第7話 「おぉっ、雷撃弾!…いかにも怪獣の放つ武器って感じ」

 自衛隊のヘリが去り、周辺が静かになると、避難民たちは不安を残しながらもざわつき始めた。

「もう一度怪獣の出現した現場を見たい ! 」

 甲斐路がそう言ったが、

「…それはたぶん無理ね ! あれだけの事件が起きたんだもの、規制線が張られて近寄らせてくれないわよ」

 掛賀先生が応えた。


 …ざわつきながら避難民たちが公園を離れ始める中、僕たちはビルの間の小道を抜けてとりあえず新大橋通りへ歩く。

 新大橋通りに出てみると、地下鉄日比谷線の築地駅へ降りる入り口が近くに見えた。さっき居た入船町交差点は右手方向だ。

 すると、左手側からパトカーと救急車、さらに自衛隊のトラックが走って来て僕たちの前を通り過ぎ、入船町交差点の侵入禁止バリケードの前で止まるのが見えた。

 …先ほど怪獣が出現したあたりは崩れたビルのコンクリート塊や土砂が山になっていて、さらにその前に燃えた車が黒煙をまだくすぶらせているのが遠目に見えた。そしてもちろん怪獣の姿はすでに無い。

「地下鉄は使えないんだったわね…」

 先生が呟いた。

「この辺りは海に近いし、図体のデカイ怪獣が地下をガンガン進んで地下鉄のトンネル内に海水を引き込んじゃったんでしょう、都心の地下鉄は乗り換え用の地下通路であちこち繋がってるんで、海面より低い部分にはほぼ水が回っていると思います」

 僕は先生にそう答えた。

「利用できるのは地上を走る電車とバスだけって訳ね…」

 先生がため息まじりに呟く。

「おかげで私の昼御飯が…もんじゃ焼きを食べるどころじゃ無くなっちゃったじゃないのよぉ!…腹立つ怪獣だわっ !! 」

 甲斐路が空腹まじりに怒る。

「地下鉄や、地上で犠牲になった人がおそらく多数出たと思うぜ!…もんじゃ焼きぐらいで怒るなよ、僕たちが無事だったのは運が良かったんだ」

 僕はそう言ったが、甲斐路の口はトンがったままだった。


 結局僕たちは新大橋通りを突っ切って東京駅まで歩くことにした。

 するとまた上空を何機かのヘリコプターがローター音を響かせて飛んで来た。

「あれはたぶん報道のヘリね… ! 」

 甲斐路が空を見上げて言った。


 …東京駅 (八重洲口) にたどり着いた時には3人とも汗だくになっていた。

 今は7月の中旬過ぎ、夏休み直前といった時期だから当然の暑さだ。

 空腹でやや機嫌の悪くなった甲斐路もいることだし、駅構内のレストランで涼みながら昼食を摂ることにした。


「地下にあんな怪獣が潜んでて、また都内のどこか変電所が襲われるのは困るわねぇ、報告書のボリュームも増やさなきゃならないのに途中で停電にでもなったら大変 ! 」

 オムライスを食べながら先生がそう言うので、

「それなら先生、都内のホテルはキャンセルして、僕と甲斐路のホームタウン、松戸あたりのホテルに変えたらどうですか?」

 僕がそう提案すると、甲斐路も同意の言葉を送った。

「それが良いわ!…そうしよう先生、それにね!」

「え…それにね?」

 最後のワードが引っ掛かって訊くと、

「今日は乙ちゃんのお母様が腕によりをかけて私たちみんなに夕食を用意してくれることになってるの~!」

「あっ !? 」

 何と僕自身すっかり忘れていたことを甲斐路はしっかりと覚えていたのであった。恐ろしい奴だ。しかも先生の分までは計算に入ってないぞ !!

「あら~ !? そうなの?…そういう支度まで用意してくれているなら断るのもかえって失礼よね、じゃあ私、松戸のホテルで報告書をチャチャッと作ってみんなで楽しくお夕食を頂こうかしら!…乙掛くん、ありがとう」

(えっ!先生も即決 !? )

「いえ、あんまり大したものは出せないと思いますが…まぁ、ぜひ」

 僕は心の動揺を顔に出さないよう注意しながら言った。

「ところで先生、報告書って、いつまでに仕上げないといけないの?」

 甲斐路がフォークでハンバーグを口に運びながら訊いた。

「明日の朝、9時までに報告書データを都庁と国土交通省へ送らなきゃならないの」

「じゃあ昼御飯を済ませたら、すぐに松戸に移動しましょう、ここからなら直通で30分足らずです」

 甲斐路が何故か張り切って言った。


 という訳で僕たちは電車で松戸に移動して、甲斐路と僕はいったん家に帰ってシャワーを浴び、着替えてから先生が先ほど予約した松戸駅近くのビジネスホテルに行った。(先生から報告書作成の手助けを頼まれたのだ)


 部屋のドアを開けてもらい、甲斐路と中に入ると、先生はパソコン画面に今日写して来た映像や写真を出していた。

「ねぇ、これを見て!」

 画面を指して先生が言った。

「動画ですね、入船町交差点の…怪獣出現のシーンじゃないですか!」

「そう、そしてこれが出現後…頭の後ろ、背中の部分に大小複数の突起があるの ! …よく見ると分かるんだけど、出現シーンをスロー再生すると、この部分を振動させてるのよ」

「なるほど~!…だからこいつは地中の土壌を崩しながら地下を速く移動出来るのね !!」

 画像に対応して甲斐路が言った。

「そしてエネルギー源は電気!…やっかいな武器としてはあの雷…雷撃弾ですね!」

 僕がそう言うと、甲斐路が

「おぉっ、雷撃弾!…いかにも怪獣の放つ武器って感じ、カッコいい!」

 と言って手を叩いた。













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