第9話 「今こそ自衛隊に頑張ってもらいたいですよ、首都防衛のためにね !! 」

「え~こちらは本日、怪獣が出現し、自衛隊と交戦した東京都中央区の新大橋通りの現場の、上空からの映像ですね ! 」

 テレビ画面に、局アナウンサーの声が入る。

「現場は入船町交差点から200メートル北側です。沿道のビルが5~6棟ほど倒壊、もしくは半壊していて、怪獣が掘り出した土砂や路上の自動車の上に瓦礫の山が出来ています。…そして燃えた車からの黒煙が、瓦礫の中からまだくすぶっているんでしょうか?…何筋か上がっています。…その近くには、消防車、救急車、警察の車、さらに自衛隊の車輌が見えます ! 」

 テレビ映像を見て甲斐路が呟く。

「…これを見る限り、怪獣は地上での移動はほとんどしていないわね」

 僕も画面を見ながら応える。

「確かに…新大橋通りを動いた感じは無いね、被害が1ヶ所に集中してる ! …だけど、これはアレだろ !? …出現してまもなく自衛隊の攻撃にあって、たまらず直ぐにまた地中に逃げたからじゃないの?」

「いや、この怪獣はさほど動作が機敏じゃないと思うわ ! …だけどコンクリート壁をも突き破る硬い外皮には、戦闘ヘリの機銃掃射くらいじゃ歯が立たないわね、だからと言って都心のビル街でミサイルやら火力兵器を使用する訳にも行かない…まんまと地下に潜られて初回は自衛隊の負けね!」

 先生が言った。

 …テレビの上空からの映像は東側へと流れて行き、ビル街から隅田川付近に移動すると、

「あっ、怪獣の攻撃によって撃墜された自衛隊ヘリの残骸でしょうか?…隅田川護岸付近に散らばっているのが見えます ! …まだ黒煙がくすぶっていますね」

 アナウンサーが言った。

 さらに映像が隅田川上空に移ると、

「あっ!…こちらは佃大橋の北側、隅田川の河口付近です、隅田川の左岸近くの水面が大きく渦巻いているのが見えます ! … 怪獣の活動により、この付近の川底部分もしくは護岸低部から地下鉄への浸水が起きたのでしょうか?…」

 アナウンサーの声に甲斐路が頷く。

「間違いないわね… ! 」

 そして画面は再びスタジオの局アナ映像に戻った。

「なお、怪獣による被害状況が明らかになるにつれ、その深刻さは大きく広がりを見せています。…まず交通機関への影響ですが、東京メトロ、都営地下鉄線は、線路への浸水によりほぼ全線で不通、運転取り止めとなっています。その他、JR京葉線は新木場~東京間、JR総武横須賀線は錦糸町~品川間、つくばエクスプレスは北千住~秋葉原間、京成電鉄は立石~押上間、りんかい線は全線で線路状況の安全確認のため現在運転を見合せています ! 」

(…やれやれ、怪獣が出て来るとやっぱり電車が止まる…ってか !? )

 僕は宇都宮の時のことがチラッと頭をよぎり、心中で呟く。

「なお、今回の怪獣災害による犠牲者数は、地下鉄線水没による犠牲者と合わせ、少なくとも死亡者200人以上、重軽傷者、行方不明者は2000人以上にのぼるものと思われます。現在のところ、水没した地下鉄線復旧のメドは全く立っていません ! …こうした状況を踏まえ、古池東京都知事は離島部を除いた都内全域に非常事態宣言を発する意向を示し、氣志田首相は防衛省自衛隊とともに、早急な怪獣対策を講じると宣言しました… ! 」

 僕はテレビ画面を見ながら、

「大変なことになって来たなぁ… ! 政府はやっぱり本腰を入れてあの怪獣をやっつけるつもりですね!」

 と素直に呟いた。

 …次に映像は都内の JRターミナル駅の状況に切り替わり、構内の人々の声を拾っていた。

「えっ !? …怪獣?…怪獣が地下鉄を襲ったんですか?…ウソ~ !! 」

「地下鉄が使えないんで、どうやって家に帰ったら良いのか…いやもう、コッチも混乱してますよ、本当に」

「怪獣 !? …地下に怪獣がいるんですか?…それで地下鉄止まってるんですか?…ニュース?…見てないんで知らないです、やだ、怖~い!」

「ウチの社員が、仕事でいつも地下鉄使ってるんで…心配です!…連絡つかないんですよ今現在 ! 」

「通勤ルートがね、地下鉄なんで…これからどうしようか困ってます ! …でも、どうして水没しちゃったんですかねぇ…」

「早く怪獣やっつけてくれないと、おっかなくて都内に居られないじゃんねぇ!…今こそ自衛隊に頑張ってもらいたいですよ、首都防衛のためにね !! そうでしょ、だって国民を守るためにあるんだから!彼らは」

 …当然ながら、皆困惑と驚きの表情で向けられたマイクに応えていた。

 しかし、怪獣が地上ではなく地下に居て今現在は暴れている訳ではないためか、恐怖をあからさまに訴えている人は思ったより少なかった。


「出来たわ!…報告書」

 テレビを見てた僕たちの横で先生が言った。

「…これをサッサと送信して、乙掛邸でディナーを頂きましょうか!」

 さらに甲斐路と顔を見合せて二人は楽しそうに盛り上がる。

 僕は苦笑いで応えた。

「…だけど1つ気になってることがあるのよね…」

 急に甲斐路が呟いた。

「え、何が?…」

 僕が訊くと、キッパリと応えた。


「どうしてあの時怪獣は地上に出て来たのか?…ってことよ!」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る