ですが、男なんて胃袋を掴めばイチコロなのですよ」


「ふん、言うじゃないか。だが、なるほど、確かに一理ある。しかし、それはこの料理がおいしければの話だ」


 王子はそう言うと、私の作った料理を口へ運んだ。

 そして……。


「おえええええ……」


 盛大に吐き出してしまった。

 そして王子は私の方を睨んだ。


「なんだこの料理は! お世辞にも美味しいと言えないぞ! まるで『レシピも見ずに感覚だけで作れると思い込んでいる初心者が作った料理』みたいだ! きちんと味見をしたのか!?」


 返す言葉もなかった。

 私は料理を作ったのは初めてだが、己の研ぎ澄まされた感覚があればレシピなど不要と思っていたからだ。

 もちろん、味見なんてしていない。

 王子を差し置いて先に食べるなんて、とんでもない。


「もうだめだ! チャンスはやったんだ! それでもおれの意見は変わらなかった。シャルロッテ・レイバ、お前はこの国から追放だ!」


 そんなの、だめだ。

 私が追放されたら、国民はどうなるの?

 追放なんて受け入れられない。

 それに、なんだか少しムカついてきた。


 確かに私は、レシピも見ずに作った料理を王子に提供した。

 しかし、人が作ったものを食べて、その態度はないんじゃないの?

 私は王子に詰め寄った。


「な、なんだ!? 文句でもあるのか?」


 詰め寄った私に対して、王子は少し後退した。

 そもそもなんで私はこんなことしていたんだっけ……。

 ああ、そうか、王子の胃袋を掴めば追放されずに済むと思ったんだ。

 諦めかけていたが、まだその可能性は残されている。


 私は腕に魔力を集中させた。

 そして、透過の魔法を発動した。

 その透過の力を宿した腕を、王子の体に向けて伸ばした。


「お、おい! 何をしている!? う、腕が……、お前の腕がおれの体の中に入ってきてるぞ!」


「何をしていると言われましても……。最初に宣言した通り、王子ののですけれど……」

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