第4話 「もしこれが生物の仕業なら、どんな奴か想像出来ますか?」
車はトンネルの突き当たりの手前に止まり、僕たちは車を降りてヘルメットを着けた。
甲斐路はホットパンツに黄色い工事用ヘルメットという姿になった訳で、何だか滑稽な感じだった。
「あっ!…乙ちゃん私の格好見て笑ったな?」
「いや、甲斐路…めっちゃ可愛いよ!」
ニヤけ顔を自覚しながら僕は言った。
「これを見て下さい!」
まずは近尾さんが右側のトンネル壁を指差して叫んだ。
見ると、路面から2メートル半くらいの高さの壁面に大きく亀裂が入っていて、割れたコンクリート面からはチョロチョロと地下水が滴り落ちていた。
しかも亀裂面は内側に明らかに盛り上がった状態になっている。
「これは…… !? 」
甲斐路が思わず言葉をもらすと、
「トンネル工事中に突然ゴーン !! と音がして、見たらこの状態になってたんですよ。シールドマシンを回してる中であれだけの音が聞こえたんですからね、それだけの衝撃を外部から受けたということです。…その直後に今度はシールドマシンがバーン !! と破裂するような音とともに火花が散って、モーターから煙が上がり、機械が止まりました…」
近尾さんがそう言って、トンネル前方へ歩いて行き、工事用の白色灯を点けた。
明かりはシールドマシンの内部を照らした。
シールドマシンは、想像してたイメージと違い、まるで丸壁円筒形の鉄工所みたいな印象だった。
正面丸壁の中段に手すりの付いた鉄板通路が横に横断していて、その両端には床へ昇降する階段があった。丸壁の向こうに地中を削る回転刃があるらしい。
そして足元の左右、両壁上部には機械を押し進めるシリンダーやらケーブルやらが見えた。そして手前の鉄柵付き台車には断面がゆるくカーブしたコンクリート板がずらずらと載っていた。
「これはセグメントと言って、掘り進めると同時に周りに組み立ててトンネル壁を造って行く部材です。…見てもらいたいのは、あのモーターです!」
近尾さんが示したのはシールドマシンの中段を横に渡っている通路の下、赤い鉄板でカバーされた機械だった。
「焦げてますね!…発火したんですか?」
掛賀先生がカバー鉄板を触りながら言った。
カバー鉄板には中のモーター本体の放熱のため細かい小窓みたいな隙間が並んでいたけど、黒い焦げ色が幾筋も上に向かって赤い塗色面に模様を作っていた。
「まるで雷が落ちたみたいな超高圧電流が掘削刃に走って火花が散り、モーターが煙を吹いてショートしました ! …これも地中からの…何というか、電撃によるものです。」
近尾さんがマシンの前方を指しながら言った。
「しかし、これが外部からの人為的な工作によるものだとしたら…何の目的で…? トンネル工事への妨害…テロ行為ですかね?」
僕がそう言うと、近尾さんが応えた。
「それは無いと思いますよ。我々への妨害、テロ行為を行うなら、地上の…既設の高速道路を破壊する方が簡単だし、我々へのダメージも大きく、効果的です。…それに、地下を進みコンクリート壁に衝突して破壊するとか、シールドマシンを一発で焼きつかせる超高圧電流を発する装置など、現実的にあり得ません!…相手がどんな奴かは分かりませんが、さっきラジオで言ってた地下発電所の被害も、同じ奴の仕業のような気がしますね。…まぁ私もまだ相手の姿が想像出来てる訳じゃないですけど!」
「…………!」
僕は話を聞きながら、背中にゾクリと冷たい悪寒が走るのを感じていた。
「先生 ! …そうなると変電所の現場も視察に行きたいですね!」
甲斐路が勢い込んでそう言ったが、
「それは無理ね…あっちはT電力と警察で調べるみたいだし、私たちに調査依頼が来てる訳じゃないもの ! 」
掛賀先生は首をふって応えた。
…僕たちはスマホで状況写真をパシャパシャ撮ったあと、再び近尾さんの車に乗って現場を離れた。
Uターンして出口方向へ向かって車を走らせながら、近尾さんが呟くように言った。
「皆さんは…もしこれが生物の仕業なら、どんな奴か想像出来ますか?」
「……………… ! 」
突然の質問に、一瞬重い沈黙が流れたが、とりあえず見た状況から思ったことを言ってみた。
「地中を自由に移動できて…」と僕。
「超高圧電流で攻撃する力があって…」と甲斐路。
「コンクリート壁を壊すほどの硬い外皮をもった巨大生物 !! 」
と先生が締めた。
「…うわ~ ! 」
言った後でみんなであらためて驚嘆の声が上がった。
「…そんな奴が東京の地下に潜んでいるとなると、マジでヤバいですね…東京 ! 」
近尾さんが厳しい表情のまま呟いた。
…僕たち調査隊3人は、和光市駅前で車から降ろしてもらい、近尾さんに手を振って別れた。
そして、地下鉄有楽町線に乗って都心方面に向かった。
「…さっきのトンネル内の調査報告書を作らなきゃならないから、今日は東京のホテルに泊まる予定なんだけど、その前に3人でお昼を食べましょう!」
という先生のお言葉に甘えて、甲斐路の希望で月島のもんじゃ焼きを食べに行くことにしたのである。…もちろん先生の奢りだ。
…ところが、月島のひとつ手前の新富町駅まで来た時、車輌のドアが開いた瞬間、車内の照明が突然消えた。
「えっ !? …いったい何?」
暗くなった車内で一斉にザワつく乗客らの姿を見て、僕は胸にイヤな予感が急激に沸き上がるのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます