第6話 「これじゃあ東京は半身不随じゃないですか!」
突然の怪獣出現のため、もはや入船町交差点はパニックに近い状態だった。
歩道を歩いていた人や、車から脱出した人たちは怪獣を背にして新大橋通りを築地方向へ逃げる。
交差点に走って来た車は渋滞して身動き出来ない状態になり、ドライバーたちは皆車を降りて怪獣の姿を確認し、やはり逃げる。
新大橋通りの道幅いっぱいの巨体を地上に現した怪獣は、頭部の触覚をひっくり返っている車へと伸ばした。
とたんに車体から火花が散り、「ボン ! 」という爆発音とともに炎が上がった。…漏れたガソリンに引火した様子だが、周りの人々から叫び声が上がり、パニックに拍車がかかった。
「あいつのせいだったんですね !? 」
背後での声に僕たちが振り向くと、さっきの地下鉄の運転手さんが立っていた。
「無事だったんですね !? …良かった」
甲斐路がそう言うと、運転手さんは顔を歪めて応えた。
「地下鉄はもうダメです ! …改札口も駅員事務室も水没しました。おそらく他の地下鉄線も同様に水が廻っていると思います ! …乗客に被害が出ているかも知れません」
…そんな僕たちのわきを、人々が走って逃げて行く。
その時、佃大橋の方から白バイがサイレンを鳴らしながら走って来た。…さらに築地の方からも白バイが走って来るのが見えた。
白バイ警官は交差点角に佇む僕たちを見ると、バイクを停めて厳しい顔色で怒鳴った。
「危険だから避難しなさい!…築地川公園へ、早く !! 」
そして、避難先方向を指差した。
「早く逃げましょう!」
地下鉄運転手が僕たちに叫んで、怪獣を撮影していた甲斐路と先生も渋々避難先方向に身体を向けた時、再び背後で「ボン ! 」と車が火を噴いた音が聞こえた。…怪獣は怒っているようだ。
「急ごう!」
僕はそう言って甲斐路の手を引いた。
警官に促されて多くの人々が僕たちと一緒に築地川公園にぞろぞろと向かった。
…と言っても入船町交差点のすぐそばから公園は始まっていて、新大橋通り築地側沿いビル街のすぐ後ろ側に位置する細長い敷地の公園だった。…何かいかにも大都会の中の、ビルの谷間にある公園って感じだ。
…怪獣から逃げる人々の流れに押されるように公園の広場にたどり着くと、上空からバラバラバラバラとヘリコプターの音が聞こえて来た。
「あれは?…」
避難した人々が一斉に上空を見上げる中、誰かが叫んだ。
「自衛隊の戦闘ヘリよ!編隊で来たわ !! 」
甲斐路が言った。
ビル街の空に飛んで来た、通称「アパッチ」と呼ばれる戦闘ヘリは、3機、4機、5機と数を増やして、怪獣への攻撃を開始した。
「ダダダダダダダッ!」
「ダダダダダダッ !! 」
「ガシャーン!」
「ドンッ!」
建ち並ぶビルの向こう側から、戦闘へリが機銃掃射している音や、怪獣が抵抗して周囲の物や車が壊れる音が聞こえて来た。
避難民たちは急遽の戦闘状況に戸惑い、表情に恐怖感を浮かべていた。
怪獣自体の姿はビル群の向こう側なので、自衛隊の攻撃がどれだけ効いているのか、怪獣の反撃があるのか直接見ることは出来ない。…ただ連続する銃撃の音と、物が壊れる音、車か何かが爆発する音がビル街に響いていた。
そして怪獣のいる方向のビル群にモクモクと黒煙が立ち上ぼり、戦闘ヘリは上空を大きく旋回しながら攻撃を繰り返す。
「あ~んもうっ!…自衛隊と怪獣のバトルを直接見たいのにぃっ !! 」
「そうねぇ…だけどこの状態じゃあもう身動きが取れないわ」
甲斐路と先生がこの期に及んでそんな会話をする中、僕はちょっと呆れながら言った。
「何言ってんですか!…そんなの命がいくつあっても足りませんよ !! 」
その時、上空の戦闘ヘリに、青白い稲妻のような光が走ったのが見えた。
「バーン !! 」
その瞬間、もの凄い音が響き、戦闘ヘリの機体から火花が散ってエンジンの辺りから炎と黒煙が吹き出した。
「キャーッ !! 」
公園の避難民から叫び声が上がる。
被災したヘリは僕たちの頭上をふらふらと回りながら、公園隣りの聖路加国際大学の向こう側へ墜落して行き…そして爆発音が聞こえた。
さらに攻撃を続ける他の戦闘ヘリにも稲妻光線が走り、同様に落雷音が響き、2機目は僕たちからは見えない別のビルに墜落して行った。
言うまでも無いけど、今は晴天の昼間、雷じゃなく稲妻光線は怪獣から発せられたものだ。
3機目がやられた時、破損した機体の一部が僕たちの頭上に落ちて来て公園の樹木を直撃、枝がバキリと2本折れて避難民からまた悲鳴が上がる。…ここもあまり安全じゃあない。
「どうやら自衛隊の攻撃はあまり効果が無いようね… ! 」
掛賀先生が呟く。
攻撃中の戦闘ヘリの4機目が稲妻光線にやられた時、さっきの入船町交差点付近のビルが2~3棟、ガラガラと大きく音を立てて崩れ落ちるのが見えた。
立ち上る砂塵と黒煙、そして炎…状況は良く分からないが、残った戦闘ヘリが2機、攻撃をやめ上空を大きく旋回して引き上げて行くのが見えた。
「…怪獣をやっつけたんでしょうか?」
僕が先生にそう訊くと、かぶりを振って甲斐路が答えた。
「違うわ ! …怪獣は地下に潜って逃げたのよ!…そしてまた都内の地下変電所を襲って電気エネルギーを補給するつもりなんだわ !! 」
甲斐路の言葉に先生が頷く。
「…地下鉄は水没、で、都内の電気を奪う地下怪獣って、これじゃあ東京は半身不随じゃないですか!」
思わず僕はそう叫んでいた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます