第12話 「あの怪獣を "地底雷獣 FC" と呼称することに決定します!」
「あの怪獣を、地上に引っ張り出す作戦とは?」
国尾 護幕僚長が画面から顔を乗り出すように甲斐路の言葉に食いついて来た。
「その前に!」
掛賀先生が会話を遮って言った。
「私たちがあなた方に協力する条件を確認させて頂いて良いですか?」
先生がそう訴えると、画面の中の氣志田首相が頷いて答えた。
「はい、甲斐路 優さんにあの怪獣の名前を付けて頂くことと、あなた方3人をマスコミの前に出さないという約束でしたね」
「ええ、甲斐路さんと乙掛くんは高校三年生ですから…大学受験を控えた大事な時期なのでこの件を早く処理して勉強に専念させて上げないと ! 」
「分かりました ! …それではこの怪獣対策会議自体を我々だけの極秘機密事項といたします、よろしいですか?」
「はい ! …それでけっこうです」
先生が僕と甲斐路の顔を見て応えた。
「それで、甲斐路さんはアレに何という名前を付けたいと?」
国尾幕僚長がモニター画面の向こうから言った。
僕がその時隣りの甲斐路の顔を横目で見ると、一瞬その眼がキラン ! と光ったように感じた。
「"地底雷獣 FC" です !! 」
甲斐路のキッパリした命名に、画面の向こうの面々も先生も「おぉ~ ! …」と小さく声を漏らした。
「…ちなみにその、"FC" というのは?」
氣志田首相が質問した。
「今回の怪獣、あの地底雷獣が初めてその存在を示した場所が都内C市の地下トンネル建設現場でしたから…つまり From Ccity という意味です」
甲斐路の返答に首相は頷いて、
「…なるほど、分かりました、他の方々に異論が無ければ、あの怪獣を"地底雷獣 FC"と呼称することに決定します ! 」
と宣言した。
「あっ!…それなら、奴の発するあの稲妻光線、あれを "雷撃弾" と名付けたいので、それも同時に決定ということでお願いします!」
僕はこのタイミングだ !! と思って発言した。
掛賀先生と甲斐路、そして氣志田首相が顔に笑みをこぼして頷いた。
「なるほど、"雷撃弾"…それも同時に決定しましょう ! 」
そう応えた氣志田首相とはうらはらに、一切相好を崩さずに幕僚長は再度甲斐路に質問した。
「それで、奴を…"地底雷獣 FC" を地上に引っ張り出す作戦を伺いたい!」
「奴を一刻も早く駆除しないと、首都機能がマヒしてしまいます ! …とにかく奴が姿を現してくれないと、攻撃の手段が執れません !! 」
坊江城東地区隊隊長も必死に訴えて来た。
防衛省や自衛隊にとってはとにかく首都東京から地底雷獣の脅威を取り除くことが使命だと思っているんだろうけど、それでも一国の首相や幕僚長、自衛隊の地区隊長が、単なる一女子高生に作戦指示を仰いでいる図は僕の眼に何だか滑稽に感じられた。…思えば宇都宮の、対Uーホークの時には、
「この非常事態、未曾有の危機を迎えての会議メンバーに女子高生を参加させるのか !? 」
とか言われてたんだよな。
「簡単な話ですよ、都内への電力供給をストップさせるんです!」
「…何 !? 」
甲斐路の唐突な提言に、モニターの中の人たちも僕も先生も一瞬呆気にとられていた。
「ちょっと、あなた何を言ってるの?…そんなこと出来る訳無いでしょ!…首都東京をゴーストタウンにするつもり?」
古池都知事が叫んだ。
「…簡単な話、ではないと思うが?…」
氣志田首相もやや不機嫌気味に言った。
「ちょっと待って下さい ! …行政の方の立場からそうおっしゃるのは分かりますが、甲斐路さんはそれを承知の上で提言しているんだと思います ! …ここは一旦きちんと彼女の話を聞いてみて下さい!」
掛賀先生がモニターの面々に向けて真剣な顔で言った。
「……分かりました、甲斐路さん、話を続けて下さい ! 」
幕僚長が自らの態度を落ち着けるようにそう言って促す。
「"地底雷獣 FC" は活動源が電力なので、また次の変電所を狙うはずです ! …しかし、私たち調査隊は奴の弱点を見つけました ! これを活かして奴を敢えて大きな "地上の" 変電所に誘導して攻撃します ! …そのためには、都内変電所への送電を一時停止しなければなりません!」
甲斐路は一気に発言した。すると
「…"地底雷獣 FC" の弱点、とは?」
「都内変電所への送電停止…って、どのエリアの?…その期間は?」
「"地上の" 変電所とは、具体的にはどこに誘導するんだね?」
間を置かずにモニター画面の面々が矢継ぎ早に質問をぶつけて来た。
「"地底雷獣 FC" は、警戒心が強く、学習能力の高い怪獣だと思います ! …奴が地上に姿を現したのは、地下鉄の架線から電力を摂る際、隅田川の河口から東京湾の海水を浸水させてしまったからです ! …つまり奴の弱点は塩分濃度の高い水なんです!…塩水を被るとおそらく体内に機能障害が起きると思います ! …奴が今回襲ったのは足立区の綾瀬地下変電所でした ! …江東区、江戸川区、葛飾区、足立区、北区の変電所への送電を止めれば、方向的に奴は都内から千葉県東葛エリアの変電所に向かうはずです!…都心部と城西エリアは現状海水に浸った地下鉄網が密に走っているので、そちらの方向へは行きません!」
甲斐路の主張に他の会議メンバーは一瞬沈黙したが、少しして幕僚長が、
「…なるほど ! 」
と呟いていた。
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