第22話 「あなたは伝説の人なんですよ ! …たったひとりで怪獣と対決した少女だって」
…それにしても甲斐路の、怪獣に対する洞察や、動きに対する予想の確かさは本当にすごいと感じる。
今回はもはや完全に秘密裏ながら自衛隊をリードしている感じじゃないか !
思えばつい4ヶ月前に、校門前で待ち伏せして僕が、
「付き合って下さい ! 」
と告った相手なんだけど、普通の高校生の恋愛対象なんてレベルの女子じゃなかったんだと痛感する。
…翌朝、栃木市の震度計にも反応があり、その知らせを受けて甲斐路と僕は再び電車に乗って栃木駅へと向かった。
「…関東首都圏は今日も猛暑日予想ね ! 北部山沿いは雷雨に注意、っと!…奴が出て来るシチュエーションはバッチリだわ !! 」
…スマホで今日の気象情報を確認しながら甲斐路が言った。
車窓から外の景色を見れば、田園をカンカン照りに熱している凶悪な太陽と、遠景の山々の上に沸き立つ入道雲を望む、これ以上ない真夏の風景だ。
…今回は僕と甲斐路が直接 "地底雷獣 FC" と対峙する訳じゃないけど、電車が現地に近づくにつれ何だか身震いするような高揚感が自然と沸き上がって来る。
…栃木駅で電車を降りたら、改札口前には掛賀先生が待っていた。
しかし先生の表情は不安感を隠せぬ硬い顔色だった。
「…先生、行きましょう ! 」
逆に甲斐路が声をかけ、僕たち3人は駅前からタクシーに乗り込む。
…市街の目抜き通りを走って間もなくタクシーは栃木市役所の前に停まった。
栃木市役所は商業施設との複合ビルになっていて、目抜き通り側の入り口には東武デパートの看板がかかっていた。
中に入ると、一階がデパート、二階から上が市役所になっている。
甲斐路と僕は掛賀先生について行き、エレベーターに乗って四階の大きな会議室に入る。
例によって会議室扉脇には自衛官が立っていて、僕たちを敬礼して迎えてくれた。
会議室内は多くの自衛官がデスクやモニター機器を並べて詰めかけていた。…よく分からないけど通信機器らしき設備も用意されていて、完全に「戦闘指揮指令室」になっている。
「掛賀先生 ! …甲斐路 優さん、乙掛 輝男くん、またお会い出来て光栄です!…"地底雷獣 FC" に関する調査協力、アドバイスに感謝します !! 」
室内の様子を緊張して見ていた僕たちに、見覚えある人物がそう言って近づいて来た。
「多々貝さん !! 」
僕たち3人は声を揃えて応えていた。
…多々貝一 (たたかいはじめ) 自衛官は前回の、対U - ホーク戦の時も戦闘指揮管制室で顔を合わせている。
「今回は、"地底雷獣 FC" に関する今までの攻撃データや先生方からの提言を充分考慮した上で、私が現地前線部隊の作戦及び攻撃の指揮を取る任務を拝命しました ! 」
多々貝自衛官の言葉に、しかし掛賀先生は真剣な表情で質問を返した。
「間森さんは !? …現地ですか?」
…すると、多々貝自衛官の顔が急に険しくなりながらも、
「…作戦遂行上、隊員の配置などについては民間の方にお話しすることは出来ない決まりです、…が、現在の状況については瀬津自衛官が報告します ! 」
と応え、代わってまだ20代前半くらいの若い女性自衛官が僕たちの前にやって来た。
「私は陸自宇都宮所属の瀬津銘子 (せつめいこ) 一尉です ! …13:50(ひとさんごーまる)現在の状況を報告します ! 」
日焼けした顔の、いかにも身体能力が高そうなスポーツ系ビジュアルの女性自衛官がカチッとしたスタイルでそう言ったので、僕はちょっと面食らった感じだった。
「本日、8:35 (まるはちさんごー) に栃木市街部にて震度計に反応がありました ! …当部隊はこれを目標の地下移動によるものと確認、よって当栃木市役所会議室を臨時の 対"地底雷獣 FC" 攻撃戦闘指揮管制室とし、目標の出現に備え戦闘態勢配置遂行中です ! …なお現地戦闘部隊は、県道32号線尻内交差点先北1キロメートル地点に移動トラック1台にてロケットランチャー部隊10名配置、さらにその8キロメートル先旧大越路峠付近山上にロケットランチャー部隊10名配置にて目標迎撃態勢を取ります ! …なおこの作戦遂行のため、県道32号線尻内交差点から先は一般車輌通行止め、沿道住民には昨日、栃木市長及び自衛隊名により避難命令を出しました ! …すでに避難は完了しています ! 」
「"地底雷獣" 出現後の状況映像はモニターに出せるんですか?」
…甲斐路が途中で質問をはさんだ。
「現地部隊配置地点から1キロメートルごとに、大越路トンネル入口付近まで、計8箇所に監視カメラを設置しました ! …こちらのモニターに映像が来ます ! …ドローン撮影は雷雨時には出来ないので ! 」
「…間森一佐は移動トラックのロケットランチャー部隊ですね?」
さらに甲斐路が突っ込んだ質問をする。
瀬津一尉は多々貝自衛官をチラッと見やると、多々貝自衛官が小さく頷いた。瀬津一尉が急に表情を軟化させて応える。
「さすが甲斐路さん、鋭いですね ! 宇都宮基地の中ではあなたは伝説の人なんですよ ! …たったひとりで怪獣と対決した少女だって」
「えっ !? …いや、ひとりって訳じゃ」
甲斐路が戸惑いをみせたので、
「一応僕もその場にいたん…」
と言いかけた時、
「気象情報確認!永野川、思川上流部に雷雲発生、雷雨注意報発令されました ! …移動トラック部隊配置地点の降雨予想時刻は15:45 (ひとごーよんごー)、降雨確率80パーセント! 」
デスクでモニターを見ていた別の自衛官が報告した。
「…いよいよね!」
甲斐路が小さく叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます