怪獣少女 甲斐路優2 ("地底雷獣 FC" を撃て ! )

森緒 源

第1話 「陥没事故の原因って…まさか !? 」

「本日午後1時20分頃、東京都C市の住宅街で道路が陥没し、走行中の車が落下する事故がありました。…なお、同市内の道路陥没は今月に入ってすでに3件発生しており、C市では地下に建設中の高速道路トンネル工事との関連を含め、原因の調査にあたっています」

 …僕は家で母さんと一緒に夕食をとりながらテレビのニュースをそれとなく見ていた。

「…いきなり家の前の道路が陥没するなんて、怖いわねぇ。車ごと落っこちた人、可哀想だわぁ ! …だいたい東京は地下をほじくり過ぎよねぇ、地面の下がトンネルとか空洞だらけなんだもの、こういうことも起きるわよ!」

 テレビ画面を見ながら母さんが言った。

「地上に空いてる土地が無いんだからしょうがないよ。…それでもみんな東京やその周辺に住みたがるんだからさ、もう鉄道も道路も地下に造るしかないんだよ!…例えば東京じゃあT電力の変電所なんかも、今は地下に造られてるんだぜ。こないだ SNS でたまたま見たんだけどさ」

 僕がそう応えると、母さんは急に話題を変えて僕に迫って来た。

「ところでテルくん、甲斐路さんとはその後うまく行ってるの?…いや~、テルくんにあんな可愛いガールフレンドが出来るなんてねぇ!綺麗で賢そうだし、お父さんは考古学の先生だっけ?…偉いわねぇ。もう母さん嬉しくって!…あんな娘がお嫁さんになってくれたら素敵だわぁ…一緒にお買い物とかお出掛けとか、ウフッ !! 」

「ちょっと母さん!…勝手に盛り上がってるようだけど、彼女とはそんなんじゃないから !! …ちょっとした研究って言うか、趣味つながりの友だち関係ってだけだからね!」

 僕はテレビ画面から目をはなして、母さんを制するように言った。

 …実際のところ、甲斐路 優にとって僕、乙掛 輝男というオトコは残念ながらとても彼氏などと呼べるような甘い存在ではない。彼女は僕のことを「助手」と言っている。

 しかし最近は不思議なことに僕自身、彼女の「助手」という立場に慣れて来たというか、悪くない存在と思えて来つつあった。

 なぜなら最近学校でそう思える出来事があったからだ。


 僕と甲斐路は現在高校三年生になった。

 先日、一学期の期末試験が終わって、僕は弁当を食べ終えた昼休みを、教室で寛いでいた。

「乙ちゃ~ん!」

 へよ~んと机に突っ伏していると、隣のクラスから、甲斐路が元気良く叫んで僕のところへやって来た。

 ところが、顔を上げた僕の前にクラスメートの高満唯男 (たかみつただお) がズイッとシャシャリ出て来たのである。

 こいつは二年生の終わりまでバスケット部に所属していた奴で、ジャニーズの亀梨似のイケメンながら態度が高慢でちょっとイケスカナイ男だ。しかも不愉快なことに女子に人気がある。

「甲斐路さん、ちょっと良い?」

 僕の前を遮るように立って、高満は彼女にニヤケた笑顔で話しかけた。

 …甲斐路はスッ ! と冷めた表情になって応えた。

「良くない ! …私、乙掛くんに用があって来てるから」

「えっ!何、君たち付き合ってるの?…まさかの恋愛中 !? 」

 高満が無遠慮に言葉を絡ませる。

「恋愛関係ではないわね!…それ以外の用事!今の君は邪魔 !! 」

 甲斐路がキッパリと言った。

「それならその用事をサッサと済ませたら俺の方の用事を聞いてほしいな!」

 高満は強気のニタリ顔で続けた。

「断る !! 」

「えっ !? 」

 …甲斐路の即答に表情が固まった高満を見て、僕は思わず「ププッ!」と吹き出してしまった。

「いきなりそれは無いだろ!君は乙掛のカノジョでもないし、ならこんな平凡な目立たない奴より俺との方が良い関係になれると思うぜ!」

 高満がムキになって食い下がる。

「ふ~ん、じゃあ君は…え~と、誰?」

「高満だ!」

「…高満くんは、人類を救ったことある?」

「は?……ちょっと言ってる意味が分からないんだけど」

「言葉どおりの意味よ!…ちなみに乙掛くんは人類を救ったことがあるわよ」

「こいつが?…まぁいいや、そんなことより今度の週末、俺と付き合わないか?…プロバスケットボールの観戦チケットが二枚あるんだ!プロのゲームはカッケ~ぜ!」

 …僕は二人の会話を途中から楽しんで見ていた。

「高満くんの用事ってのはそれ?…なぁんだ、やっぱり予想どおりの平凡な男の子だったわね!…それは目立たない平凡な女子を誘って行けば良いと思うわ !! …私はバスケットボールに興味無いし、君が考えてるような平凡な女子じゃないから!」

「な、…何 !? 」

 再び固まった高満の肩越しに、甲斐路は僕に、

「ゴメンね乙ちゃん、後で電話する!」

 と言ってキビスを返した。

「ちょっと、待ってよ!」

 高満が叫んだが、僕は奴の手を掴んで言った。

「よせ、高満!…ゲームオーバーだ !! 」

 高満は僕に振り返って舌打ちしながら忌々しげに、

「チッ、人類を救ったって…ウルトラマンごっこかよ!」

 と吐き捨てたが、ふて腐れたように自分の席に戻った。


 …その日の夕方、自宅に戻った僕のスマホに甲斐路から着信が来た。

「乙ちゃん、今度の週末、掛賀先生と一緒に都内に調査に行くわよ!…ほら、例のC市の道路陥没事故の件 !! 」

 甲斐路の唐突な話の内容に、

「えっ!掛賀先生が一緒って…陥没事故の原因って…まさか !? 」

 僕は思わず叫んでいた…!










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