第20話 「あいつを仕留める作戦はただひとつ、機動力によるピンポイント攻撃よ !! 」

 …僕たちは和服姿の店員さんに奥の座敷に通され、テーブルを囲んで四人で座椅子に腰を降ろした。

「勝手ながら、料理は決まったコースを注文しました ! …もちろん費用は自衛隊、いや防衛省が持ちますので、皆さんどうぞゆっくりと召し上がって下さい」

 …私服姿のせいか、間森さんが寛いだ感じで言った。


「しかし、この地で奴との"最終決戦"に臨むって話なのに、のんびり食事しながらってことで良いんでしょうか?」

 僕が他の三人の顔を見てそう言うと、甲斐路が応えた。

「乙ちゃん、自衛隊の基地の中で戦闘服の人たちがいかつい顔で作戦会議やったら、つまんない案しか出て来ないよ!」

「…つまんない案 !? 」

「例えば、ミサイル6基でダメなら20基撃ち込め ! とか、もっと強力な火力兵器を使え ! とか、戦車や戦闘機を繰り出して一斉攻撃だ~っ!ってパターンね」

「あぁ~…なるほど ! 」

 甲斐路と僕の会話に、間森さんも苦笑いを浮かべる。

「だからこそ、自衛隊が私やあなたたちをまたここに呼んだって訳なのよ ! 」

 先生がそう言った時、僕たちのテーブルに前菜が運ばれて来た。

 山菜のおひたし、野菜のサラダに、揚げ出し豆腐風の小鉢…。

「美味しそう!…頂きます」

 甲斐路が無邪気に食べ始める。


「でも、より強力な火力兵器や、戦車戦闘機による物量攻撃って、普通みんなそう考えるんじゃ?…」

 僕がそう言いかけると、

「奴はそれでは倒せない!…あいつを仕留める作戦はただひとつ、機動力によるピンポイント攻撃よ !! 」

 甲斐路がキッパリと言った。

「機動力による…って何か、分かるような分からないような感じだなぁ、…具体的にはどうするのさ?」

「奴の特性を考えれば分かることよ!…奴は電力エネルギーを吸収するのも、武器の雷撃弾を放つのも、あの2本の触覚を使うの!…ってことはあの触覚を失くせば !! 」

「…エネルギーを取り込むことも雷撃弾を放つことも出来なくなる!」

 甲斐路の言葉を先生がフォローした。

「それと、塩水が弱点だったよな ! 」

 僕も言葉を付け加えた。

「…ということは、機動兵による地上での移動攻撃で目標の触覚を狙う作戦ですね !? 」

 間森さんが言った。

「はい ! …今回は落雷をキャッチしなければならないので、さすがに奴も地上に出て来て動かねばなりません ! …奴の頭部、2本の触覚の付け根を狙ってロケットランチャーを撃ち、触覚をもぎ取ってしまえば奴は無力化します!」

 甲斐路が訴えた。

「…なるほど、話は分かったけど、でもそれは口で言うほど簡単じゃないぜ ! …奴が地上でどの程度俊敏に動くかも確認出来てないし、攻撃を受ければ奴も雷撃弾で反撃して来る ! …それを地上兵が動いてかいくぐりながら正確に奴の触覚の付け根にロケット弾を命中させるってことだろ !? …かなり成功率の低そうな話に思えるぜ ! 」

 僕は素直な意見を口にした。

「だけど、奴を倒す方法はこれしか無いのよ ! …他に手段は無い ! これで失敗したら、奴はまた地中に潜って次は水力発電所のある山岳地帯に移動するわ!…そうなったらもう本当に打つ手が無くなるわよ !! 」

 甲斐路が力を込めて言った。


 会話が途切れて、一瞬の沈黙時間が流れた時、テーブルに鮎の塩焼きと、栃木和牛のカットステーキなどが運ばれて来た。

「これは、先ほどの思川清流の鮎です ! …皆さんリラックスして召し上がって下さい」

 間森さんが会話を促すようにそう言った。

「みんな、ちょっとこれを見て!」

 掛賀先生が、ノートパソコンをテーブルに出して画面を開いた。

 すると画面には、先日の三ヶ尾変電所のときの映像が出た。

 …しかし、テレビで見た通りライトも無い暗い画面の中には "地底雷獣 FC" の赤く光る目以外は背景もよく認識出来ない映像だ。

「これは、奴が送電線を引きちぎって、自身に電力エネルギーを取り込んでいるシーンね ! 」

 そしてそのシーンの1分後、画面が一瞬オレンジ色に包まれ、さらに大きな発光が連続した。

「ミサイル着弾のシーンですね ! 」

 間森さんが言った。

 すると、爆煙の中に光っていた赤い目がフッ ! と消え、画面が一瞬暗くなった後、目が青い光に変わって、その3秒後に稲妻光線(雷撃弾)が触覚の先から放たれた。

「見た?…奴は通常時や電力を摂取している時は目が赤く光っているけど、雷撃弾を放つ時にはいったん目から光が消える ! …たぶん体内で回路を切り替えるのね、そして青い光に変わってから3秒後に雷撃弾を放つのよ!」

 先生の解説に間森さんが頷く。

「なるほど ! …これが即ち目標が雷撃弾を撃って来る時のサインという訳か!…たいへん有効な情報です」

 すると、先生の顔が一瞬曇った。

「あの ! …次の、奴との戦闘の現場には間森さんが行くことになるのですか?」

「はい ! 私はおそらく最前線で戦闘態勢を取ることになると思います」

「…そう、なんですか ! 」

 闘志を浮かべる間森さんとはウラハラに、先生はなぜかうつむいた。


 …食事を終えると、僕と甲斐路、先生の3人は車で栃木駅まで車で送ってもらい、そこで解散となる。

「皆さんの提言、大変参考になりました ! …感謝します!」

 運転しながら間森さんが言った。


「足立区の地下変電所から野田市の三ヶ尾変電所まで、奴は2日で移動しました ! …野田からの距離を勘案すると、おそらく奴はあと5日で先ほどの山里へ到達すると思います、準備を急いで下さい!」

 …駅に着いて車を降りる際に、甲斐路が強い口調でしっかりと間森さんにそう伝えていた。









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