第21話 「ついに、最終決戦だな !! 」

 僕と甲斐路、掛賀先生は東武鉄道の改札を入ってホームに向かう。

 先生は14時15分発東武宇都宮行きの普通列車、僕と甲斐路は14時07分発の浅草行き特急ロマンスカー、けごん34号に乗って帰る。

 僕たちの方が先に発車するので、ホームで先生と特急列車が来るまで話をした。

「今度こそ、"地底雷獣 FC" を倒せるかしら…? 間森さんが危険な目に会わないか心配だわ…」

 先生が、高架ホームから山の方の景色を見て不安そうに呟く。

「先生、私たちは出来る限りの調査、行動をしてベストを尽くして来ました ! … 間森さんも自衛隊も奴を倒すためにベストの作戦を立て、ベストの動きでベストの戦闘を見せてくれますよ!大丈夫です !! 」

 甲斐路が言った。

「前回、宇都宮の時と違って今回は最初から自衛隊や防衛省、氣志田総理が僕たちの調査結果や提言を全て信じて作戦を実行してくれました!…最後は僕たちが間森さんを、自衛隊の方々を信じて成功を待ちましょう、先生 ! 」

 僕もフォローの言葉をはさんだ。

「…そうね ! …間森さんも自衛隊も、最後の決戦に向けて万全の準備をして攻撃態勢を取るんだもんね、…私が不安になってもしょうが無いわよね」

 先生は無理に笑顔を作って応えた。

「先生!…奴がさっきの場所に出現して自衛隊との決戦となった際には私、どうしても戦況が分かる状況のところにいたいんですけど !! 」

 …僕たちが乗る列車の到着時刻が近づいて来た時、甲斐路が先生に訴えた。

「あなたがそう言うと思って、私も無理を承知でそのことを間森さんにお願いしておいたわ ! …大丈夫、また連絡するわよ」

 先生が応えた。


 …帰りの東武特急100系スペーシア車輌の中は冷房が効いていて快適だった。

「やっぱり良いわねぇ、ロマンスカーは ! 」

 例によって甲斐路は窓側のシートに寛ぐと、先ほど駅の売店で買ったアイスクリームを食べながら機嫌良く呟く。

 こうして見ると、小柄で無邪気な可愛い普通の女子高生なんだよなぁ。

 …端から見たら、僕たち二人は夏休みにロマンスカーに乗ってお気楽にデートしてるカップルに思われてるのかなぁ…とチラッと考えてたら、自然と苦笑いが浮かんで来た。

「…ちょっと ! 私の顔見て何ニヤついてるの !? キモいよ、乙ちゃん !! 」

 とたんに甲斐路が水をぶっかけるように言った。


 僕と甲斐路は、ロマンスカーで終点の浅草まで行き、その後賑わう街中を歩いて雷門から仲見世の人混みを通って浅草寺に参拝した。

 それはもちろん、打倒 "地底雷獣" 最終作戦の成功と、間森さんの無事を祈願しに行ったのである。


「作戦成功と間森さんの無事祈願、しっかりと念じてくれた?」

 …僕が祈願を終えて本堂から外へ出たら、少し遅れて出て来た甲斐路が言った。

「もちろんさ、お賽銭だって奮発して200円入れたんだぜ ! …甲斐路は?」

「私は…お賽銭はともかく、さらにもうひとつお願いごとしたから…」

「もうひとつ?…って何 !? 」

 僕が尋ねると甲斐路はニヤッと笑って応えた。

「それはもちろん……秘密っ !! 栃木での作戦がうまくいって奴を倒したらきっと分かると思うよっ!」

「あっそっ!…まぁいいや」

 何かちょっとモヤッとしたが、しつこく聞くのはやめとく。


 …それから僕たちは新仲見世の中の喫茶店で冷たい甘味など食べて家に帰った。


「…"地底雷獣 FC" が野田市三ヶ尾変電所から地中へと姿を消してから、今日で3日目ですが、その後の消息は全く不明な状況となっており、現在東京首都圏に大きな不安が広がっています ! 」

 翌日夜のテレビニュースでは、女性キャスターがそう伝えていた。

(…そうかぁ ! …奴が落雷を求めて北関東の山沿いエリアに向かうってのも世間一般にはまだ未確認の機密事項ってことなんだな !? )

 僕がリビングでそう思いながら画面を見ていたら、

「何かもう、すっかりテレビは怪獣速報ばっかりになっちゃったわねぇ ! …でも本当に怪獣、何処に行ったのかしら? 夏場いきなり停電になったら困っちゃうわよねぇ…」

 母さんが僕の背後で言った。

(…でも、防衛省自衛隊が奴の動向を一般には明かしていないってことは、僕も母さんにウッカリ言ってはいけないってことだよな ! )

 僕はその時、大げさではなく脳裏に「国家機密」という言葉がふいに浮かんだ。


 さらに翌日になると、テレビではワイドショーでも "地底雷獣 FC" の動向について、タレントや学者有識者が出て来てコメントを発表していた。

「…ミサイル6発くらってますからねぇ、私は地中に逃れたものの既に死んだんだと思いますよ ! 」

「いや、隙を見て再度東京の変電所や発電所を襲うと思います ! 」

「いや、首都圏近郊の鉄道の架線を狙うんじゃないですか?…地下鉄を襲った実績もあるし ! 」

 …何か、正直緊迫感があるのかただ予想主張を言い合いして楽しんでいるのか分からない感じに僕には思えた。


 …そして、栃木市の視察から4日目の朝、僕のスマホに甲斐路から連絡が来た。

「先生から情報が入ったの!今朝、小山市の震度計に奴の動きらしい微振動が観測されたわ ! …栃木市のひとつ手前の街よ ! …明日の午後、雷雲が発生したら奴は必ず栃木市に現れる ! …乙ちゃん、私たちも行くわよ!」

「ついに、最終決戦だな !!」

 僕は思わずそう応えていた。














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