「アウトブレイク」TearyPlanet

ニコニコ:https://www.nicovideo.jp/watch/sm39479017


YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=QXgH46eobYY


 次に紹介したいのはこちら、『アウトブレイク』だ。2021年10月15日投稿、製作者はTearyPlanet、使用音源は初音ミクと可不だ。ただし、動画説明の欄では「初音ミク ⇒ 可不」という表記になっている。

 この楽曲もボカコレで投稿されたものであり、TOP100ランキングでは堂々の9位にランクインしている。先の『ハンパナプラス』でも触れたが、約2000もの動画が投稿されたこのイベントにおいて上位でランクインするということは、相当に高い評価を得たということになる。

 様々な要素が込められた今作品だが、まず一つ目に動画のレベルの高さが伺える。まるでアニメのオープニングさながらの力の入れようであり、SFのような世界観を演出している。イラストを担当したのはsu、動画を担当したのは臼水である。彼ら絵師、動画師の力もこの曲の良さを引き出している。この曲を視聴する際は、MVにも注目してほしい。

 次に、曲そのものの構成にも特徴がある。激しいギターロックが響く曲となっており、このサウンドに力強い初音ミクと可不の歌声が共鳴する。特徴的なのは、前半は初音ミクが歌唱を担当しているが、中盤のわずかなデュエットの後、後半は可不のみが歌うというパート分けになっていることだ。その移り変わりは、初音ミクの時代から可不の時代に変化していったことを象徴しているかのようだった。

 このボーカルの移り変わりにも関係するかもしれない部分だが、歌詞にも注目したい。この曲には「"流行"病」という投稿者コメントが付けられているが、今もなお猛威を振るう某感染症と、現代のボカロシーンを組み合わせた歌詞となっている。例えばこれだ。


「マルサ株を筆頭に

 蔓延する疫病は

 特定コードの領域に

 変異を加えるらしい」


 「マルサ株」とは「丸サ進行」のことを指すフレーズだろう。椎名林檎の『丸の内サディスティック』に由来するコード進行の一つだが、近年のボカロシーンではかなり多用されているコード進行となっている。具体的な事例はれれれPの記事にあるので興味のある方は参考にしてほしい。

(れれれPの記事:https://l3project.com/compose/marusa15/)

 また、他の歌詞にも思わせぶりな表現が見られる。


「自由も未来も夢も消えたセカイで

 可もなく不可も無い優性形質エリートが賞賛を得るのさ」


 「セカイ」というのは「プロジェクトセカイ」のことだろうか。「可もなく不可も無い」というのは「その可もなく不可もないメロディー」と歌う『うっせぇわ』にも共通する。流行が全てになってしまったこのボカロシーンを歌う、かなり挑戦的な歌詞になっている。『アウトブレイク』の歌詞にはこんなフレーズもある。


「分かってたんだ

 もう理想を追いかけるだけじゃ

 ここには居られないから

 誰かの真似事をするしか無いこと」


 このボカロシーンで優先されることは「転写効率に特化」することであり、理想や夢を追いかけることではないということだろうか。このような状況に対して、「"流行"病」であると表現したのかもしれない。

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