第11話 「やったぜ!… 僕たち調査隊の、大きな収穫ですね !! 」

 …という訳で、僕と甲斐路はそれぞれの自宅に帰ると、素早く私服に着替えて先生のいるビジネスホテルに急いだ。

 しかし、甲斐路は行きがけに途中のスーパーで食べ物やらお菓子、飲み物などをたっぷりと買い込み、当然ながら僕はそれを持たされて、猛暑の街を歩く。

 あの、東京を恐怖に陥れている地下怪獣をどうしようか?…という重い対策命題にこれから臨むというのに、甲斐路はむしろ楽しそうな足取りだ。


 …2人でビジネスホテルの掛賀先生を訪ねると、先生は部屋のテレビでニュースを見ていた。

「…本日、朝7時30分頃に発生した、3万世帯に及ぶ東京都足立区の停電事故は、足立区内のT電力綾瀬変電所のトラブルによるものであることがT電力の調査によって分かりました。…なお、同変電所は地下設置となっており、先週の世田谷、杉並区停電事故同様、地下変電所壁に直径1.8メートル程の穴が開けられ、受電ケーブルが切られていたということで、テロ事件の可能性も視野に入れ警察も捜査を進めるとしています」

 画面では女性キャスターがちょうどそうコメントしているところだった。

「…なるほど、足立区か… ! 」

 甲斐路がそう言いつつ、背負って来たリュックから首都圏の地図帳を出して開いた。

「足立区があの怪獣の動きと、何か関係があるの?」

 思わずそう質問すると、甲斐路は先生と僕の顔を交互に見ながら説明を始めた。

「ずっと疑問に思っていたのよ ! …あの時なぜ怪獣は地表に姿を現したのかなって ! …あいつはたぶん本来好戦的でも狂暴な奴でもないと思うの…むしろ警戒心が強い奴よ ! …実際地表に出て来たら攻撃を受けたしね、…だから地下の変電所や地下鉄から電力エネルギーを摂ろうとしたのよ、それなのにあの時は地上に出て来ざるを得ない状況になった、理由があるのよね!」

 甲斐路がそこまで話した時、掛賀先生がハッ ! と気がついた顔で言った。

「海水ね!…塩分混じりの水よ !! 」

 僕も同様に甲斐路の言いたいことを理解して発言した。

「そうか!…奴の弱点は塩分の高い水なんだ !! …都心の地下を動き回るうちに奴は隅田川河口の護岸もしくは川底に穴を開け、東京湾の海水を地下鉄網に引き込んでしまった、…だからあの時地上に出て来たって訳か!」

「おぉっ!鋭いね乙ちゃん !! 」

「いや、変な合いの手は要らない」

 …そんな僕たちのやり取りに笑みを浮かべながら先生が続けた。

「確かに、電力を餌にして身体を電気仕掛けで動かしているとしたら、塩水を浴びるのは電気系統に障害となるかもね!…内部でショートして動きが麻痺する可能性も考えられるわ !! 」

「やったぜ!…僕たち調査隊の、大きな収穫ですね !! 」

「う~ん、ここで乙ちゃんが代表でエバるのは…どうなんだろう?…」

 甲斐路が僕に塩対応を見せると、先生が今度は真顔で僕たちに言った。

「この後、15時半から怪獣対策リモート会議が始まるわ!…このパソコンのディスプレイで氣志田首相や防衛省幕僚長らと話すことになってるの、あなたたちには私のサポートとして付いてもらうわよ ! 良いわね?」

「先生、私ちょっとお願いが!」

 不意に甲斐路がそう言うと、

「大丈夫、怪獣対策の協力依頼に応じるための条件を、こちらもちゃんと出しといたから心配しないで、優ちゃん」

 先生が応えた。


 僕たち3人は部屋でさっきスーパーで買って来たおにぎりやら何やら食べて腹こしらえして、冷えた缶コーラなど飲んでリラックスした雰囲気の中、リモート会議の時刻をむかえた。


 掛賀先生の PCディスプレイに、4人の顔が分割画面で映ったのはまさに15時30分ちょうどだった。

 4分割のうちの右上の顔がこちらに軽く会釈して挨拶した。

「掛賀先生、甲斐路 優さん、乙掛 輝男さん、この度は緊急怪獣対策会議にご協力頂き、ありがとうございます ! …内閣総理大臣の氣志田 二三男です」

(うわっ!本当に氣志田首相だ !! )

 僕はその眼鏡の奥の厳しい目にちょっとたじろぎながら画面を見ていた。

 画面上のあとの3人は、古池 有利子東京都知事、防衛省幕僚長の国尾 護 (くにお まもる)、自衛隊城東地区隊隊長の坊江 石動 (ぼうえ いする)といったメンバーだった。

「…宇都宮でのあなた方の活躍は良く承知しています。今回もまた掛賀先生の調査報告書を拝見しました。…現在東京は夏の電力消費期を迎えていますが、対して今は原発や火力発電所の操業停止基も多く、電力逼迫注意報も出さざるを得ない危機的な状況です。多量に電力を喰らおうとしているあの怪獣は一刻も早く駆除せねばならない ! …ぜひあなた方のアドバイス、知恵を頂きたいというのが我々の共通した考えです!」

 画面の中で氣志田首相が僕たちに訴えて来た。

 そして防衛省幕僚長が続ける。

「しかし、現状今奴は地下に潜んでいる。我々が攻撃出来ない所です ! …都内の地下変電所はまだ他にもあるが、奴がこれからどう動くか予想がつきません ! …せめて奴が地上に出て来てくれれば火力を集中するような戦闘態勢がとれるんだが…」

 …その言葉でみんなが一瞬の沈黙に襲われた。

 すると甲斐路が口を開いた。

「ありますよ!…奴を地上に出させる作戦が !! 」

「えっ !? 」

 一同が驚きの声を上げた。





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