第2話 「でかいモグラが散歩でもしてるってか?」
「…いや、C市の陥没事故の原因はまだハッキリしていないの ! …ただ、地下のトンネル工事の影響については、ネキシコ首都圏高速が調査した結果、関連は無いと否定しているのよ。…それで、東京都と国土交通省がちょっと困ってしまって、あるいは未確認生物による可能性もあるんじゃないかって考えて、掛賀先生に調査を依頼したみたい」
…電話で甲斐路はそう説明した。
「未確認生物?…って、地下でまさかでかいモグラが散歩でもしてるってか?」
僕がそう言うと、
「それはまだ分からない…だから、先生から私たちに協力依頼が来たのよ!」
甲斐路が答えた。
「何か…僕たちって怪獣調査隊みたいな感じになりつつあるような気がするなぁ…」
僕がそう呟くと、
「頼りにしてるよ、マイ助手 !! 」
甲斐路が言った。
…というのが水曜日の話なんだけど、翌木曜日にはまたテレビが都内に起きた不気味なニュースを伝えていた。
「本日、午後2時頃、東京都世田谷区、杉並区内で大規模な停電が発生しました。…停電は両区内の1万8千世帯に及び、信号機なども消えたため、大きな混乱が生じています。…T電力によると、原因は地下変電所の機器トラブルとのことで、現在復旧作業を急いでいます」
(…地下変電所?)
僕は例によって母さんと夕食を摂りながら、ニュースキャスターの言葉を聞いていたが、その「地下」というワードが引っ掛かった。
「あら、陥没したり停電したり、都内の人たちは御難続きねぇ…大変だわぁ!」
母さんが箸でおかずをつまみながら他人事のように言った。
…しかし、僕の胸中には何かイヤ~な予感が広がっていた。
翌金曜日、学校内では甲斐路は僕の教室に来ることはなかった。…おそらく一昨日のようなウザったい経験をもうしたくないんだろう…。美少女はツライってところか !
そのかわり僕のスマホにラインが来た。
「明日は乙ちゃんの家に7時半にお迎えに伺います!おばさまにもよろしくね !! 」
(…えっ !? 何でわざわざ迎えに?)
ラインの内容に戸惑いを覚えた僕だが、頭の良い彼女のことだからきっと何か抜け目の無い考えがあってのことに違いない。
(…それにしても、C市の陥没事故と世田谷杉並の停電って何か関連してる原因があるのかなぁ?)
僕は、調査隊活動前にして、すでに好奇心と不安がない混ぜになったような奇妙な興奮を覚えていた。
そして土曜日、朝7時半に甲斐路は愛騎のモンキーZ50 - Jに乗って僕の家にやって来た。
「お早うございま~す!」
元気の良い声を聞いて、僕と母さんが玄関で迎えると、彼女はタンクトップの上に麻布地のブラウスを着て、下はホットパンツ、スニーカー履きといったスタイル、小脇に半キャップのメットを抱えていた。
「あっ、おば様も…お早うございます!今日はちょっと乙掛くんをお借りします」
甲斐路はボブヘアの髪を揺らしながらまるでアイドルのような笑顔で母さんに会釈しつつ言った。
「あら~!甲斐路さん、今日はテルくんとデートなのぉ?…やだ~、テルくん私には何にも言ってくれないんだもの~ ! …今日はどちらに行く予定なのかしらぁ?…甲斐路さんはいつも綺麗で可愛いわねぇ、テルくんと仲良くしてやってね!」
「…やめろよ母さん、恥ずいだろ!…今日は二人で用があって都内に行くんだよ !! 」
甲斐路を見てはしゃぐ母さんにそう言って僕は玄関で靴を急いで履いた。
「あっ、おば様、申し訳ないんですけど私のモンキーをお庭に置かせてもらって良いですか? …乙掛くんと駅から電車に乗って行きますので」
「あぁ、あの可愛いバイクね?…もちろん構わないわよ!…じゃあテルくん、用が済んだら家に帰る前に電話ちょうだい、良いわね?」
という訳で僕と甲斐路は家を出て徒歩で10分程度のJRの駅に向かった。
「ところで、掛賀先生との待ち合わせ場所って、どこなの?」
歩きながら甲斐路に訊くと、
「大宮駅!」
という返事だった。そして逆に甲斐路が僕に質問を返してきた。
「さっきおば様が、家に帰る前に電話ちょうだいって言ってたのは何故?」
「…あぁ、多分夕食を君の分まで作って待つつもりなんだと思うよ!…母さん、君のことめっちゃお気に入りだから…」
僕はちょっと照れながら答えた。
「そっか ! …人気の美少女だもんな私!」
甲斐路はしれっと応えた。
(クソ~ッ! …可愛くねぇっ!けど可愛いっ、だから僕は助手なのかっ !? )
僕はにわかにモヤモヤと胸の中でモヤついた。
新松戸駅からJR武蔵野線、南浦和駅で京浜東北線に乗り換えて、大宮駅には8時44分に到着した。
…駅構内の新幹線改札口前に行くと、ほどなくして掛賀先生が僕たちに笑顔で手を振りながら出て来た。
「先生~っ!」
甲斐路が手を振って応える。
「優ちゃん、乙掛くん、元気だった?」
宇都宮で別れて以来の先生と約4ヶ月ぶりの再会を喜ぶ。
今日の掛賀先生は半袖の柄シャツにデニムパンツスタイル、リュックを背負っていて、当然ながら変わらずに美人だった。
「じゃ、行きましょう!」
急に表情を引き締めて先生が言った。
「え、…どこに向かうんですか?」
僕が訊くと、先生が出口改札に歩き出しながら答えた。
「C市の地下トンネルの現場よ、…この駅にネキシコ首都圏高速工事担当の近尾さんという方が迎えに来てるはずなの ! 」
…僕は一気に緊張感の高まりを感じ始めていた。
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