第10話 「乙ちゃん、ついに出番だよ !! 」

 …その夜、僕の家のディナーは華やかかつ賑やかだった。

 甲斐路と掛賀先生をゲストに迎え、母さんは何故か麻婆豆腐と海老チリ、中華スープを作ってもてなした。

「…今日は何て素敵な夕食なのかしら ! …綺麗な人がお二人も来て下さって本当に華やかで嬉しいわぁ!…何しろお父さんは単身赴任で長期出張だし、娘は就職したら家を出て1人暮らしを始めちゃったでしょう ! …テルくんと2人の夕食だとあんまり話もしてくれなくって張り合いも何もないんですよぉ!」

「ちょっと母さん!…家庭内の愚痴をゲストの人にこぼすことは無いだろ !? 勘弁してくれよもうっ !! 」

 僕は母さんの言葉に赤面してそう言ったけど、甲斐路が、

「そうなんですかぁ…意外と乙掛くんっておば様に冷たい人なんですね?…ひど~い ! 」

 と変なフォローを入れ、掛賀先生が

「アハハハハ…!」

 と笑った。


 結局、その後母さんと甲斐路、そして先生は僕を話のサカナにして盛り上がり、女子3人トークはずんずん続いて楽しいディナーになってたようだけど、僕自身は時折女性陣の話題について行けずに置いてきぼり状態になってた感じもあった。…まぁだけどたまにはこれも母さんにとっては嬉しいイベントになったと思う。


 しかし、この楽しいディナーの中で、甲斐路も掛賀先生も怪獣の件については一切、話を出さなかった。

 おそらくそれは、今後の怪獣対策への関わりを2人が予期していたのかも知れないのと、僕の母さんへ余計な不安を持たせないための配慮だったと思う。


 女子たちの楽しいディナーおしゃべり会の後、先生は松戸のシティホテルに戻り、甲斐路は愛騎モンキーに乗って自宅へ帰った。


 そして翌日は日曜日。…僕は自分のベッドで遅くまで惰眠をむさぼり、窓の外の真夏の暑さをじわじわと感じながらズルズルと身体を起こした。

 …部屋の机の置き時計を見ると、時刻はすでに9時半を指していた。

 僕はフラフラと自分の部屋を出ると、キッチン脇の冷蔵庫からカルピスソーダを出してイッキ飲みしつつリビングのテレビをつけた。

 母さんはこの時間には、近所のママ友夫妻が経営しているレストランにパートに出かけて行ってすでに不在である。


 この時間帯、多くのテレビ局はワイドショーを流している。

 今日メインの内容はもちろん東京に出現した怪獣の件だった。

 画面では昨日の怪獣出現場所の現在の状況や、スタジオコメンテーターたちの言葉やらを伝えた後、氣志田首相が内閣官房長官、防衛大臣、古池東京都知事らとともに怪獣対策会議に入っていることを伝えていた。…しかし、都内の地下に潜伏している怪獣を、どういう方法で排除攻撃するかなど、現状具体的有効的な作戦を見いだすことに苦慮しているともキャスターは伝えていた。

(そりゃあそうだろうな… ! )

 僕は昨日目の当たりにした怪獣出現シーンを脳裏に再生しつつ頷いていた。

 また、地下鉄が不通になっている現状と、怪獣が依然として都内の地下に潜んでいる可能性が高いため、23区内の会社、多くの企業では、出来る限りで在宅リモート業務を実施する動きを見せているとテレビは伝えていた。


 結局、誰も怪獣に対して有効な手段もアクションも起こせぬまま、翌日の朝になり、都民が不安を抱えながら迎えた朝食どきに突然、都内足立区3万世帯が停電した。

「…番組の途中ですが、たった今入りました最新のニュースをお伝えします ! …先ほど、午前7時30分頃、東京都足立区内の住宅など、およそ3万世帯の電力供給が絶たれ、停電となりました。現在T電力が原因を調査中です。…なお、東京都内では先週にも、杉並区、世田谷区で地下変電所が破壊されたことによる停電事故が起こっていて、警察はこの件との関連について捜査する模様です」

 …しかし僕はテレビのニュースの途中で家を出て学校へと向かった。

 今日は一学期の最終日、とりあえず登校しなければならない。

 …電車に乗り、駅から歩いて学校へ着くと、教室に向かう廊下の途中に甲斐路が立っていた。

「乙ちゃん、今日学校が終わったら、校門のところで落ち合おう ! …話があるからさ、一緒に帰ろうよ !! 」

 校舎の中で、こういった誘いを彼女の方からしてくるというのは初めてのことだったので僕はちょっとビックリして戸惑いを感じたけど、それを顔に出さないようにして、

「分かった、じゃあ校門の外で待ってるよ」

 と応えた。


 …この日の学校は昼で終了となり、後はいよいよ長い夏休みに突入する時間を迎え、多くの生徒たちが昇降口から校門へと明るい表情で流れて行った。

 僕もその流れで外に出て、校門の陰で待っていたら、2~3分して甲斐路がやって来た。

「乙ちゃん、今日午後、掛賀先生のいる松戸のビジネスホテルへ一緒に付き合ってほしいの!」

 駅への道を2人で歩くと、甲斐路がそう言って来た。

「えっ !? …先生は宇都宮に帰ったんじゃなかったのか?…」

 僕はちょっと意外に思って応えた。

「先生の報告書を受けて、結果政府から足止めされたのよ!…そして今日、正式に例の怪獣対策について協力要請が先生のところに来たって訳!…氣志田首相から !! 」

「なるほど… ! 」

「そしてさらに先生から私たちに協力依頼が来たの!…乙ちゃん、ついに出番だよ !! 」

 甲斐路の眼が、キランと光った。


















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